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第19話 宣戦布告

会(弓の弦を引き切った状態)を維持し続けて30秒、透矢はついに30m先でボーっと突っ立っているオークの後頭部へ向けて矢を放った。


透矢の放った矢は緩い螺旋回転をしながら狙い違わずオークの後頭部へと吸い込まれて行き、ドシュッ!という矢が突き刺さる効果音と共にクリティカルヒットの表示が現れた。


「グオォー!」


憐れなオークは断末魔の悲鳴を上げながら、光の粒となって消滅した。


「・・・す、凄いです!本当にオークを一撃で倒せるなんて・・・。あ、いえ!決して透矢さんを疑っていた訳ではないのですが・・・。と、ところで、透矢さんは今何をしたんですか?いくら後頭部に当ててクリティカルヒットさせたにしたって、一撃で倒すなんて・・・」


たった今自分の目の前で行われた光景にも関わらず、綾乃は何が起こったのかまるで分からなかった。


「何をしたと聞かれてもな・・・?俺がやったことと言えば、精々オークのドタマに矢をぶち込んでやっただけで、残りは武器の性能のお陰だぜ?」


透矢は興奮状態の綾乃に若干引いていた。


「そんなにその弓矢の攻撃力は高いんですか?でも強い武器は装備するのにレベル制限があるし、何よりも凄く高いじゃないですか?その弓いったいいくらしたんですか?」


「これか?これは確か10万Gだったかな?」


透矢は事も無げに言い放った。


「じゅ、10万G・・・ですか?私がこの前買った鞭なんか5000Gですよ?レベル14のアリスのレイピアですら1万Gです。その10倍ですか・・・それなら確かに納得の威力です」


透矢の答えに、綾乃は驚き半分呆れ半分な表情を浮かべていた。


「いや、確かにこの弓の攻撃力は高いが、流石にそれだけじゃオークを一撃で屠るのは厳しい。クリティカルでも精々7割ってところだろうな」


透矢の弓の値段を聞いてうんうん頷いている綾乃に、透矢は否定の言葉を告げた。


「では、どーやって倒してんですか?あっ!もしかして、ずっと撃たずに構えていたのと何か関係があるんですか?」


「そうだ。実はこの弓には『チャージ』ってスキルが付与されていてな。10秒溜める毎に10%攻撃力が上昇するんだ」


透矢は綾乃の予想を肯定し、スキルの詳細を説明した。


「へぇ、弓にはそんなスキルがあったんですねぇ。とゆーことは、さっきの攻撃は30%も攻撃力が上昇した一撃だった訳ですか」


綾乃は、先ほど透矢が弓を引いたまま身構えていた時間を思い出して確認した。


「そーゆーことだ。それよりも、ちゃんと経験値が入ってるかステータスを確認してみろよ?」


「あ、はい・・・ってレベル1から一気にレベル3になってるんですけど!?」


透矢に促された綾乃がステータスを開いてレベル欄を見ると、そこにはレベル3(5/50)と記されていた。


「オークの経験値は100だ。今は俺と綾乃の2人パーティだから、半分の50が綾乃に入ったことになる。2ヶ月も前だから若干うろ覚えだが、確かレベル2になるのに必要な経験値は15で、レベル3は30だった筈だから、レベル3になってるってことは、ちゃんと半分に分割さてたようだな」


「はい。今は5/50になってるので、もう1匹倒せばレベル4に上げれますね」


「まぁ景気良くレベルが上がるのは最初だけで、どんどん必要経験値は跳ね上がって行くんだがな?」


透矢は嬉しそうな綾乃の頭を撫でながら、乾いた笑いを漏らした。


「ですね・・・でも、本当に良いんでしょうか?こんな寄生プレイみたいな方法で私のレベルを上げるよりも、ソロ狩りして透矢さんのレベル上げを優先した方が良いのでは・・・?」


綾乃は申し訳なさそうな顔をしながら、透矢の顔を見つめてきた。


「気にするな。今回の勝利条件がどーなるかはまだ分からないが、大方どちらかのマスターがPKされるか、片方のメンバーが全滅するまでのどっちかだろう。前者なら強い護衛が1人でも多く必要だし、後者だったとしても、やっぱり強いやつが多いに越したことはない」


「・・・では、鞭が装備出来るようになるレベル10になるまでは透矢さんに甘えさせて貰います。その代わり、それ以降はパーティを解散して、透矢さん自身のレベルUPに専念して下さい。私のレベルが2、3上がるよりも、その方が『女狩り』との戦いで役に立つ筈です」


透矢の説明を聞き、綾乃は妥協点を示した。


「分かった。綾乃がそこまで言うなら、俺が付き合うのはレベル10までにしよう。しかし、レベル10まで良いなら、MOBの湧き次第では3日と言わず今日中に達成出来るかも知れないぞ?」


透矢は当初レベル12まで上げるつもりでいたので3日掛かると予想していたが、レベル10までということなら話は大分変わって来る。


「・・・私、レベル10になるのに1ヶ月くらい掛かったんですけど?」


綾乃は透矢の言葉を聞いて耳を疑った。


「そりゃそーだろ。コボルトは経験値2だし、ゴブリンは5だ。始めたばっかの頃は戦闘に慣れてないし、入る経験値も少ないしで、当然時間は掛かるさ。その点オークから入る経験値はゴブリンの20倍だから、俺と分割しても10倍だ。しかも見つけさえすれば、30秒でケリが付く」


「・・・何だか凄いズルをしているような気がしてきました・・・」


透矢の身も蓋も無い言葉に綾乃は唖然としていた。


「別にそんなことはないだろう?それならパーティ内で均等に分配せずに、MOBに与えたダメージ量とかで分配するシステムになってる筈だ。それに、死んだらレベル1に戻るってのに、その都度コボルトから狩り直しなんて耐えられるか?」


「・・・それもそーですね」


もう一度コボルトとの1対1から始めて1ヶ月掛けてレベル10まで上げろと言われると気が重くなることは、綾乃にも否定出来なかった。


「さて、誰かさんが寝坊して出発が遅れたせいで既に時刻は9時近いが、それでも日が沈むまでは9時間以上ある。10分に1体くらいのペースで見つけて狩って行ければ、暗くなる前に帰れる筈だ」


「透矢さん酷いです。折角忘れてたのに・・・」


綾乃は朝の絶望感を思い出して、地面にくず折れた。


「すまんすまん。それにしても、本当に綾乃は朝が弱かったんだな?まさか、目覚まし10個仕掛けても起きられないとは思わなかったぞ?」


「・・・透矢さんに貰うご褒美を何にしようか考えてたら、なかなか眠れなかったんです」


「ご褒美で釣る作戦が裏目に出たか・・・あいつらは大丈夫だろーな?」


透矢は昨夜の様子を思い出し、町に残してきた3人のことが若干心配になり、町の方へ顔を向けた。




透矢が町を見ているまさにその時『(アイアン)処女(メイデン)』のギルドホームに623人の少女たちが集合していた。


「みんな、急な呼び出しに応じてくれてありがとう。実は、今から大事な話があるの。もしこの話を聞いてギルドを抜けたくなった子がいたら遠慮なく言って頂戴」


清香は前置きをしてから本題を話し始めた。


「これより『(アイアン)処女(メイデン)』は『女狩り』に対し『ギルド間抗争』を行います。絶対に勝てる保障なんて無いし、負けたらどんな目に遭わされるかなんて想像もしたくないけれど、それでも今現在私たち以外にやつらと同等に戦えるギルドは存在しないわ。これ以上やつらの人数が増える前に倒さないと、これからログインしてくる何も知らない9000人の女の子の身まで危ないわ。だから、どうかみんなの力を私に貸して下さい!」


清香はアリスと綾乃を除いた全メンバー619人の少女たちに深く頭を下げた。


「・・・清香さん、今更何を言ってるんですか?」


「そうですよ。私たちは自分の身を守る為だけに『(アイアン)処女(メイデン)』に入った訳じゃないんですよ?」


「『女狩り』の被害者をこれ以上出さない為に『ギルド間抗争』をする必要があるのなら、自分のカラダくらいいくらでも賭けますよ!」


清香の言葉を静かに聞いていた少女たちは、次々と参戦の意志を示した。


「貴女たち・・・本当に良いの?」


「当たり前ですよ!」


「むしろ、いつなったら言ってくれるんだろうって皆で話してたくらいなんですから!」


「ここで怖気付くようなら『(アイアン)処女(メイデン)』のマスター失格です!みんなでリコールしちゃいますよ?」


少女たちは未だに躊躇う清香の背中を押すように鼓舞した。


「・・・ありがとうみんな。絶対に勝って自由を手に入れましょう!」


「「「おぉー!」」」


清香は目に薄っすらと涙を滲ませながら剣を掲げて必勝を誓い、少女たちも一斉に各々の武器を掲げて声を張り上げた。


そしてその30分後、清香は護衛3名を引き連れて『調停ギルド』本部に赴き『女狩り』との『ギルド間抗争』を申請した。




清香が『ギルド間抗争』を申請した直後、とあるギルドホームの1室にメッセージの着信を知らせる音が鳴り響いた。


男はそのメッセージを読み、続いて何者かにメッセージを送った・・・が、いくら待っても返事は来なかった。


「ちっ・・・お前、隣の部屋で寝てる神埼を起こしに行って来い!」


男は女に向かって、苛立った様子で指示を出した。


「わ、私が神埼様を起こすのですか?しかし、あの方は私たちNPCがお嫌いだったかと・・・」


「んなことは知ってるよ!『狩りの時間だ』と言えば流石に起きる筈だ。さっさと行け」


奴隷に口ごたえされた男は女の頬をバシッと叩き、再度命令した。


「・・・かしこまりました」


女はどんな些細なことでも神埼に関わるのは嫌だったが、奴隷の身分で主に逆らえる筈もなかった。


女はバスローブだけを着て部屋を出て行き、神埼が眠る隣の部屋のドアをノックした。


「神埼様。マスターが『狩りの時間』だと仰っております」


「・・・ふわぁ・・・うるせぇなぁ・・・オッサンにあと1時間待てっつっとけ」


ノックと声によって起こされた神埼は、苛立ち気味に返事をして、再び眠りに付いた。


「・・・かしこまりました」


女はこれ以上催促したら自分の身が危ないと判断し、小さな声で返事をして元の部屋に戻って行った。


「戻ったか・・・って、おい!神埼はどーした?部屋にいなかったのか?」


女が1人で戻って来たので、男は神埼が不在だったのだと勘違いした。


「いえ、それが・・・体調が優れないのであと1時間ほど待って欲しいと伝えるようにと言伝を預かって参りました」


まさか神埼の言葉をそのまま伝えられる訳もなく、女は言葉を選びながら主に報告した。


「・・・ったく、しょーがねぇやつだな・・・まぁいい、なら神埼が来るまでさっきの続きだ」


「はい・・・失礼します」


男に言われるがまま、女は男が寝そべるベッドの上に上った。




そして3時間後、漸く起きて来た神埼が男の部屋にノックもせずに入ると、そこには気絶している女と男の姿があった。


「・・・おい、用事があるんじゃなかったのか?ねぇなら帰るぞ?」


自分の存在に気付かない男に、神埼は苛立った様子で声を掛けた。


「・・・やっと来たか。何が1時間待てだ?もう3時間は経ってるじゃねーか!」


「細かいことを気にするなよ?それよりも、その女の言ってたことは本当なのか?」


文句を言う男に、神埼はヒラヒラと手を振りながら宥め、うろ覚えの女の報告を確認した。


「あぁ、コピペして転送するから確認してみろ」


「・・・もう少し先だと思ったが、意外と決断が早かったな」


男か送られてきたメッセージを読みながら、神埼は予想外だと告げた。


「人数は向こうの方が倍近くいるからな。イケると思ったんじゃないのか?それよりも『例の作戦』は本当に上手く行くだろーな?」


「大丈夫さ。既に魚は餌に喰い付いた。あとは釣り上げるだけだ。そんな心配してる暇があったら、これから喋る演説の内容でも考えとけ。行くぞ。付いて来い」


心配そうな男に対して神埼は鬱陶しそうに指示を出し、自分が所属するギルドのマスターである男よりも先に部屋から出て行こうとした。


「ちょっと待ってくれよ!これから大事な場面だってのに、流石に裸じゃ威厳に欠けるだろーが?」


神埼が背を向けると男は慌てて女を放り捨ててベッドから降り、床に脱ぎ散らかしてあった己の服を手に取りながら呼び止めた。


「・・・お前に威厳なんかあったか?所詮表向きのお飾りマスターだろーが?」


神埼は背中に掛けられた台詞に引っ掛かりを覚えて立ち止まり、振り返って男の顔を見ながら言った。


「それを言うなよ?これでもお前が入るまではそれなりに仕切ってたんだぜ?」


男は憮然としながら神崎に反論した。


「たった2、30人だった頃の話だろーが?『女狩り』をここまででかくしたのは誰だと思ってんだ?」


神埼は男を睨み付けて黙らせた。


「・・・分かってるよ。だからお前の我が儘には目を瞑ってるじゃねーか?一週間くらい前にも勝手にギルドの金を使い込んで奴隷NPCを買って来たかと思ったら、その日の内にどっかの男どもにタダでくれてやったとか言ってたが、俺の権限で無罪放免にしてやっただろ?」


「あー、そーいやそんな事もあったよーな・・・無かったよーな?」


神埼は底に眠る記憶を救い上げようとして・・・失敗した。


「あったんだよ!兎も角、ウチの実質的な頭はお前なんだ。もう少し自覚を持ってくれよ?」


「・・・バカかお前は?俺たちはただの無法者だ。団結なんて出来る訳ねーだろ?俺たちに間にあるのは利害関係(オンナ)だけだ」


「それもそーだが・・・」


神埼に言い包められた男はそれきり黙ってしまった。


「分かったら、さっさと付いて来い。飾りだろーが何だろーが、一応はお前がマスターなんだからな」


「・・・準備出来たぜ!おらっ!いつまで寝てやがる?さっさと起きろ!」


男はベッドに倒れている女に鎖付きの首輪を掛け、引っ張り上げて無理矢理立たせた。


「・・・あ?その女も連れて行くのか?」


「『女狩り』のマスターたる者、奴隷くらい連れて歩かねーとな?見栄えってのは大事なんだぜ?」


「・・・あっそ」


まだヤリ足りないのか、女の胸をニヤニヤしながら揉みしだきつつ歩く男を神埼は無感情にチラリと見て、それきり視線を向けることなく階下に向かって歩き始めた。




「野郎どもー!ついに『(アイアン)処女(メイデン)』の(メス)を纏めて喰らう日が来たぞー!」


「「「「「うおぉー!」」」」」


男が、偶々ホームにいた数十人の男たちに向かって開戦を告げると、男たちは待ってましたとばかりに雄叫びのような声を張り上げた。


「明日の正午、俺の代理として神埼が交渉に行く。それまでに全員に召集を掛けろ!」


「「「「「うおぉー!」」」」」


「勝てば600人の(メス)を喰い放題だ!気合入れろー!」


「「「「「うおぉー!」」」」」


男たちは興奮し、右手を高く突き上げていつまでも雄叫びのような声を張り上げていた。


「・・・戦闘もセックスも下手なくせに、アジるのだけは得意な男だ・・・」


男たちと共に雄叫びを上げる(マスター)を、神埼は離れた場所から冷めた目で見つめていた。

主人公交代のお知らせwww


神埼を出してからというもの、透矢が喰われてる気がしてならないんだが?w




装備に関してですが、大金積んで強力な武器や防具を手に入れても、レベル制限に引っ掛かると装備出来ないという設定です。


透矢が現在装備している弓のスキルは『チャージLv1』なので、10秒で10%UPで、最大チャージ時間は30秒という設定です。


ついでに言うと、チャージ中は上半身しか動かせないので、MOBの攻撃を避けながら戦うのは非常に困難です。

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