第18話 ギルド間抗争
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ルールを若干変更しました。
清香との交渉も無事に終わり、透矢は後回しにしていた『ギルド間抗争』の大まかな流れとルールのレクチャーを受けていた。
【ギルド間抗争】
1.ギルドマスターがNPCの運営する『調停ギルド』へ『ギルド間抗争』の開戦申請をすると『調停ギルド』から相手側のギルドマスターへメッセージが送られる。
2.後日『調停ギルド』本部にてギルドマスター同士(代理も可。付き添いは2名まで)で会談を行い、両マスターが開戦に同意した場合、3日後の正午に戦闘が開始される。(会談を欠席した場合は無条件敗北となる)
3.『ギルド間抗争』を申請した側のギルドは、開戦費用として最低1万G以上を用意しなければならない。(上限なし)
4.この開戦費用は、敵対ギルドが開戦に応じた場合、その額の90%が支払われることになる。(残りの10%は『調停ギルド』に手数料として支払われる)
5.抗争を挑まれたギルドは、開戦費用と同額を支払うことでこれを拒否出来る。(その場合30日間の猶予が与えられ、それを過ぎたら再び同じギルドから抗争を申請される可能性がある)
6.会談で話し合われるのは、勝利した際に相手ギルドへ要求するモノである。
7.これはある程度釣り合いが取れていなければならない。どちらかに偏りがある場合『調停ギルド』のNPCが妥当なラインを提示する。(但し、両ギルドマスターが同意した場合は不問とする)
8.戦闘方式は抗争を挑まれた側が設定出来る。(助っ人にギルドの代表者として1対1の戦闘を行わせることも可能)
9.双方のギルドメンバーは相手側ギルドメンバーへ開戦前に如何なる攻撃もしてはならない。(これに違反した場合は反則負けとなり、相手の要求に強制的に従わされる)
10.戦闘参加人数が少ない場合は町の中にある闘技場で行われ、人数が多い場合は町の外のフィールドで行われる。(戦闘フィールドの範囲は参加者の合計人数で決定される。場所はランダムで『ギルド間抗争』中はMOBは出現しない)
11.抗争の模様は町の各所にあるスクリーンで放送される。(NPCによる賭博ギルドが賭けを取り仕切っている)
12.両ギルドに所属していないプレイヤーも助っ人として参戦出来る。(助っ人枠の上限は正規メンバーの1/10まで。但し、申請後に敵対ギルドのメンバーへ攻撃していた場合は参戦出来ない)
13.プレイヤーがPKされた場合、30分間のデスペナルティの後、強制的に町のどこかへ転送される。(その場での復活は出来ない。また、戻って来ても戦闘フィールドの中には入れない)
14.リザインするか戦闘フィールドの外に出ると強制的に町へ転送される。(13同様、戻って来ても戦闘フィールドの中には入れない)
15.勝利条件が満たされると『ギルド間抗争』終了となり、自分たちのギルドホームに即時転送される。(全員が入り切れない場合は、ホーム付近に転送される)
16.『ギルド間抗争』の敗者が敗北時の制約を破った場合、そのプレイヤーは今後『犯罪者プレイヤー』に設定される。
17.『犯罪者プレイヤー』はNPCショップの利用が出来なくなるので、装備やアイテムの購入だけでなく、食事や寝床にすら困ることになる。
18.さらに『犯罪者プレイヤー』はレベルによって懸賞金が設定され、プレイヤーだけでなくNPCにも狙われ続けることになる。
「・・・こんなところかしら?」
アリスは清香や綾乃に時折助けられながらも、透矢に『ギルド間抗争』の説明を行った。
「・・・なるほどな。大まかな流れは把握出来た。それで、もう申請は済んでいるのか?」
透矢は清香の方に顔を向けて質問をした。
「いえ、明日ホームでみんなに話すつもりです。そこでみんなの同意が得られたら『調停ギルド』に申請しに行きます」
「そーか。なら念の為に、アリスと舞と雫を護衛に連れて行け。万が一申請する前にPKされちまったら、元も子もないないからな」
「わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます。アリス、舞さん、雫さん、よろしくお願いします」
「任せて下さい!清香さんには指一本触れされません!」
「私も全力で守ります!」
「ダメージ受けたら私が『ヒール』してあげる!」
清香に明日の護衛を任された3人は、今すぐにでも護衛を開始しそうな勢いだった。
「・・・ところで、貴方は明日どちらへ?」
「俺は綾乃のレベル上げに付き合うつもりだ。幹部がいつまでも低レベルのままじゃ困るだろ?」
清香に明日の予定を聞かれた透矢は、綾乃の腰を抱き寄せてにやりと笑った。
「・・・綾乃は今後のことはさて置き、今はまだ『鉄の処女』のメンバーです。くれぐれも不純な行為などしないようにお願いしますね?」
清香は若干殺気を漏れ出しながら、綾乃の腰に手を回している透矢を睨んだ。
「わかってるさ。『女狩り』を潰すまでは2人に手を出さないと約束するよ。それに、抗争前にレベルを下げる訳にもいかないしな?」
「・・・うぅ・・・」
「・・・もぅ、透矢さんたら・・・」
透矢が2人に向かって微笑むと、アリスは顔を真っ赤にして俯き、綾乃は赤くなった顔を隠すように透矢の胸板にしな垂れ掛かった。
「・・・兎に角、そういうことであれば、綾乃のことはお任せします」
清香はゴホンと咳払いをしてアリスと綾乃の浮付いた空気を払拭した後、透矢に綾乃の面倒を頼んだ。
「あぁ、開戦までに元のレベルまで上げておきたいからな」
「・・・3、4日でレベル12まで上げるつもりですか?それはいくらなんでも不可能ではありませんか?」
清香は透矢の発言を聞き、無理だと否定した。
「いや、俺と2人パーティを組んで、オークやら大毒蜘蛛やらを狩りまくれば、ギリギリ行ける筈だ」
「・・・わかりました。ですが、無茶をして貴方までレベルが下がるようなことだけは避けて下さいね?貴方は私たちの切り札なのですから」
清香は心配そうに透矢の顔を見つめた。
「大丈夫さ。アンタもレベル15なら知ってるだろ?サーチがあれば早々MOBやプレイヤーに囲まれる心配はない」
「その通りですが、それでも油断は禁物ですよ?」
清香はやんちゃな弟を叱るかのように窘めた。
「あぁ、アンタも頑張ってギルドメンバーを説得してくれよな?」
「はい。絶対に勝てるなどという保障はありませんが、彼女たちならきっと分かってくれると信じています」
「そうか。・・・さて、俺らはそろそろ帰るから、その前にアンタとフレンド登録させて貰っても良いか?毎回アリスや綾乃経由で連絡取るのも面倒だし」
透矢は仲間を信頼している清香のことを信じることにし、これ以上言う必要は無いと判断した。
「そうですね」
清香は透矢の提案に同意し、透矢、舞、雫の3人とフレンド登録を行った。
「綾乃、明日は朝6時から狩りを開始するぞ?5時半くらいに宿屋に迎えに行くから、後で座標を送っておいてくれ」
「・・・ご、5時半ですか?そんなに早く起きられるかな?」
綾乃は透矢の指定した時間に驚き、不安を露わにした。
「ちゃんと起きられたらご褒美をやるから頑張れ」
「・・・ご褒美ですか?なら絶対に起きます!いえむしろ、寝ないで待ってます!」
ご褒美という言葉に反応し、綾乃は興奮気味に身を乗り出した。
「いや、寝ろよ?明日は日が沈むまで狩り三昧なんだ。徹夜なんかしたら途中でバテるぞ?」
「わかりました。では今から目覚まし10個買って来ます!」
透矢がピシャリと窘めると、綾乃は目覚ましを買いに部屋を出て行こうとした。
「ちょっと待て!せめて誰か1人くらい護衛を連れて行けよ?・・・アリス、頼めるか?」
「・・・綾乃だけご褒美貰えるのってズルくない?」
透矢が部屋を1人で出て行こうとする綾乃を捕まえ、アリスに護衛を頼もうとすると、肯定でも否定でもなく、不満気な台詞が返って来た。
「・・・わかった。なら、お前らには清香を無事に守り切れたら、ご褒美をやるよ」
透矢は、アリスの不満一杯の台詞と舞と雫の無言の圧力に負け、3人にもご褒美の約束をさせられてしまった。
「・・・ここは流れ的に、私も何かおねだりした方が良いのでしょうか?」
すると、ついに清香までそんなことを言い始めてしまった。
「・・・もう好きにしてくれ・・・」
まさかの予想外の人物までおねだり合戦に参加して来てしまい、透矢はもう如何にでもなれといった気分だった。
「では、私はギルドのみんなを説得出来たらということで」
「・・・あぁ、それでモチベーションが欠片でも上がるなら、どうぞご自由に・・・」
「約束ですよ?それにしても、男性にご褒美を貰うなんて初めてなので、ドキドキしてしまいますね。何をして頂こうかしら?」
「・・・今度こそ帰るからな?」
ご褒美に想いを馳せている3人を放置し、透矢は疲れた様子で舞と雫を連れて部屋を出て行った。
翌朝、目覚ましを10個も仕掛けたにも関わらず、結局綾乃は予定時間に起床することが出来なかった。
そして、綾乃が慌ててロビーに下りて来た頃には既に7時を回っており、ガックリと床に手を付いて項垂れる様子が余りにも不憫だったので、透矢はご褒美代わりにおはようのキスをしてやることになるのだが、それはまた別のお話。