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第15話 ファーストキス

「おらっ!次はてめぇだ!」


アリスたちの下を離れて歩き続けること数分、透矢は漸く目的地に到着した。


そして金とアイテムを根こそぎ奪い取った後に、次々と裸の男たちをゴブリンの巣に放り込んでいった。


穴の中は薄暗いので外からでは良く見えないが、投げ込む度に巣穴の奥から男たちの泣き叫ぶ声が聞こえて来るので、無事ゴブリン♀にも気に入って貰えているようだ。


「ちょ、待ってくれよ!話が違うじゃねーか?見逃してくれるんじゃなかったのか?」


いよいよ最後の1人を放り込もうと、透矢が男の首筋を掴んだところで、男は必死になって命乞いしてきた。


「・・・あぁーん?そんなもん知ったことか。見逃すと言ったのは舞であって俺じゃねーだろーが?」


「そ、そんな・・・」


透矢は潰れたゴキブリでも見るかのような目で男を見下ろし、男は全く取り付く島のない透矢に絶句した。


「俺がいつか喰う予定だった女を散々横から掻っ攫っといて、今更命乞いしてんじゃねぇぞ?そんなに穴に突っ込みたけりゃ好きなだけヤって来いよ?てめぇらにはゴブリンの穴がお似合いだぜ?」


透矢は吐き捨てるようにそう言うと、男の体を力一杯巣穴の奥深く目掛けて放り込んだ。


「・・・う、うわぁー!・・・・・・糞っ!あの野郎もあの女も、今度会ったらぜってぇ殺してやる!」


巣穴に勢い良く投げ込まれ盛大に地面を転がった男は、透矢と舞の顔を思い出しながら復讐を誓った。


「・・・ひ、ひぃ・・・こっちに来るなぁ!嫌だぁー!やめてくれぇー!」


だがしかし、デスペナによって身動きの出来ない男は瞬時にゴブリンに見つかってしまい、自分を見て発情した多数のゴブリン♀に群がられ、デスペナの明ける20分弱の間ゴブリン♀に悪夢のような性交を強いられ続けた結果、透矢たちの顔は記憶から綺麗さっぱり消滅してしまうのだった。


「今度町で会ったら、ゴブリンの具合はどーだったか教えてくれよなぁ?」


透矢は男の絶叫を確認すると、聞こえていないのを承知の上で皮肉を口にした。


「さて、用事も済んだし、さっさとアリスたちの所に戻るか」


作業を終え男たちに対する興味を完全に失った透矢は、既に彼らの顔すら覚えてはいなかった。




「お帰りなさいませ、透矢様」


「お兄ちゃん、おかえりー」


フレンドリストのサーチ機能によって透矢の帰還にいち早く気付いていた舞と雫は、ほぼ同時に透矢に声を掛けた。


「・・・あっ・・・お、おかえりなさい・・・と、透矢くん」


舞と雫が透矢に声を掛けるのを目にし、アリスも負けじと透矢に声を掛けるのだった。


「あぁ、ただいま。1人残らずゴブリンの巣に放り込んで来たぜ。やつら今頃ゴブリンとしっぽりお楽しみ中だろうぜ?」


透矢はアリスと綾乃たちに向かってにやりと笑って見せた。


「透矢さん、この度は本当にありがとうございました」


アリスたちのお陰で少しは気分が良くなったらしい綾乃は、透矢に笑顔を見せながらお礼を言った。


「気にするな。こう言っちゃーなんだが、アンタたちを助けたのは、アリスを助けるついでみたいなもんだったからな」


「ふふっ、正直なんですね?透矢さんにこんなに想って貰えるなんて、アリスが羨ましいわね?」


綾乃は自分たちを助けたのは事のついでの偶然でしかないと面と向かって言われたにも関わらず、不快感を表すどころかアリスをからかって笑みを浮かべていた。


「ちょっと、綾乃?・・・い、いきなり何を言い出すのよ?」


突然妙なことを言い出した綾乃に、アリスは驚いた。


「だって、透矢さんは『アリスだけを』助けに来たのよ?普通こーゆー時、女の子ならドキッとするもんじゃないの?」


「・・・そ、それは・・・まぁ・・・」


意外なSっ気を発揮した綾乃のさらなる追及に、アリスは赤くなった顔を隠すように俯きながらも一応の肯定を表した。


「ふふっ、素直でよろしい」


「うぅー・・・綾乃、町に戻ったら覚えてなさいよ?」


顔を赤くしたままのアリスは、綾乃を半眼で睨み付けた。


「えぇ、楽しみにしておくわ・・・でも、その前に1つお願いがあるんだけど良いかしら?」


「何よ改まって?」


先ほどまで自分をからかって笑っていた綾乃が急に神妙な態度になり、アリスは困惑した。


「・・・今すぐ私をPKして欲しいの」


「・・・え?い、今何て言ったの?」


アリスは自分の聞き間違いだと思い、綾乃に聞き返した。


「今すぐ私をPKして欲しいの」


綾乃は先ほどと一言一句違わず繰り返した。


「・・・な、何でそんなことを言うの?友達にそんなこと出来る訳ないじゃない!」


アリスは大声を上げて拒否した。


「・・・アバターとはいえ、今の私のこのカラダはあの男たちに散々汚されてしまったわ。でもPKされてカラダを再構成すれば、元の綺麗なカラダに戻れるの」


「・・・そ、それはそーだけど・・・友達をPKするなんて、私には出来ないよ・・・」


綾乃の真意を知ったアリスだったが、それでも友人を手に掛けるという行為には踏み切れないようだった。


「・・・そうよね。そんな貴女だからこそ、清香さんはサブマスターに貴女を選んだんだもんね?」


例えアバターだとしでも友人を斬りたくないという心優しい友人に、綾乃は暖かい気持ちになり、自分よりも一回り小さいアリスのカラダを抱きしめた。


「・・・良ければ俺がやろうか?」


「・・・と、透矢くん?」


アリスは透矢の言葉に驚愕し、綾乃に抱きしめられたまま、顔だけを透矢の方に向けた。


「・・・よろしいのですか?」


一方の綾乃は、落ち着いた様子で透矢に確認した。


「アリスの気持ちは分かるが、これから先何年もこのカラダのまま過ごさせるというのも酷だろう」


「・・・そーだよね」


透矢の言葉を聞いてアリスはついに折れ、綾乃をPKすることに同意した。


「・・・出来るだけ優しくお願いしますね?」


「そーゆー台詞は、出来ればベッドの上で聞かせて欲しかったな」


ふざけて場を和ませようとする綾乃に、透矢も気を利かせてジョークで返した。


「・・・そーいえば、私の初体験はベッドの上じゃなくて、固い地面の上なのよね・・・」


今まで元気に振舞っていた綾乃は、数時間前の身の毛もよだつ記憶を思い出してしまい、自然と涙を零してしまった。


「・・・PKする前に、お前のその忌まわしい記憶を俺が上書きしてやるよ」


透矢は綾乃の涙を指で掬い取り、優しく抱きしめてキスをした。


「・・・んんっ?・・・んっ・・・んんっ・・・」


透矢の突然のキスに驚いて押し退けようとした綾乃だったが、これが透矢なりの優しさなのだと気付き、すぐに受け入れて透矢の背中に腕を回し、愛し合う恋人のように抱きしめ合った。


「・・・なっ・・・えっ・・・?」


そんな恋愛映画のワンシーンのような光景を目の前で見せ付けられたアリスは、友人の唇を奪った透矢への怒りと、透矢とキスをしている綾乃への嫉妬で思考がグチャグチャになり、意味のある言葉を発することが出来なかった。


「・・・いきなり女の子の唇を奪うなんて、透矢さんはイケナイ人ですね?私、初めてだったんですよ?」


唇を離した綾乃は、嬉しさ半分非難半分で透矢を諌めた。


「・・・そーだったのか?」


透矢は素直に驚き、目を見開いた。


「・・・彼らはセックスにしか興味なかったようで、キスはして来なかったんです」


「もったいないことをするやつらだ。こんなに気持ちの良い唇だってのに」


透矢は先ほどの綾乃の唇の感触を思い出して指でぷにぷにしながら、物の価値を知らないもはや顔も覚えていない男たちをバカにした。


「・・・本当はアリスの手前遠慮しようかと思ってたんだけど、こんなことまでされちゃったんじゃ責任取って貰わないとね?」


綾乃はアリスに向かってペロっと小さな舌を出して挑発した。


「・・・あ、綾乃?」


アリスは状況をまるで理解出来ず、混乱の極みにあった。


「良いのアリス?私が透矢さんのこと貰っちゃうよ?」


綾乃は棒立ちするアリスに見せ付けるように、その豊満な胸を透矢の腕に押し当てるように抱き付いた。


「・・・そ、・・な・・め・・・」


アリスは掠れるような声で何かを呟いた


「透矢さん、アリスは私たちを祝福してくれるそうですよ?折角ですから、もう一度キスしてくれませんか?」


綾乃は目を閉じてあごを上げ、さらに口を半開きにして爪先立ちになり、いつでも透矢を受け入れられる体勢になった。


「・・・そ、そんなのだめぇ!綾乃だけズルイよ!私だって透矢くんのこと好きなんだからぁ!」


再び目の前で透矢とのキスを見せ付けようとする綾乃を目にし、ついに我慢出来なくなったアリスは絶叫した。


「・・・アリスは俺のことが好きだったのか?」


綾乃の意図にいち早く気付いた透矢は事の成り行きを静観していたが、アリスが勢いで告白してきたので、このまま乗っかることにした。


「・・・はっ!いや、その・・・い、今のは違くて・・・」


アリスはドサクサで透矢に告白してしまっていたことに気付き、アタフタと慌てていた。


「・・・なんだ、俺の聞き間違いか・・・すまんアリス。綾乃みたいな美少女に告白されて、俺は自意識過剰になってたみたいだ。そーだよな・・・アリスみたいなかわいい子が俺なんかを好きになる筈がないもんな」


透矢はニヤケそうになるのを必死に堪え、残念そうな顔をしてアリスを見た。


「・・・そ、そんなこと・・・」


「いいんだアリス。これ以上何も言わないでくれ。俺なんかが綾乃に好きになられただけでも望外の極みなんだ。これ以上を望むなんて罰が当たっちまうよ。綾乃との結婚式の日程が決まったら教えるから、絶対来てくれよな?」


「・・・や、やだ・・・だめ・・・わ、私も・・・私も透矢くんが好き!大好きなのっ!」


透矢によって一気に畳み掛けられて追い詰められたアリスは、ついに気恥ずかしさなど遥か彼方に吹き飛び、告白と同時に透矢に抱き付いて唇を押し付けた。


「・・・んんっ・・・んっ・・・」


アリスは自分から舌を差し出して透矢の口を抉じ開け、貪るように透矢の舌と絡め合った。


「あらあら・・・アリスったら積極的ねぇ?これは私も負けてられないわ」


透矢とアリスの濃厚なキスシーンを目の前で見せ付けられた綾乃も我慢出来なくなり、透矢の指を舐め始めるのだった。




「・・・・・・この人たち、私たちのことを完全に忘れてませんか?」


「だねぇ・・・いっそお兄ちゃんごと3人纏めて()っちゃおうか?」


舞は嫌な予感が+αで的中してしまったことを嘆きつつも、自分たちの存在を完璧に忘れて3人の世界に突入していることに怒りを露わにし、雫は普段の天真爛漫な笑顔に若干の引き攣りを混じらせながら、攻撃呪文を唱え始めた。


「・・・わ、私たちは止めませんので、どうぞご自由に・・・」


そして、いろんな意味で置いてきぼりのメイデンの少女たちは舞と雫の殺気に怯え、遥か後方で互いの身を抱き合って震えていた。

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