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第13話 鉄の処女

「あの、すいません。ちょっと良いですか?」


メイデンの少女に漸く追い付いた舞は、後ろから声を掛けた。


「・・・私?」


誰かを呼び止める声に釣られて振り向いた少女は、自分を見つめる舞と雫の姿を捉え、自分を指差しながら確認した。


「は、はい。えーっと『(アイアン)処女(メイデン)』の人ですよね?実は、私たちもギルドに加入させて貰おうか迷ってまして、もし良かったら話を聞かせて貰えませんか?」


「・・・あぁ、そーゆーことね?なら、その辺でお茶でもしながら話しましょうか?」


当初メイデンの少女は見知らぬ2人の少女に話し掛けられて戸惑っていたが、ギルドの話を聞きたいという理由を聞き、そういうことだったかと警戒心を解いた。




「私はコーヒーにするけど、貴女たちは?」


「では、私はミルクティーをお願いします」


「えーっとねぇ・・・私、ココア!」


少女に促されて舞と雫が注文を伝え、店員が席を離れるのを待って、少女は自己紹介をし始めた。


「私は『(アイアン)処女(メイデン)』サブマスターのアリスよ。ちなみに、レベル14のレイピア使いね。貴女たちのことも教えて貰えるかしら?」


「・・・私の名前は舞です。レベル13で、メインウェポンはナイフです」


「私は雫だよ。レベル12のヒーラーなの。お姉ちゃん、サブマスターだったんだぁ!」


舞は目の前の少女が大ギルドのサブマスターだと知り心臓が飛び出しそうなほど驚いたが、透矢に命じられた使命を思い出して表情に出さないように押さえ込んだ。


にも関わらず、相方の雫は素直に驚きを表してしまっていた。


「いやいや、そんな大した者じゃないわよ?むしろ私の方が驚きよ。ナイフ使いとヒーラーのコンビでレベル13と12なんて凄いじゃない!」


しかし舞の心配は杞憂だったようで、アリスはそういった反応をされることに慣れているのか、特に不審がってはいない様子だった。


「・・・いえ、私たちは単にログインするのが他の人よりも少し早かっただけですから、大したことはありません」


「へぇ、2人とも古参プレイヤーだったのね。それなら納得だわ」


舞は不審に思われないか不安で堪らなかったが、雫の裏表の無い笑顔を見つめている少女を見て、今のところは大丈夫そうだと安堵した。




「・・・んー、まぁまぁね。さてと、それじゃーそろそろ本題に入ろうかしら?知ってるとは思うけど『(アイアン)処女(メイデン)』は『女狩り』から自分の身を守る為に設立された互助ギルドよ。古参の貴女たちなら覚えているでしょうけど、一時期『女狩り』から逃れる為に女性プレイヤーが宿屋に引き篭もるなんて現象が起こったでしょ?そんな状況を憂いて立ち上がったのが『(アイアン)処女(メイデン)』マスターの清香(サヤカ)さんよ。彼女は僅か10人しか存在しないレベル15の1人な上、現実でも剣道三段、柔道二段の実力者なのよ?」


コーヒーを一口飲んだアリスは、まるで我が事のように自慢げに語り始めた。


「前半は噂で聞いたことがありましたけど、マスターに関することは初耳です」


舞は、今まで一切の謎に包まれていたメイデンのマスターに関する情報をあっさりと聞かされて、呆気に取られていた。


「あははっ、それはそーでしょうね?マスターに関する情報は『情報屋』に口止め料を払って漏らさないようにしてるから」


そんな舞の様子を見て、アリスは笑顔で種明かしをした。


「・・・そこまでしているんですか?」


「このくらい当然よ。いくらマスターがメイデン最強とは言っても『女狩り』全員に囲まれでもしたら、万が一にも勝ち目は無いわ。私たちの為に立ち上がってくれたあの人が『女狩り』のやつらに弄ばれるなんて、絶対に耐えられないからね」


アリスは拳を力強く握って答えた。


「『女狩り』のマスターの情報は無いのですか?その人を倒せば、逆に彼らにダメージを与えられるのでは?」


「・・・無理よ。やつ自身は女性を襲ってレベルダウンを繰り返しているせいでそれほど強くはないんだけど、その代わりに出歩く時は常に大勢の取り巻きがいるの。その中の1人に神埼(カンザキ)ってやつがいるんだけど、そいつはマスターと同じレベル15の1人なのよ」


舞の質問を聞いた瞬間、一転して気落ちした表情を浮かべた。


「『女狩り』にもレベル15がいるのですか・・・?」


「えぇ、他にも『情報屋』に聞いて身元が判明しているレベル15が数人いるわ。まず『娘々』のマスターとサブマスターが共にレベル15よ。それと『女郎蜘蛛』のマスターとサブマスター。それに『情報屋』のメンバーにも1人いるらしいわ。他には・・・これは未確認情報だけど、オークを索敵範囲外から一撃で仕留める弓使いがいるって噂があって、その人もレベル15の1人なんじゃないか?って言われてるわ」


「オークを一撃で仕留める弓使い・・・ですか」


舞は、ついさっきも見たばかりの光景を思い出していた。


「えぇ、嘘みたいな話でしょ?オークってHP300もあるのよ?しかも防御力も結構高いから、レベル13の私でも40削れれば良い方だわ。クリティカルでも100が精々ね。そんなオークを一撃で仕留めるなんて、正直マスターにだって無理だと思うわ」


「な、なるほど・・・」


興奮するアリスをよそに、舞は冷や汗を流していた。


「それでね?私どーしても気になって昨日『情報屋』に噂の真偽を確かめたんだけど、現在調査中だって追い返されちゃったのよ!」


「そ、そーなんです・・・か?」


舞はアリスの物凄い剣幕に気圧されて後ずさった。


「もしかしたら、私たちみたいに口止め料を払って、情報を遮断してるんじゃないかしら?もしそうなら、噂の信憑性がぐっと高まるんだけど・・・」


「・・・そ、そーだ!『女郎蜘蛛』という名前に聞き覚えがないのですが、最近出来たギルドなんですか?」


舞は一刻も早くこの話題を終わらせる為に、話を逸らすことにした。


「・・・『女郎蜘蛛』は1週間くらい前に結成されたばかりの小規模ギルドなんだけど、日に日に大きくなって来ているの。メンバーはギルドを結成した4人以外全員男らしいわ。そして彼女たちは、自分のカラダを餌にして男どもを従わせているって話よ。ある意味『娘々』よりもタチが悪いわ!」


アリスは吐き捨てるように言い放った。


「え、えーっと・・・か、彼女たちにとっても『女狩り』の存在は邪魔でしょうし『娘々』と『女郎蜘蛛』と同盟を組めば『女狩り』を倒せるのでは・・・?」


舞は嫌悪感丸出しのアリスに、おずおずと意見を述べた。


「・・・私たちも一度はそれを考えたんだけど、両方から無茶な要求をされて決裂したわ」


アリスは悔しそうに歯軋りしていた。


「そ、そーですか・・・」


「はぁ・・・レベル15の残り2人の情報は皆無だし、噂の弓使いが実在して、その人と同盟が組めれば『女狩り』のやつらを一網打尽に出来るかもしれないんだけどねぇ・・・」


アリスはそう言って黙り込んでしまった。


「・・・・・・」


舞はそんなアリスにどう声を掛けて良いか分からず、途方に暮れてしまった。


店には雫がココアを啜る音だけが響き、しばらく嫌な沈黙が続いた。


すると、不意にアリスが顔を上げてウィンドウを開き、送られてきたメッセージを読むなり立ち上がった。


「・・・ごめん舞ちゃん雫ちゃん。急用が出来たわ。話の続きはまた今度!」


アリスは舞と雫にフレンド申請を送り、受諾を確認する間も惜しんで店を出て行ってしまった。


「・・・単に呼び出しを受けたって訳ではなさそうですね?」


舞はアリスのただならぬ様子から、何か問題が発生したのだと直感した。


「・・・どーする?お兄ちゃん」


雫はそんな舞の意を汲み取り、こちらの声がギリギリ聞こえるくらいまで離れた席に座っていた透矢に意見を求めた。


「そーだな・・・運良く向こうからフレンド申請してくれたことだし、今なら追跡も可能だろう。舞、案内しろ。雫は挟み撃ちにされないように俺たちから少し離れて追って来い」


透矢は少し考え込んだ後、舞と雫に指示を出した。


「わかりました。こっちです透矢様」


舞は透矢の指示を聞くなり店を飛び出して行き、透矢もそれに続いて走り去った。


「お兄ちゃんもお姉ちゃんも気を付けてねー」


雫はあっと言う間に見えなくなってしまった2人に声援を送りながら、カップに残っていたココアを飲み干した。




アリスに送られてきたメッセージには『1人で来い』という文字に加えて、メイデンのメンバーである3人の少女たちが男たちに捕まっている画像とフィールドの位置情報が添付されていた。


それを見たアリスは、多数の襲い来るMOBを薙ぎ払い、僅か10分という速さで指定の場所に駆けつけた。


しかし、そんなアリスの目に飛び込んできたのは、男たちに散々弄ばれて倒れている少女たちの姿だった。


「はぁ、はぁ・・・言われた通りに来たぞ!綾乃たちを開放しろ!」


アリスは怒りで我を忘れそうになりながら、総勢10名の男たちに言い放った。


「・・・はぁ?俺たちそんなこと言ったっけ?」


「1人で来いとは言ったけど、来たら女どもを帰してやるなんて一言も言ってないよなぁ?」


ニタニタと笑みを浮かべながら7人の男たちがアリスを中心に円を描くように取り囲み、残りの3人が少女たちの首に剣やナイフを押し当てた。


「・・・屑どもが!皆殺しにしてやる!」


アリスは疲労と怒り、そして僅かな恐怖に震える足を気力で抑えてレイピアを構えた。


「おいおい、人質がいるってことを忘れてないか?抵抗するなら、こいつらを殺してオークの巣に放り込むぜ?」


すると、すかさずアリスの目の前に立っていたリーダー格と思しき男が、後ろを指差しながら脅しを掛けてきた。


「・・・っ!」


アリスはその言葉を聞いた瞬間、今にも踏み出そうとしていた足を動かせなくなってしまった。


「そうそう、それで良いんだよ。こいつらをブタの慰み者にされたくなけりゃ、大人しく俺らの言う通りにするんだな?オークほどとはいかねぇが、俺のだって中々のモンだぜ?」


男はそう言って徐にズボンを脱ぎ、反り返った下半身を露出させた。


「キャッ!」


アリスは戦闘中にも関わらず、反射的にレイピアから手を離して目を覆ってしまった。


「・・・あぁーん?その反応、もしかして初モノか?」


男はアリスの反応を見て正真正銘の処女だと見抜き、舌舐めずりをしながらアリスに近付いた。


「い、いや・・・来ないで!」


男が近付いてくる気配に気付いたアリスは、再び目を開いて後ずさった。


「動くんじゃねぇ!それ以上逃げたら、あいつらがどーなるか分かってんだろーな?」


男は大声で恫喝し、アリスをその場に縫い付けた。


「・・・わ、私のことは好きにして良いから、あの子たちはもう開放してあげて」


アリスはもはやどうにもならないと悟り、これから自分を襲うであろう恐怖を抑え込んで、せめて少女たちだけでも助けようと懇願した。


「それはお前の態度次第かなぁ?とりあえず、その野暮ったい鎧を外して服を脱ぎな」


「・・・くっ」


アリスは男の言われるがままに装備を外してゆき、ついに下着姿になってしまった。


「おら、どーした?まだ2枚残ってんぞ?もしかして、俺に脱がして欲しくてわざわざ残してくれたのか?」


男はそう言ってブラを引き千切ろうと手を伸ばした。


「さ、触らないで!・・・じ、自分で脱ぐわよ」


アリスは男の手を払い退け、ブラのホックを外す為に震える手を後ろに回した瞬間、後方から3本の矢が飛来し、その全てが少女たちを捕らえていた男たちの喉に突き刺さる光景を目撃した。

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