第1話 ログイン
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【VRMMORPGのプレイヤーを募集します。クリア賞金は100億円です。プレイ料金は一切掛かりません。男女共に先着1万人ずつの限定募集です】
それは高校2年生の少年、御堂冬夜が先週稼動したばかりのVRMMORPGの攻略スレを眺めていた時に書き込まれた。
「・・・はぁ?クリア賞金100億円?しかもプレイ料金は無料?これでどーやって採算取るんだよ?w」
近年の法改正によってゲームクリアに賞金が設定されているタイトルも増えて来ているのは事実だ。
実際、冬夜がプレイ中のゲームもクリアしたプレイヤー個人もしくはギルドにWEBマネーで1億円が支払われることになっている。
そんなゲームでさえソフトの購入に1万円と毎月の接続料が3000円掛かっている。
賞金が100億円でプレイ料金が無料など有り得ない。
普段ならこういったくだらない釣りは無視するのがデフォなのだが、この時ばかりは興が乗ったとでも言えば良いのか、どんなリンクに飛ばされるのか試してみようという気になってしまった。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか?」
冬夜は十中八九ブラクラにでも飛ばされるだろうと思っていた。
しかし、リンクを飛んだ先に表示されたサイトには普通の、いや、そこらのサイトよりも数倍凝ったデザインのページが表示されたのだった。
それもトップページだけのハリボテではなく、世界観の設定や操作キャラの武器やスキル。その他諸々の解説がびっしり書かれていた。
「すげぇ・・・賞金100億ってマジネタなのか・・・?」
いくらなんでも、一発ネタの為だけにこんな凝ったサイトを作成するなんて酔狂ってレベルじゃない。
万が一これが本物だとしたら、100億円ゲット出来るかもしれない。
当然パーティを組んだりギルドに入ったりすれば自分の取り分は減ってしまうだろうが、それでもこのまま今のゲームを続けるよりも取り分は確実に多くなる筈だ。
「もしこれでウイルスにでも感染したりしたら、その時はこんな手間の掛かった釣りサイトを作った努力に免じて許してやるとしよう」
冬夜はカーソルを【登録】に合わせ、すぅーっと深呼吸をした後にカチッっとクリックした。
すると、冬夜の緊張とは裏腹に特に何事もなく新たなページが表示された。
「これは・・・ゲームの注意事項か」
冬夜はざっと目を通しながら画面を下へ下へとスクロールさせていく。
「んー、なんか色々書いてあるけど、特に重要なのはこの5つかな?」
【Bounty Hunters Onlineの最重要ルール】
1.ゲーム内では時間の感覚が1万倍に加速される。(ゲーム内で1週間過ごしても、現実では1分くらいしか経過しない)
2.プレイヤーが死亡すると30分間の行動不能の後に復活する。但し、レベルはリセットされ、装備も初期装備に戻される。さらに、所持金とアイテムは全て消去される。(時間制限があるということは蘇生アイテムを使えば回避出来るかも?)
3.アバターはプレイヤーの記憶を読み取って再現する為、顔や体型は現実とほぼ同じ物となる。(ゲーム内で揉めた相手と現実で遭遇したら厄介な事になるかも?)
4.GMは存在しない。ゲーム内の問題は全てプレイヤー自身で解決しなければならない。(バグ報告のみ可能)
5.プレイヤーによる自発的なログアウトは出来ない。(第三者により勝手にヘッドギアを外された場合などのみ可。その場合5分以内に再ログインしなければ参加意志無しと判断され、以後IDは無効となる)
「死んだらデータ初期化とか無理ゲーじゃね?・・・いやでも、賞金が100億ってことを考えると、これくらいが妥当なのか?」
冬夜は規約に同意してログインIDを取得するか迷った。
「性別欄にチェックを入れてメアドを貼れば良いのか・・・まぁ、毒を食らわば皿までって言うし、ここまで来たら登録してみるか」
冬夜が意を決してデータを送信すると、数秒後に返信がきた。
返信メールにウイルスが仕掛けられていた!などということもなく、ログインIDとゲームデータをダウンロードする為のURLのみが素っ気無く記載されていた。
冬夜はIDを入力してゲームデータをダウンロードし、VRゲーム用のヘッドギアにケーブルを繋いでインストールした。
「これで良し!」
冬夜はヘッドギアを被ってベッドに横になり、ログインIDを入力してゲームスタートのコマンドを選択すると目の前が真っ白に包まれた。
気が付くと、冬夜は何もない真っ白な空間に立っていた。
恐らく今からここでキャラネームやら初期武器やらの設定をするのだと思われる。
ふと自分の体を見てみると、服装が変わっていることに気が付いた。
「・・・これはあれだな。初期装備の定番、ぬののふくってやつだな」
冬夜が今着ているのは、さっきまで着ていたTシャツとハーフパンツではなく、ファンタジー世界にありがちな中世ヨーロッパ風の簡素な服とサンダルだった。
「ふむ。で?これからどーすりゃ良いんだ?」
既にログインして10秒ほど経っているが、未だに何も起こる気配がない。
「おいおい、ここまで来て壮大な釣りでしたなんてオチはいくらなんでも認められねーぞ?」
イライラしながら待ち続けること数十秒、まさかこのままログアウト出来ずに放置とかされないよな?などと思い始めた矢先、目の前に強烈な光と共に体長15センチほどの妖精?が現れた。
「ごめんごめん!待ったぁ?」
「えーっと・・・お前は何?」
遅刻?したにも関わらず、悪びれる様子のない妖精?を半眼で睨みながら、冬夜はそれに声を掛けた。
「私?私は君のサポートピクシーよ」
「サポートピクシー?」
「えぇ。戦闘は出来ないけど、その代わりに一番近い町までの距離とか、近くのお店の場所とかなら教えてあげたり出来るわよ?」
「あーなるほど。それは確かに助かるな」
冬夜はゲーム内で迷子になる心配だけはなさそうだと安堵した。
「分かればよろしい!それで、君の名前は?」
「俺の名前は、透明の透に、弓矢の矢で、透矢だ」
かなり長い期間ゲームの中で過ごす事になりそうなので、名前を変えるのは少々躊躇われた。
とはいえ、流石に本名のままでプレイするのもアレなので、せめて文字だけでも変更しようという結論に至ったのだった。
冬夜はサイトを見てこのゲームに弓があることを知り、弓使いになろうと考えているので『矢』は絶対に外せない。
『透矢』の他に『凍矢』というパターンも考えたのだが、もし頻繁に使用するスキルが火系とかだったら名前と矛盾してしまうので却下した。
ちなみに、本名の方の由来は名前の通り寒い冬の夜に生まれたかららしい。
もしも女に生まれていたら、十中八九、真冬とかにされていたと思われる。
「トーヤね。私はシャーロット。シャルって呼んでも良いわよ?」
「わかった。それでシャル。これからどーすれば良いんだ?」
既にログインして2分ほど経っているが、未だに名前しか設定が終わっていない。
「とりあえず、町に転送する前に最低限しなくちゃいけないのは武器の選択ね。町中とはいえ丸腰は危険よ?」
「それもそーだな。んじゃ早いとこ選べる武器を教えてくれ」
「最初に選べる武器はナイフ、ショートソード、棍棒の3つうちのどれかよ」
「たった3つしかないのかよ?」
透矢は初期武器の選択肢の少なさに驚愕した。
「タダなんだから文句言うんじゃないの!さっさと選ばないと私が勝手に決めちゃうわよ?」
「ちょ、待て!・・・そーだな。ここは無難にショートソードにしておくか」
透矢は、ナイフではリーチが短すぎて心許無いし、かといって棍棒はかなり重そうな気がする。その点、ショートソードならナイフよりもリーチが長いし、自分でもそこそこ振り回せるだろうと考えたのだった。
「ショートソードね。転送と同時にアイテムボックスに入れておくわ」
「アイテムはどーやって取り出せばいいんだ?」
「んー個人差があるけど、基本的には念じれば出てくる筈よ?」
「なるほど。・・・ところで、今プレイヤーが何人いるかって分かるか?」
俺がログインしたのは書き込みがされてから5分後くらいの筈だから、もしかしたら一番乗りという可能性もある。
100億が掛かっているのだから、人が少ない今の内に少しでも有益な情報を入手しておきたい。
「まだ100人くらいしかいないわ。最終的には2万人になる予定だから、トーヤは今のところトップランカーってことになるわね」
「もう100人もいるのかよ?人の事を言えた義理じゃないが、あんな怪しいリンクを躊躇なく踏むやつが100人もいるとは・・・これはのんびりお喋りしてる場合じゃねーな。早速転送してくれ!」
透矢は予想以上の参加人数に驚き、シャルに転送を促した。
「おっけぇ。いっくよーん!」
透矢に急かされたシャルは、気の抜ける掛け声と共に透矢の足元に魔方陣を出現させた。