小さな喜劇
夕日で赤く染まった帰り道。時々すれ違う人々。どこからか聞こえる色々な音。
いつものことなのに、今日は全てが疎ましい。
「は・・・はは・・・」
自分をあざ笑ってみる。
「・・・ほんと、馬鹿みたいだ・・・」
全て勘違いだったのだ。自分の馬鹿らしい独りよがりだったのだ。
彼女が見ていたのは俺じゃない。いつも俺の隣にいた”あいつ”だ。
アホらしくて涙さえ出ない。
出るのは、自己嫌悪の感情だけ。
鍵を開け、薄暗い家に入る。二階の自分の部屋に入り、明かりもつけずにベッドへ倒れこむ。
「・・・あー、疲れた・・・」
呟いて、両手で目を覆う。何も見なくてすむように。このまま眠りにつきたかった。
しかし、なぜか浮かぶのはあの時の景色。
思い知った数十分前の景色。
『いつも見ていました。あなたが好きです、付き合ってください!』
教室に忘れ物をとりに帰って。
聞いてしまった、聞こえてしまった声。
聞きたくなくて、急いで離れようとした。しかし、”あいつ”の答えが聞こえてしまった。
『・・・ごめん、俺は***を裏切れない』
俺はその場を離れた。
”あいつ”は知っていたんだ。俺の思いを。だから彼女を振った。
「・・・ばっかみてぇ・・・俺なんかのために・・・」
頬を涙が一筋伝う。
明日も”あいつ”は俺にいつも通りに、接してくるだろう。傍にいるだろう。
そして、彼女も”あいつ”を見続けるだろう。叶わない思いと知りながら。
だから俺も知らないフリをしよう。今、目を瞑っているように。
まるで喜劇だ。
初めての短編です。
読んでくださり、ありがとうございましたっ!