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第八話 堕落の教育者

 空にはいくつかの影があった。

 それは巨大な航空艦の群れである。

 今、機関“関東”を中心に、右三艦、左二艦の五つの艦が連結している。

 右の一番前から“北海道”、“東北”、“中部”。左は前から“近畿”、“九州”が連結して連なっている。

 そして、その左の最後部に、機関“沖縄”が連結を始めた。

 まず、九州と沖縄がスラスターの噴射を停止し、慣性制動によって速度を落としていく。この際連結している艦群も結合部から損壊しないよう同じく速度を落としていく。そして充分に速度を落とすと、今度は沖縄がゆっくりと、スラスターの微調整によって九州の後部に近づいていく。両艦の距離が百メートルをきったところで、沖縄は動きを止め、艦首部の甲板が展開する。

 そこから幅五メートルほどの板状の展開きょうがいくつも伸び、九州の艦尾甲板部と繋がり、住民達の道となる。さらに沖縄の艦前面と九州の艦後部の一部が展開し、そこから光で出来た連結用の術式たいが伸び、互いに中央で合わさり、結合すると、お互いの艦が張力でそれを引っ張り、調節を行う。それで全ての工程が終了する。

 それと同時に、全七艦全てのスピーカーからアナウンスが入った。

『ただ今をもって、連結肯定を全て終了しました。これより、移動国家艦“大和やまと”は、南極へと向けて発進いたします』


                         ●


 関東後部に位置する仁悠学園は、大和が誇る最高の武闘派学園である。

 在学中の学生は約三百名。それぞれ序、たつ、甲、乙、(えつ)の五クラスが存在し、そこに割り振られることになる。簡単に言えばこれは学園内の番付であり、序が一番下に構えられ、越が最高であるということだ。

 よく武闘派学園にはこの番付によるイジメなどがあるのだが、この学園にはそれが無い。

 この学園は武闘派で通っているものの、総合的なあらゆる面による生徒の能力の育成を主としている。だから序組の生徒であっても戦闘以外のことが素晴らしく秀でている生徒なども多く、また、他の生徒もそれらをきちんと評価し、互いの長所などを認め合っているため、そのようなことが起きないのだ。もっとも、そのようなことを気にしている生徒がほとんどいないのがもっぱらだが。

 というより、この学園の越組は戦闘系最強の生徒の称号でもある、が、この学園ではそれは『常軌を逸した能力の持ち主』ということの現れであり、いうなれば、変人の称号を同時に与えられているようなものなのだ。

 以前、入学式の際にそのことに抗議をしに出た巫女と貴族出身の女生徒二人がいたらしい。あのときは二人とも『手を滑らせ』まくって校長室を半壊するほどの惨事になったが、裁牙理事長の説得でどうにかなった。

 そんな学園の廊下も、現在は静まり返っている。

 今は六限目の授業の最中であり、たまに聞こえてくる音も授業を行う教師の声か、板書を行っている音だけだ。

 その三年生のエリア。三年乙組は、今は戦闘系講習の授業である。ボサボサの短髪をしたジャージの男性教師が左手で板書を終え、生徒に振り返る。

「はーい。じゃあ今から神罰武装についての講習を行う」


                         ●


 乙組の担任兼戦闘系担当教員、天月(あまつき)ゆうはチョークを黒板の(へり)に置いて前に向き直り、生徒達を見渡す。

「いいか、次行く前にもうどんどん黒板書け。先生こう見えてマイペースに授業進める方だからお前らのペースには合わせねぇからな。だれも俺を止めることはできないんだからな」

 すると前の席の生徒の一人が手を挙げる。

「なんだ村田。今の話聞いてなかったのか。黒板書け。大丈夫だ、先生優しいからあとで質問コーナーとか設けてっから。だから質問はその時にしろ」

「いや、って言うか先生……」

 村田は少々申し訳なさそうに口ごもった後、

「黒板の字ぐっちゃぐちゃで何書いてっか分かんないんスけど……」

 言われ、天月は後ろの黒板を見た。そこにはミミズと糸ミミズが黒板の上を見事に舞っている様が白のチョークで描かれていた。

「馬っ鹿かオメエはよお」

 しかし天月は振り返り、

「だって俺利き手じゃねぇし。左手だし。しょうがねぇし。お前ら努力して何かをなそうとする先生の身にもなってるか?」

「いや、四月の頭から言っても行動を改善してくれない僕らの身になったことあります?」

「知らん」

 言い切ったよコイツ……、と、クラス中から非難に満ちた目を浴びる天月だが、彼は気にした様子を見せない。

 しかし村田は食い下がる。

「もっといろいろ手があるでしょ。使倶しぐを使って板書代理してもらうとか、それか電子画面展開してそれに文字入力するとか」

「馬鹿かオメエ。画面のキー入力なんざ片手しか使えないんだからめちゃくちゃ遅いに決まってんだろ。それに使倶シグ使ったら、なんていうか、人文字の温かさが失われるだろ? だから俺が書いてんだよ」

「そんな温かみいらねぇよ!」

 生徒全員からツッコまれた天月は、一度天を仰ぎ見るように顔を上げ、次に落胆したように下に向ける。そして顔を前に向けて、

「お前ら……人の気持ちも理解できない大人になんじゃねぇぞ……」

「大丈夫です。俺たち先生みたいには間違ってもなりません」

 うんうんとうなずく生徒達を見て、天月は一度半目になってから、

「じゃ、授業再開するぞー。でもその前に言っておくことがある」

 天月の言葉に、生徒達が何事かと顔を上げた。

 それを確認した上で、天月は言った。

「俺はこの講習、大っ嫌いだ」


                         ●


 は? という生徒達の視線を無視し、天月は左手で教壇に置いた教科書のページをめくる。

「えー、じゃあまず、初歩の初歩からいくべ。

 神罰武装。―――――今から一千年前に起きた地上の民と悟神族との大規模な戦闘、『神滅大戦』の開始の際、悟神族が自分達の意見に賛同しなかった他の神々を殺し、その時に地上に降り注いだ死した神々の力を生成して核とし、それを原動力に作成された世界に八個しかない、まあ、最強の武器だな。

 言っておくが神罰武装の『神罰』は、神による罰という意味ではなく、神を罰する・・・・・という意味だ。忘れんなよ」

 言って前を向くと、さっきまでは戸惑いを見せていた生徒達は、今自分が言ったことをせっせとノートに書きとめている。

 あれ……? もしかして板書よりこっちのが効率いい?

 などと若干ショックを受けながら、次のページへと目を向けた。

「この世界に存在する神罰武装は、“嘲笑の美鏡エレガンテ・ミラ”、“欠片絜(かけらむす)び”、“見下しの友ファストス・アミコ”、“焦がれ(づち)”、“我侭な束縛アモレソ・ビディング”、“梓弓(あずさゆみ)”、“怠惰の厳罰アチェリア・スピリム”。

 そして―――――」

 天月は今まで教卓の影に隠れていた右腕を自分の目線ほどの高さにまで上げて、言った。

「俺の持つ“十拳とつか”。これが世界にある神罰武装の全てだな」

 掲げられた右腕は、手首に金色の輪が手錠のようについており、手の甲には太陽と月が合わさったようなものの周りに波のような波形のある模様が入っている。

 それを見せた後、室内に沈黙が走る。そして、

「ほらなー! だから嫌いなんだよ! 『お前それ自慢したいだけなんじゃね?』的な目で皆俺のこと見んだもん!!」

「いや、酷い言いがかりだよそれ!?」

「まあ手に入れた当初はものすごい自慢してたよ!? でもさあ、もう何年もこれのせいで不便な生活してるからもう別にどうでもいいんだわ! でも皆そんな俺の気持ち分かってくれねぇんだわ!」

「いや、大丈夫ですって。皆そんなこと思ってないですって。なっ?」

 村田が後ろを向いて皆に合意を求めた。皆は一度困ったように顔を見合わせてから、首を縦に振る。

「同情はやめろぉ!!」

「人の話聞けよ!!」

 言って、天月は教壇を思い切り両手で叩いた。バンッ! という破裂音と共に、

 ピッ!

 と、何かが高速で走る音がした。

 そしてそれと共に、教壇にいくつもの線が走り、次の瞬間にはバラバラになって、破片が地面に零れ落ちた。

 生徒達が軽く身をすくめ、それを見た天月は、

「あちゃー、ちょっと熱くなりすぎた」

 左手で頭をかきながら、足で破片を避け、左手で教科書を拾い直す。

「じゃあ、次は―――――」

「無視っ!?」

「じゃあ次。木野。神罰武装についてのことを何でもいいから言え。言ったらちゃんと評価すっから」

 生徒達の総ツッコミにも動じず、天月は真ん中の列の女生徒を指さしていう。女生徒は戸惑いながらも立ち上がり、教科書を広げ、

「ええ、と。全部で八個存在する神罰武装は、それぞれの核となる神の力が発見された国々が合同で情報を持ち寄り、それらの開発を行いました。以降は、それぞれ開発した国がそれらを所持しています。

 アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、アジア連合、オーストラリア、そして大和の七国家です。基本一国につき一つの割合ですが、大和だけは二つの神罰武装を保有しています」

「はーい、オッケー。座っていいぞ」

 木野はホッと息をついて、座席に座る。天月はそれを見ながら授業を進める。

「これは大和に二つの神の力降ったためのことだが、当然最初は反発をされた。なにせ一つだけでも一国を制圧できる戦力を持つと言われるものを二つ持つなんてずりぃなんて思うのは、持っているこちらから見てもそう思える。

 特に当時はロシアや中国が猛反発したんだよな。外交カードとしての力の欲しさもあったんだろうが、大国の意地ってやつが大きかったんだろう。だからどちらか一つを譲渡するように、残り四国家が交渉に来たんだが、結局それはおじゃんになる。

 それは大和がなぜ昔の呼称の『日本』から改名したのかということと、俺たちのような小国の島国が、なぜ独立した国家として認められているのかというのが重要になってくる。

 ―――――ま、そこはおいおい歴史の授業でやれや」

「やんねぇのかよ!!」

「うるせぇなぁ。今は戦闘系の講習中だろうが。黙ってそれ系の授業受けろ」

 何でコイツ教師になれたんだろ……、というような生徒全員の視線を一身に浴び、天月は教科書に視線を戻し、面倒くさそうに教科書を読み始めた。

どうも!


今回は少し短めになりましたが、続けて区切りのいい場所まで行くと多分すごいことになるためここまでにしました。


次回は、歴史の授業です。


それでは、また次回。

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