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第五話 再会と誓い

用語解説


使倶シグ


この世界のほとんどの人間が持ってる高純度情報圧縮型端末。正確には高純度情報圧縮型演算補助端末、と長ったらしい名前なんだ。

人間の中枢意識の中にあり、術式などを使うときはこれらが演算を代用してくれるから戦闘面などにおいても術式の高速構築が可能になるんだよ。簡単に言えば計算する用の意識と自分達より出来のいい脳味噌がもう一つ搭載されたって感じかな。言葉だけで聞くとグロいけど。

形は色々あって、動物型はもちろんのこと、人間型っていうのもあるんだよ。ある程度の自立意識や個性を持っているからペット感覚で持っている人もいるんだ。

これらは神社や寺院などで形状モデルが販売されているんだよ。ま、僕は今のやつは自分でプログラムして作ったんだけどね。

                             by エル=エル

 《再世暦さいせいれき一〇〇〇年 七月十五日 午後十二時九分》

 関東近辺の森の中をひたすら走る影がある。

 数は二つで両方とも男。彼らは今、絶賛逃亡中だった。

「な、なあ……」

 息も切れ切れに、後ろを走っていた男が言った。

「な……んだよ……」

 前を走っている方も辛そうに答える。こっちは後ろの男よりも辛そうだった。ここまで明確に身体機能が低下するなら煙草なんて吸うんじゃなかったと、彼は後悔していた。

 後ろの男がなおも言葉を続ける。

「あれ……なんだったんだ……」

 知るか、と辛そうに答え、前の男は考える。

 二人は関東の守護兵団所属の平隊員だ。先日、関東最大の探知機レーダー『オテント』が探知した強力な神力(しんりょく)反応を調べるためここに派遣された。

 最初は異常な反応があったこともあって全員が強張ったような面持ちだったが、現場に到着し、作業も一通り終え、特に何の問題もなかったため、全員で『オテント』の性能も当てにならないなどといって笑っていた。

 そして、あれに出会った。

 最初は自分達をいれ七人いた調査団は遭遇して僅か三秒で、その中ではトップの実力を持つ二人がやられた。それを見て逃げ出したメンバーも、それから三十秒後に三人目がやられ、それからは憶えていない。気がついたら後ろにいる男と二人だけになっていた。

「あ、あれ……どう見ても……」

「喋るな! 今はとにかく走れ!」

 前の男は荒い呼吸で痛む喉を振り絞り、怒鳴りつける。

 通信を入れようと使倶シグを呼び出しているのだが、先ほどからまるで連絡がつかない。電子画面に映るのは砂嵐でもなく、ただ『通信中』という文字だけが映っている。壊れていたり通信を妨害されているというよりも、まるで通信という技術そのものが無力化されているというような感じだった。

「で、でもあれ……」

 自分も必死なくせに、後ろの男がなおも食い下がるように言葉を発する。通信も出来ず、イライラしていた前の男はまた怒鳴っていた。

「だからなんだって言うんだよ!」

 後ろの男は今でも信じられないと言うような口調で、

「あれ、どう見て…も……にんげ―――――」

 そこまで言って、不自然に言葉が消えた。呼吸を整えているのかと思ったが、そもそもその呼吸の音がしない。

 転んだのかと思って前の男が振り向くと、


 そこに、あれがいた。


 後ろを走っていた男が、それに首の後ろをつかまれて宙に持ち上げられている。

「っ!?」

 驚き、呼吸が乱れ、足がもつれて盛大にすっ転んだ。

「あ……ぎぃいいい……!!」

 涙目になって後ろの男は暴れるが、それは一向に動じない。それどころか微動だにもしない。

 不意に、それが掴んでいる男の首から、青白い発光が起こる。それは煙のように空間を一度漂い、すぐにそれの手の中に吸収されていく。

「あああ……!」

 そしてしばらく経った後、後ろの男は徐々に動きが小さくなっていき、やがてピクリとも動かなくなった。

 前の男はその光景を見て、何もできずに震えていた。

 知っている。今の光景を、彼は知っていた。

 だが同時に信じられずにいた。今の現象を引き起こすことが出来る存在はあんな姿はしていない。

 目の前にいるそれは、白と黒、純白と漆黒の入り混じった衣装を身に纏い、光り輝く金髪をなびかせたその姿は、間違いなく人間だ。人間の男性だ。自分の知っているあの現象を引き起こす存在とは似ても似つかない。

 その時、その金髪の男が同僚を脇に放り捨て、自分のところに向かってきた。

 尻餅をついたまま後退るが、二足歩行となれない尻餅歩行などでは勝負にならず、簡単に近づかれ首を掴んで持ち上げられた。

 彼は研究担当員であり、戦闘訓練を受けていない。全力疾走して息も切れ切れで、尚且つその状態で呼吸のかなめである喉をつかまれたら満足に暴れることも出来ない。

「ふん―――――」

 金髪の男が口を開く。見た目は若く、まだ幼さも残るその顔はどれだけ見積もっても二十代前半ほどだろう。

「お前、何をそんなに怖がってんだ?」

 金髪は言った。解りきったことを。

 仲間を全滅させられた相手に首根っこを掴まれたいるのだ、怖くないはずがない。ためしに銃口を脳天に突きつけて同じ質問をしてやりたいが、いかんせん彼は銃を持っていなければそんなことを言っている場合でもない。今はただひたすらに逃げるべきなのだが、どうもさっきから体が動かしにくい。

 もう空元気すらも出なくなったのかと思い、男は気付く。自分の首から淡い光が発生していることに。

 男の顔が強張る。声を上げようにもすでに全身の筋肉が弛緩し声が出ない。

 神力還元ソル・ドレイン

 金髪が男にやっているのは間違いなくそれだ。体中から生命を定着させる効力を持つソル・エナジーを吸い上げる力。

 しかしこれは人には使えない。人はソル・エナジーの許容量キャパシティーが生まれてから減っていくだけであり、上昇はしない。器の中の水が減っていくと言うよりも、その器自体が小さくなって水が零れていくようなものと表現すればいいだろう。とにかく、人にはこの力は使えないのだ。

 男は金髪を睨みつける。お前はいったい何なんだ、なぜこの力を使えるんだ、そう問いかける眼だった。

 それを金髪は理解したのか、ニカッと、口の端を吊り上げた。

「俺が何者かって? 決まってんだろ―――――」

 金髪は言う。それは自慢すると言うより、解りきったことを訊くなよ、と言うような調子だった。

 しかし、力を全て吸収された男は、その言葉を最後まで聞くことは出来なかった。


「俺は―――――悟神かみだ」


                        ●


「あれ?」

 動かなくなった男を見て、金髪はゆすったり叩いたりしてみたが、反応が返ってこない。それをもう一巡ほどやってようやく男が死んでいることに気付く。

「んだよ、せっかく悟神のこの俺が自己紹介してやったってのに。勝手に死にやがって」

 自分勝手な理屈をこねながら、金髪の悟神かみは男の死体から手を離す。ドスッという無機質で鈍い音が森の中に響く。

「あまり乱暴にするなよ、カース」

 不意に後ろから聞こえた低い声に、金髪、カースは振り向く。

 そこには彼と同じ純白と漆黒のカラーリングを施された服を着て佇む青年がいた。カースのように服を着崩しておらず、かけている丸眼鏡のせいもあってか嫌でも理知的に見える。

 名を、デミューという。

「んだよデミュー。だってよ、俺の自己紹介だぜ、身分証明書なくっても一発でレンタルビデオの会員カード作れるほどのインパクトのあるこの俺の自己紹介を聞き逃したんだぜ、コイツ。別にいいじゃん」

「試してみればいい。多分、『少々お待ちください』なんて言って時間稼がれてる間に自警団呼ばれて袋叩きにされるから。そういう意味ではインパクトはあるね」

「だろー!」

 はぁ、とデミューは大きな息をついた。なぜだろう、とカースは考えるが、面倒くさいので適当に切り上げて放っておくことにした。

「それにしても、予想以上に釣られてくれたね、人間ども」

 デミューは眼鏡をかけなおしながら少し意外そうに言う。カースは興味がないため、地面に転がった男の死体をつついたりして遊んでいる。

「最初これ提案されたときはさすがにどうかと思ったけど、やってみると以外といけるもんだね。勉強させてもらうよ」

「だろー! なんたって俺悟神かみだからな。こんくらい楽勝だよ!」

 僕もなんだけどね、とデミューは一応付け足す

 彼らが行っていた作戦とは、簡単に言えば人間の警戒心を使った釣りのようなものだ。

 悟神族への警戒を常に怠らない人間たちの都市施設の近くで神力を展開ししばらく動かなければ、向こうはこちらを探りに来るしかなくなる。そこで退路を断ち、人間達からソル・エナジーを吸収する。

 最初、デミューは反対していた。いくらなんでもそう簡単にはいかないと。しかし立案者である目の前のカースと他のメンバーがある者は面白半分に、ある者は面倒くさいからという理由でこの案が採用されたときの彼の心中を知るものは少ない。

 しかし蓋を開けてみれば面白いほど簡単にいくので、これは素直に褒めるしかなかった。

 すると金髪の悟神が口を開き、

「なあ、今の分くらいでもう充分じゃねぇか、神力」

「そうだね、この短期間にしては集まったほうだよ。他の場所にいるみんなも充分集めたみたいだから、連絡入れとくよ。これ以上溜めると作戦に支障が出そうだ」

 言って、デミューは眼鏡をかけなおす。新しいのにしたら、とよく言われるのだが、遥か昔からの愛用品であるため頑なに拒み続けている。

 そういえば、と前置きをして、

「いい情報が入った」

 カースは死体の持っていたものを漁りながら首だけを向ける。デミューは一呼吸おき、

「例のものが襲撃予定地にいるらしい。うまくいけば両方手に入れられる」

 それを聞き、カースの顔に満面の笑みが浮かんだ。

「マジにかっ!? すげぇな流石さすが俺!」

「いや、君関係ない」

「いやいやいや!! 俺だろコレ、作戦考えた俺のおかげだろ! むしろ一周して俺だろ! もう一周してもっつうか何週しても俺だろ!?」

 むしろお前を文字通り一蹴してやりたいとデミューは思うが口を慎む。彼は一応クールで通している自分のキャラが崩壊しかけていないことを確認し、

「とにかく、決行は今夜、だね?」

 冷静に、訊いた。

「もちろんだっつの!」

 カースは力強くうなずき、

「我慢はもう終わりだ! クソッたれに窮屈で欲求不満な毎日は終了だ! 今宵、俺たち復活だぜ!!」


                        ● 


 喜世子はディバイブ・コンダクターを構えながら、目の前に相対している馬鹿を見る。

 相も変わらずその顔にはいつもの微笑を浮かべてはいるが、雰囲気は違う。戦闘を行うもの特有の、ピリピリとした、熱気にも冷気にも似た不思議な感覚。それが今は漂っている。

 さあて、どうくる……。

 自分は強い。傲慢でも誇張でもなく、事実だ。

 実際に本気で向かえば、自分のクラスの生徒がどんな策を持ってこようと姿を見せた瞬間に倒すことの出来る実力を持っている。もちろん目の前の馬鹿も例外ではない。

 しかし今はそれをセーブして、最大でも六十パーセントが限度だ。実力的にはこれでイーブンだろう。

 一人の生徒に対して贔屓ひいきするつもりはないが、森羅は強い。

 爆発的な攻撃力、考えもしないような奇抜な戦闘法。どれをとっても他の生徒達よりは実力は秀でている。もっとも奇抜な戦闘法といっても、本人曰く単純にコレがよかったと思うことをがむしゃらにやっているだけらしいが。さすが馬鹿だ、と思わざるをえない。

 なら、それを踏まえた上で戦略を組み立てるか……。

 これでも学生時代は最強の内の一人にも数えられたことがある。自分の実力に生徒達が追いついてくるのは教師として嬉しい限りだが、

(でも、教師として上に行かせたくないっていう意地が出ちゃうのよね……)

 そんな自分は意地が悪いかな、と思いながら、改めて喜世子は森羅を見据えた。

 後ろでは、生徒達が固唾を飲んでこの戦いを見届けようとしている。せいぜい無様な戦いだけはしないでおこうと心中で誓う。

 街の方から建設現場の作業音が聞こえてくる。ハンマーの甲高い衝撃音が鳴り響いてくる。

 その瞬間、両者が同時に動いた。

 授業が、始まった。


                        ●


 両者が同時に距離を詰めた。

 喜世子がディバイブ・コンダクターを右から水平に振るう。

 森羅はそれを見越していたかのように踏み込んできた喜世子の左脚に向かって両脚で滑り込みんでくる。このまま当たれば恐らく足をすくわれて体勢を崩して転ぶか、最低でも重心を崩されてしまう。

 間に合わない、すぐに分かった。なので喜世子は踏み込む左脚に思い切り全体重をかける。

 ズンッ! という重低音で地面がくぼみ、それと同時に森羅の低くなった頭上をディバイブ・コンダクターは素通りし、森羅の両脚が喜世子の左脚と激突する。

「……あら?」

 体勢を崩すどころか微動だにしていない喜世子に森羅が引きつった笑みを見せる。蹴りの感触が地面に食い込んだ杭のようだったのもその原因だろう。

 喜世子が笑った。

 いくら両脚で助力をつけた蹴りでも、上から自分が、下から地面が思い切り体重をかけ合えば左脚を完全に固定しきるのは分けない。それでも当たった箇所がすねであるため喜世子は若干目が潤んでいる。

 森羅が反応するより速く、喜世子は片手でディバイブ・コンダクターを上段に構え、倒れたままの森羅の頭部に振り下ろす。

 結構速く振ったのだが、森羅は頭を傾けるだけでそれを避けた。

 しかしそれでは終わらず、そのままディバイブ・コンダクターに手を回し、肩の部分で固定すると、身体を丸めるように脚を曲げ、それを伸ばすと同時に喜世子の顔面目掛けて蹴りを放つ。

 寸でのとこで仰け反るようにそれを避け、仰け反った反動の力を使い、力任せにディバイブ・コンダクターを森羅ごと振り回した。

 遠心力には逆らえず、森羅は手を離し、ありえないといった顔で飛んでいく。

 脚を地面で擦りながら止まるが、止めた反動を相殺しきれず膝がガクガクと震えた。

「まったく、乙女の顔を蹴ろうとするなんて紳士じゃないわね、あんたも」

 その言葉になんだとー! と森羅は憤慨し、

「おいおいおいおい、先生! 今は戦育だぜ、実戦形式だぜ!? そりゃ仕方ねぇって。大体、俺以上に紳士な奴がこの地球上にいるか?」

「いるわよ。アンタ以外の男全員」

「真顔で言われた!? おいおいおいおい! そりゃねぇ、ぜ!!」

 いい終わりと同時に、森羅は右の腕に赤の炎を形成し、喜世子に向かって拳を突き出し、射出する。

 中空に赤の線を引きながら飛ぶ炎は、しかし振るわれたディバイブ・コンダクターよって弾かれ、空の彼方へと進路を変える。

 森羅は立て続けに数発、同じように炎を飛ばすが結果は全て同じだった。

 喜世子のあまりにも速すぎる振り抜きは空気を裂き、炎との間に出来た真空の層で炎が弾かれる。

「どしたの? まさかコレが本気?」

 喜世子の呼びかけが森羅に届く。その声には若干、失望の色が混じっていた。

 森羅は頭をかいて、

「いやー、まあ、今んとこはコレが限度かな……」

 恥ずかしそうに俯きながら、

「だぁー、くそっ! やっぱダメだ。先生相手に赤炎えきえん燈炎(とうえん)じゃダメだな。うん、ダメだ。これはダメだ。ダメだダメだ。っつーことで、どーだ羽撃」

 森羅は振り向かないまま、後ろに向かって声を張る。そこにいた羽撃はいきなり呼ばれ、

「えっ? なにが?」

 少し狼狽したように返答してしまう。森羅は続けて、

「今の見て、俺、先生から六十パーも力引き出せるように見えたか? はい、回答券は羽撃さんです、どうぞ」

 右手を横に差し出すようにして回答を促す森羅に羽撃は、

「ううん、全然見えない。強いて言うなら身の程知らずという言葉がとても似合う」

「即答だな、おい。ちょっと心が折れかけたぜ、俺……、と言うわけで」

 森羅は立ち上がり、

「先生、ちょいタンマね」

「理由は?」

「便所タイム的な位置づけで」

 そう言って、森羅は羽撃の元に歩み寄っていく。

「今のままじゃ先生にゃ勝つどころか並ぶことも出来ねぇ」

 森羅は言葉を続け、

「まあ、なんだ、俺を助けると思って、あと、穢れを知らない俺の心を小学生が拾った棒っきれの如くへし折ろうとしたことについての謝罪も込めて」

 羽撃の前に立ち、

「オッパイ俺に揉ませろ!」


                        ●


「いやに決まってんでしょうがぁ!!」

 森に羽撃の絶叫が木霊こだました。

「いやだって、このままじゃ俺、先生失望させちまうし。俺の本気はまだまだこんなもんじゃねぇ、ってとこを見せるためにも」

「だからって何で私なのよ!」

「いやだってよ、この中じゃお前が一番デカいし」

「それだったらルーの方が大きいじゃない!」

 羽撃は力強く後ろの方の茂みに隠れていたルーリィを指差す。

「あー、ルーちゃんはダメだよ。だってルーちゃん、もう伸太のモンだからよ」

「ししし、森羅君っ!?」

 ルーリィは顔を真っ赤にしながら茂みから飛び出し、森羅の元に走りよっていく。

「ななななんで、いいい言わないってあのとと時―――――!!」

「えっ? あー……そうだっけ? ゴメン、実はあん時ビックリしすぎてよく憶えてねぇんだわ。だって歩いてていきなり路地の影でクラスメイトがキ―――――」

「キャーーーーー!! 言わないで!! 言わないで!!」

 ルーリィは森羅の言葉を遮るが、森羅は尚も言葉を続ける。

「でも実際、男性恐怖症のルーちゃん落としたんだから伸太の野郎すげェよな。どこに惚れたの? 顔? 俺もあんだけ色黒くしたらカッコいい?」

「そ、それは優しいところとか……、じゃなくて!!」

 ルーリィは涙目になりながらポカポカと力のない拳で森羅の胸を叩く。

「そんな……! あのルーが……!?」

「やっぱり男は胸があれば何でもいいのかしら……」

「必死で可愛い。ルー」

 後ろの女性陣からそんな声が聞こえてきた。それにルーリィはさらに顔を赤くし、もう諦めたのか力なくその場に膝を折ってへたり込んでしまった。

「おいおい大丈夫かよルーちゃん。おい羽撃、とりあえず揉ませろ」

「なにスムーズに欲望丸出しの発現してんの! 嫌に決まってんでしょ!」

「ちょっとだけ。ちょっとエロいことさせてくれるだけでいいから」

「そのワキワキとした手は何!? 発言がどんどんやばくなってるわよ!!」

 森羅はさらに手を動かす速度を増し、

「先っぽ! 先っぽだけでいいから!!」

「要求がどんどんエスカレートしている!! 変態のおっさんか!!」

 森羅は少し心外だと言ったような顔で、

「馬っ鹿違ぇよ。そこまでエロいこと要求するわけねぇだろ。ただ先っちょの部分摘ませてくれって言ってんだよ」

「尚悪いわ!!」

「だが聞かん!!」

 言うや否や、森羅は一瞬で手を羽撃の胸目掛け一直線に伸ばす。

 羽撃はそれに反応し、後ろにバックステップして回避しようとするのだが、遅すぎた。

 森羅の手が、あろうことか羽撃の胸の先端部に触れ、

「ひ―――――!!」

 短い悲鳴が場を支配する。その場にいた誰もが固まった。

「あんれー! おいおいマジかよ、まさかホントに先っちょいかせてくれるとは思わなかったぜ! ナイスだ羽撃! 俺は今最高に興奮してる!」

 森羅は指の動きを高速化しながら、純粋で穢れのない目で羽撃を見る。

 瞬間、羽撃の拳が森羅の顔面を捉え、馬鹿が弧をいくつも描きながら吹き飛んでいった。


                        ●


 数回地面を転がり、森羅はやっと止まる。

 あまりにダメージが強かったためかしばらくはピクリともしなかったが、それでもおぼつかない脚で立ち上がったときの顔は満面の笑みだった。顔面は鉄鋼機構スチール・フレームの防御エネルギーが削られないために瞬間的に防御を解除していたため赤くなり、鼻血が出ている。

 向こうでは、弓を最大出力で構えたとんでもない形相の羽撃がマキとアンナに抑えられていた。

「大丈夫?」

 喜世子が心配そうな顔を向けてきた。思えばこの人なんだかんだで結構優しいんだよな、などと思いつつ、

「イエッサー、ボス!!」

 そして、と森羅は続け、

「来たぜ来たぜ来たぜーーーーー!!」

 彼の体が突如として震え始める。

 拳を胸の前で合わせ、上下に擦るように何度も打ち付ける。それは速度と回数が増していき、辺りにせわしない金属音を響かせ続ける。

 そして、その両の腕に赤の炎が灯った。

 森羅は尚も打ち付け続ける。

 炎は大きく揺らぎ、その色を赤からとうに変える。

 そしてその色をに変える。

 そしてその色をみどりに変える。

 そして、その色をせいに変えた。

「来たーーーーー!!」

 叫び、歓喜するように両腕を振り上げた。瞬間、炎は森羅の意思に反応したのか、爆発したように火力を上げる。

 空間に澄んだ色を焼き付けながら、振り上げきったところで炎は火の粉を振りまく。

 その済んだ青の火の粉は、さながら雪が降っているような神秘的な光景を見るものに焼き付けた。

「ひっさしぶりに清々しいぞぉーーーーー!!」

 うおおおおお!! と原人のような叫びを上げたあと、森羅は改めて構え直す。その眼は興奮と歓喜で溢れて決壊寸前といったようだった。

「ここまでは予想してなかった!! すげぇぜ先っちょ!! 五段階まで解除できるなんて!!」

「そこの危ない眼をした変態、一つ訊くわよ」

「なんでも訊いてくれよ!! 今の俺は何でも淫らに答えられそうだぜ!!」

「いや、別に淫らじゃなくていいけど……待て服を脱ぐな!!」

 眼前の馬鹿はいきなりズボンを下ろしたが、火力の強い青の炎のおかげで大事な部分は見えずにすんだ。

 興奮しすぎてあっちーんだよ!! と叫ぶ馬鹿を見て、さっさと始めようと決めた喜世子は、

「もう、六十パー、出していいのよね?」

 訊く。

 それに対してのズボンを上げた馬鹿の反応は、

「もちのろんに決まってんだろ!!」

 構え、今まで見せたことがないようなやる気に満ちた答えを返した。


                        ●


「おいおい、まさかいきなり青炎せいえんかよ。こりゃまさかどんでん返しあるかもな」

 リョーヘイが期待の目を向けて試合を眺めていると、

「どうだろうね」

 不意に後ろから声が聞こえ、そちらを振り向く。

 そこにいたのはエル―――と棗とそれに肩を貸してもらっているアクエリアスだった。

 さらに後ろからは水溜りが移動しながらこちらにやってきている。誰もがそれが糸祢だと理解していた。

「よう、無事だったか」

 皆どこかしこに小さな傷を負っていたり、アクエリアスは肩を貸してもらい、糸祢に関しては黒焦げになっていたが、リョーヘイはとりあえず月並みな声をかける。

 エルはブスッとした表情で、

「そっちに比べたら重傷だよ」

「すいませんでした」

 とりあえず分かっていて訊いた手前、そう謝っておく。

「俺なんか防御エネルギーゼロで喰らったんだぞ。無事なわけあるか」

 アクエリアスが若干怒気をはらんだ声で言う。そして憎々しげに森羅の方を見て、

「負けてしまえばいいんだ、あんな奴」

「そうだね、最低でも頭蓋骨が粉砕骨折してくれるくらいじゃないと僕らの気がすまないよね」

「いや待て。それはあんまりだ。あれでも級友なんだぞ、首の骨をへし折られる程度にしておいた方がいい」

「なるほど、つまり全員満場一致で死ねと」

 すると糸祢が、

「いんや。俺は先生に負けて欲しいぜ」

「「「「あれはお前の自業自得」」」」

「あれー!?」

 黒焦げにされた経緯を知っていた誰にも賛同を得られず、糸祢は悲しげに顔を伏せた。

「ほら、もう泣くなって」

 茂みががさがさと揺れ、中から声が聞こえる。

 そこから出てきたのは魔界男子四人組スクウェア・フォースと、彼らに慰められながら泣いて歩いているノリエルだった。

「どしたん?」

 リョーヘイが怪訝な顔をする。訊いたのはもちろん泣いているノリエルのことについてだ。

「いやな」

 代表として伸太が口を開き、

「先生の攻撃でパルス・ウェーブが吹っ飛んじまってよ。木が倒れた中に埋もれちまってて、探してる間に見つからないんじゃないかって半泣きになって、見つかったはいいけど、勢いよく吹っ飛んだせいでエッジの部分が少し欠けててよ。それで涙腺崩壊した」

 言って、伸太はノリエルが両手で前に抱えているパルス・ウェーブの一部を指差す。そこには、顔をよく近づけてみなければ見えないほどの小さな傷がついていた。

「泣くなよ! こんくらいで!!」

「簡単に言わないでよ!!」

 リョーヘイの声に、ノリエルがその上を行く声量で反発した。

「エッジの部分は攻撃の要なんだよ。しかも見た目だけじゃない。調べたら機能の色々なとこがかじられたみたいに微妙な不具合があるし、修理費が……」

 がっくりとうな垂れるノリエル。

 彼は実家が機械工を営んでいるためこれらに詳しく、パルス・ウェーブも自作した。払うものさえ払えば武装デバイスの改造から修理まで何でもこなしてくれる。

 だが最近収入のない彼にとって今の修理費は正直痛手だった。

「あら、勢揃いですわね」

 アンナが貴族らしい優麗な足取りで男子たちのほうに歩いてきた。その後ろにはマキとルーリィ、胸を押さえて涙目の羽撃がいる。

 全員が揃ったところで、

「お前らどう見る。最強の一角と“原初魔術プロト・マギカ”。どっちが勝つと思う?」

 リョーヘイが皆に質問した。それに答えたのはエルだった。

「さっきも言ったけど、どうだろうね。原初魔術プロト・マギカ機械魔術(デジタ・マギカ)が生まれる以前の、本来、大半が悟神族に奪われてしまった魔術文明の残った力をそれのみで進化させた純粋な魔術。制御は本人の精神と心力のみ。扱いやすく強力だが、逆に暴走の危険性も秘めている力……。

 対して先生は純粋に現代まで研鑽されてきた機械魔術デジタ・マギカに、本来持つ化物じみた身体能力がある。いくら六十パーセントと言っても、それらを組み合わせたら尋常じゃない強さになる。

 森羅は今かなりの戦闘力だけど、正直分からないってのが簡単な答えかな」

 しかし、と口を挟んだのは魔界男子四人組スクウェア・フォースのイコルで、

「それを言うならば森羅も元々の身体能力は高い方だぞ。それに、戦育では見せたことなどない青炎まで発動させている。俺は森羅の方に分があると思うがな」

 皆もうーん、と思案してみる。

「でも、なんでアイツ青炎出せるほどになってるんだ?」

「……とりあえず死ねばいいのに」

 思い出したように糸祢が言うと、そんな呟きが聞こえた。出所は俯いている羽撃である。

「なあ、羽撃どうしちゃったんだぞ?」

「ああ、実はな……」

 ゼンオーに耳を貸し、リョーヘイが事のあらましを説明する。

「なにー!! 羽撃のオッパイ森羅が揉んだのか!? しかも先っちょだと!?」

 大声で叫ぶゼンオーに慌てて静まるようにリョーヘイは計らうがすでに遅く、

「なんだと!? あの鬼畜男め!! 許さんぞ!!」

「一度殺さないとダメみたいだな……! 叩き切る!」

「みんな武装デバイスを展開するんだ! あのクズを殴殺する!!」

 火薬に火の粉が飛んだように次々と男子が声を荒げる。

「もうやめてーーーーー!!」

 羽撃は改めて恥ずかしがり、顔を伏せて泣き出してしまった。アンナとマキが男子陣を睨みながらそれを介抱するが、男子たちは聞いていない。

 しかし、オッパイという単語であることを思い出したリョーヘイが、

「おい、伸太」

「うおおおおお!! なんだよ!?」

 興奮状態の伸太はリョーヘイのほうを振り向く。

「お前、ルーちゃんと付き合ってるって本当か?」

 伸太の顔が一瞬で強張り、あれだけ騒がしかった男子たちが皆一様に静まった。

「え、ちょ、なに? 何のこと? 俺知らねぇよ!?」

「森羅が言ってたぞ。路地裏でキ―――――」

「キャーーーーー!!」

 リョーヘイの言葉を遮り、涙目でルーリィがリョーヘイのところまで走っていき、

「そ、それは言わないで! みんなにバレちゃうから!!」

 これほど手遅れと言う言葉が合う言い訳もないな、とリョーヘイは思い、確認が取れたところで、

「皆かかれーーー!! 彼女持ちを抹殺しろぉーーー!!」

 うおおおおおお!! という言葉と共に、逃げ出そうとした伸太を男子全員が取り押さえ、組み伏せた。

「は、離せぇ! 俺が幸せになって何が悪い! それを妨害する権利なんてお前らにはないだろ!!」

「黙れ裏切り者が!!」

「おい一番手誰だ! 一発デカいの行け!!」

「や、やめ―――――!!」

 裏切り者がなにかを言おうとしていたが、さっきまで泣いていたノリエルのギロチンドロップで、その言葉は遮られた。


                        ●


「すっげぇな、結構良いの入ったぜ今」

 向こうで行われている私刑リンチを傍観者気取りで眺めながら、元凶はヘラヘラと笑う。丁度イコルが変身トランスしてのボディプレスを決めたところで、視線は眼前の喜世子に戻された。

「じゃあいくぜ先生。今度は退屈させないからよ」

 喜世子はディバイブ・コンダクターを構え直し、

「来なさいな。ところで、青ってどんな能力だっけ?」

 森羅の原初魔術プロト・マギカ心色の炎(フレイム・ハート)』はテンション、心の高揚によりその力を七段階に分けて上昇させる。

 今の青は第五段階の炎であり、そして炎はにはそれぞれ特化した能力を持っている。

 森羅は口の端を吊り上げる嫌な笑みになり、

「むっふっふ。これだ、よ!!」

 途端に、眼前にいる森羅が姿を消した。

 目の前にいた喜世子も、私刑リンチが一通り終わって戦いを観戦していた生徒達も皆眼を見張った。

 そして、生徒達の眼は捕らえる。

 喜世子の後ろに森羅が現れたことに。

 そして、青の炎を纏った拳が振り下ろされた。


                        ●


 喜世子は感じる。

 自分の背後に今までなかった熱気と、不自然な気流が発生したことを。

 そしてすぐに森羅が自分の後ろに現れたのを理解する。

 自分の身体能力には自身がある。だが、このタイミングは遅すぎる。いくら速く動いても当たってしまう。防御は出来ない。

 仕方ないか……。

 喜世子は今出せる本気、六十パーセントまで全開に力を出す決意をした。

 まず、神秘力豪ミスティ・タイラントを発動する。

 他の生徒達に使っていた簡易型発動ではなく、フルで力を出し切る完全発動だ。魔術陣が両手足首に出現し、彼女の身体の身体能力が向上する。

 そしてさらに鋭加神経ハード・コマンドを発動させて遅れた反応を取り戻す。彼女の眼に同じように魔術陣が現れ、発動を知らせる。視界が一気に澄み渡ったようになり、肌が音まで感じるほど鋭敏化される。

 準備は整った。


                        ●


 森羅の拳が当たる瞬間、喜世子の行動は速かった。

 喜世子はディバイブ・コンダクターを持ったまま高速で回転し、後ろの森羅に振るう。

 それはあまりにも速く、完全に当たるタイミングの攻撃を放った森羅よりも速く彼の顔面を捉え、飛来する。

 森羅は突き出していた右手を止め、振るわれたディバイブ・コンダクターをそれで受けた。

 喜世子はそれと同時に無理矢理押し切ろうと力を込めてくる。右腕が森羅の顔にへばりつくように押し込まれてきた。

 瞬間、森羅の纏う炎が色を変えた。

 炎はに変わり、そこで踏みとどまったのだ。

 さらに押し込んでくる喜世子。だが、森羅はそれでもびくともしない。

 すると、なんと森羅は両手で押し込んでくる喜世子のディバイブ・コンダクターを左腕一本で押さえ、フリーになった右腕で空いた腹部へ向かって拳を放つ。

 それを喜世子は持ち上げた左脚で受け、その反動を使って飛び上がり、距離をとる。

 しかしそれだけでは終わらず、喜世子は空中で大きく仰け反って反転し、ガン・モードに切り替えたディバイブ・コンダクターを森羅に向けて引き金を引く。

 弾ききる……!

 森羅はすぐに拳を放ちやすいよう脇を閉めた構えを取る。

 が、引き金が引かれてそれが無意味になる。

 放たれた弾丸は予想していた通り散弾だったが、その数が尋常ではない。喜世子は高速でポンプアップを繰り返し、一瞬で数十発もの散弾が放たれる。空間をびっしりと埋め尽くしたそれは、とてもではないが弾いて防御など出来ない。

(なら……!!)

 森羅の意思に呼応し、黄の炎が緑へと色を変える。

緑炎りょくえん!!」

 森羅は拳を水平に振るう。すると発生していた緑の炎はシャボン膜のように薄く伸びて広がり、森羅の前面を覆うように展開した。

 散弾はそれに当たり、蒸発した音を立てて消えていく。

 喜世子は地面に着地し、額の汗を拭う。

「すごいわね。ここまでとは思わなかったわよ」

 それから思い出すように額に手を当て、

「えーっと、赤が普通の燃焼力、燈が爆発による広範囲攻撃、黄が筋力強化、緑が防御能力特化、青が速度強化、これで合ってるわよね?」

「おう! 合ってるぜ!」

 森羅は荒い息で汗も拭わず、ただ眼前の喜世子を見やる。

 強い……。

 ただそれしか思えなかった。

 実際、森羅ははあそこまでの余裕は持てないでいた。

 さっき放たれた攻撃の数々、それらを的確な判断と速度で行う喜世子に、はっきり言って付いていくことしか出来ていない。それだけでかなりの精神を使う。

 まともに自分から攻撃を出せたのは最初の一発目だけだ。

「じゃあ、もう今のところ手の内は全部さらしちゃったって訳ね。こっからが厳しいわよ」

「上等!!」

 森羅は呼吸を若干荒くしながら構える。

 すると、

「おーい!!」

 緊迫した空気の中に、間の抜けたような声が割り込んできた。

 そちらを見ると、

「お兄ちゃーーーん!!」

「こら真白、今授業中よ!」

「おお、マイシスター! そしてしっつん!」

 喜世子の言葉を遮るように森羅が声を上げた。

 そこに現れたのは真白と、その横に立って歩いてきている獅子緒だった。

 そして、

「あん? 誰だ、そこに隠れてるの?」

 森羅は真白のすぐ横の木に隠れている誰かを見つける。真白は含んだ笑いを見せながら、

「今日はなんとサプライズゲストがいるんだよ! はーい、出てきて出てきて!」

 そうして、木の陰から引きずり出されるように一人の少女が出てきた。

 髪は透き通るような銀髪。鼻筋などが端整に整った顔立ちと、インナーに古臭い上着とスカートを着ている。

 そこにいる全員が、誰だ、と言うような顔をした。

 しかし、一人だけ違う表情をするものがいた。森羅だ。

 眼を開き、顔は驚愕の色に染まっている。

「ル……ナ……?」

 こぼれるようなその声に、モジモジとしていた銀髪の少女は顔を上げ、少し、照れくさそうな笑顔を見せながら、


「久しぶり、森羅」


 優しい声で、優しい笑顔で、そう言った。

 それと同時に、少女に向かって森羅は走っていた。

 喜世子が何か言っているが聞こえなかった。生徒達のざわめきも聞こえない。

 ただ走って、少女を、ルナを抱き締めた。

「えっ!? ちょ、森羅……!?」

 顔を赤らめて困惑するルナに、ただ一言、

「……会いたかった…………!」

 消え入りそうな声で、そう言った。

 泣いているんだと、分かった。

 後ろにいる事情の分からない全員が何事かと顔を見合わせる。男子陣でさえ、女子に狼藉を働いた馬鹿を始末しようと言う声が上がらない。そんな空気が漂っていない。

 二人の周りには、まるで神々しさとも思えるような立ち入ってはいけない空気が流れていた。

「十三年ぶりだね」

 小さな子供をあやすような優しい声で、ルナが言った。

「うん……」

 小さく森羅が頷いた。

「元気だった?」

「うん……」

 小さく言って、森羅が頷いた。

「友達いっぱい……出来たんだね。真白から聞いた」

「うん……」

 儚い声で言って、森羅が頷いた。

 森羅はルナの肩に手を置いて顔を上げると、涙を拭い、笑顔を見せた。

「ルナ! 約束憶えてるか?」

 訊かれて、ルナは顔を少し赤くした。

 十三年前の少年の笑顔が、今自分を抱いている青年に重なる。

 少し照れたように、

「うん……」

 と、今度はこちらが小さく頷いた。

「よかった!」

 森羅はじゃあ、と前置きして、

「これが約束成立のあかしな!」

「え……?」

 困惑したルナが顔を上げる。


 その唇に、森羅の唇が重ねられた。


「――――――――――!!!?」

 ルナがさらに顔を赤くして、前を白黒させた。

 後ろに見える、森羅のクラスメイト達が驚愕の顔でこちらを見ていた。


 ルナリア=アルテミル。生まれて始めてのキスだった。


 そしてこのキスの誓いが、後に人類全ての戦争の引き金になっていたことを知るのは、もう少し先になってからだった。

どうも!


今回から用語解説なんかを入れて少しでも分かりやすくしていきたいと思います。『これがよく分からないから教えて欲しい!』と言う方はぜひおっしゃってください。キャラクター達が真摯に答えてくれます。まあ、真摯の部分は確定できませんが。

ってか、本文のエル君、説明口調過ぎでしたかね……。


それでは、また次回。

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