顔のない配給列
【本文】
旧小学校と町の生活区画で、配給列で担当者の顔だけ思い出せなくなる作業が始まった。小春、朔、藤代佳乃、住民記録班が担当に入り、湊は幻術型による町の記憶汚染を今すぐ答えの出る問題として扱わなかった。
確認したのは端末表示だけではない。時刻、設備の温度、電位、紙の記録、立ち会った者の証言を分け、同じ出来事が二つ以上の手段で一致するか確かめる。
この日の基準は「記憶の正誤を多数決で決めず、物証・日誌・本人の不安を別々に扱う」ことだった。急ぐ理由があっても、本人の同意、医療上の停止、避難所の生活を飛び越える命令は認めない。
顔のない配給列に関する新しい記録は得られたが、それだけで所有者、味方、敵を決める表示は保留した。分からない欄には《未確認》と書き、沈黙を同意へ変換しない。
物資台帳は地域食料十日、体育館二日、旧学校三日、燃料一日。農業区画の作物はまだ収穫前で、遠隔地の支援情報も在庫へ加えない。減った数字を隠さず、医療、浄水、冷却を優先する。
記録は原文、観測、推測、決定の四欄に分けた。後から結論が変わっても、最初の誤りや迷いを消さないためだった。
湊は結論を自分だけで決めず、設備、医療、住民代表へ同じ原文を回した。賛成数ではなく、反対理由と保留条件も残す。
世界の声は短い成功表示を出したが、朔は得点も称号も受け取らない。生活台帳の数字が改善するまで、達成とは記録しなかった。
小春は能力表示だけで安全を断定せず、脈拍、睡眠、作業時間を地上の用紙へ書いた。異常のない者にも交代時間を設けた。
(次話へ)




