【TS】とびきりの美少女に転生しちゃったら、義理の兄貴が甘すぎるんだけど
可愛いものが好きだった。キラキラのアクセサリーやふわふわの縫いぐるみ、色とりどりのメイクにお菓子。
でも、好きになるのは女の子だったし、おっぱいが自分の胸に欲しいと思ったことはなかった……はず。
なのに今、俺は鏡の前で自分の動きにあわせて動く女の子を見て、胸の感触を確かめている。どう考えても、鏡に映る美少女に俺は転生したらしい。
思い出したのは少し前。
入学式に遅れそうになって走っていたら人にぶつかり、保健室に行く羽目になったんだけれど、その相手が王太子殿下と知って気を失ったのだ。
気がついたら奇妙なことに俺の意識とそれまでの女の子の記憶が同居していて、ふらふらしながら寮に帰ってきた。
前世の名前は木下尚翔。高校三年生で友達とタクシーに乗っていたところで事故に遭ったっぽいのまでは覚えている。
そして今はメアリー・メレディス。光魔法が使えることで貴族の養女になった元平民だけど、薄桃色の髪に緑の目でとてつもなく可愛い。着飾らせて彼女にしたいくらい可愛い。自分だけどな。
いったいどういう世界に転生したのか分からないけど、次の日から王太子殿下がちょくちょく話しかけてくるようになった。
「メアリーは困っていることはないかい?」
「メアリーの好きなお菓子はなんだい?」
「メアリーは、授業についていけているかい?」
何ていうか、いたれりつくせりで、勉強も殿下の側近候補の男に見てもらったりするようになった。
やっぱりまわりの奴らから見ると、俺ってイケメンに囲まれて調子に乗ってる子に見えちゃうんだろうなぁ。
でも男の子って、男子校を思い出して気楽なんだよな。ちやほやされるのはまぁ、悪い気はしないし。
でも、そのうち孤立したり、女の子に刺されそう。どうやって抜け出せばいいんだろう。
ある日、差し入れだよって殿下の護衛候補の男の友達が持ってきたのがフライドポテトで、食べたら懐かしくて泣けてきた。
「おいしい……。懐かしい味がする」
「そうだろう、料理長に相談して作ってもらったんだ。俺の昔からの好物なんだよな」
なんだかその言い方に含みがあるような気がして、名前を聞いた。
「俺はエドワードだよ。運動が大好きで騎士を目指してるんだ」
「ワタシはメアリー。光魔法が使えるよ。まだ貴族の振舞いには慣れてないんだ」
エドワードは真剣な目で何かを探るように見てきたけれど、それは何かわからなかったし、王太子殿下から呼ばれたから、それ以上話すことはできなかった。
その日の放課後、寮に帰ろうとしたらエドワードに声をかけられた。
「ポテトは細くてカリカリ派? 太くてホクホク派?」
「俺はしょっぱくてカリカリが好きだよ」
あ…………れ? うっかり普通に答えたけどなんか変な質問じゃね?
「カリカリかぁ、じゃあ木下かな?」
「なん……で……」
俺の名前知ってるの?
「俺さ、水瀬。タクシーに一緒に乗ってたじゃん?」
「水瀬!!」
「まさか、女になってるとは思わなかったよ」
それからは、王太子殿下の取り巻きグループによくエドワードも参加してくれるようになった。この世界にひとりじゃないと思うと、嬉しかった。
でもいつもいるわけじゃない。もう一人か二人転生しているかも知れないから探してるんだと言って、校内を巡っているらしい。
この世界のどこかだったら、学校では見つからないんじゃないかな?
そう思っていたのに、図書室で松本を見つけたぜと教えてもらった。水瀬すげぇ。
図書室に行くとエドワードに聞いた通りの茶髪に茶色い目の地味な男がいた。1度紹介されただけじゃ覚えられない雰囲気だ。
近くにはメガネをかけた頭の良さそうな女がいたけど構わずに話しかけることにした。
「エドワードに聞いたけど、本当に松本なんだ?」
少し驚いた顔をした男が口を開く前に、女の方が答えた。
「どなたか存じませんが、ミゲル様と仲が良さそうですね」
そのトゲトゲした言葉に、異世界に女として転生したのを自覚せざるを得なかった。
結局、男との距離感には気をつけろとか、この世界で身を守れとかお説教らしいことを言われたけれど、松本は松本だった。
いいなぁ。みんなちゃんと男に産まれてて。
心が男じゃあ恋人とか出来なさそうだし、誰かを好きになる資格もない気がした。一人で生きる方法探さないとな。
この世界で女ってどうやって生きるんだろう。聖女の登録はしているけど、城でなんか仕事あったりしないかな。
そう考えていたんだ。なのに……
夏休みに留学から帰ってきた義兄は、会うなり抱きしめてきた。恥ずかしくて心臓がバクバク言う。
「やめてくれよ、兄貴。兄妹なんだろ」
「なんか雰囲気が変わったけど、お友達ができたのかい? 照れなくていいよ」
「照れてねーよ」
「そんな顔では説得力がないね」
義兄のルシアン様は腕を緩めると、口角を上げてこちらを見たあと、あろうことか額にキスをした。
「…………!!!」
ルシアン様は、記憶の中ではメアリーの想い人だ。俺はというと男に抱きしめられてとても複雑な気持ちなんだけど、意外と気持ち悪くはならなかった。
元平民のメアリーは、光魔法が使えることを見出され、教会で聖女として働くことになったけれど、ルシアン様の一言でメレディス侯爵家の養女になった。メアリーの記憶の中では、ルシアン様はとびきりの王子様だ。
優しい人だなと思っていたけれど、学園に行っていたり、卒業後はすぐに隣国に行ってしまったり、関わりは薄かった。頭が良くて、今は薬学の勉強をしているらしい。
こんな人が、自分に甘いのは、兄妹が欲しかったからだろうと思っていた。それとは、違うのかもしれないと思い始めたのは、最近だった。
木下でもありメアリーでもある自分は、結局ルシアン様にときめいてしまう。気恥ずかしく、すぐには受け入れられないことだったけれど。
「メアリーには男友達が多いみたいだけど妬けちゃうな。本命の子がいたりするのかい?」
いつ調べたんだろうというようなことをルシアン様がいう。
「みんなただの友達だよ。ワタシは誰も特別に好きじゃない」
「特別は兄様だけにして。約束だからね。メアリーはずっとうちにいればいいんだよ」
「でも……」
ルシアン様が俺を抱えて膝に乗せた。
うわぁ、今日も近い。
そんなやり取りが夏休みの終わりまで続いて、ルシアン様は、また留学先に戻って行った。
いつか素直になれるかな。
素直になるにはルシアン様が甘すぎて、どうしたら良いかわからなくなるんだ。
いつの間にか松本の婚約者や、王太子殿下の婚約者とも仲良くなっていて、女の子でいることに馴染んできた。
最後の抵抗とばかりに、前世に近い話し方をしているけれど、元平民だからかそんなに気にされない。
そうして穏やかに過ごしていた頃、ルシアン様が帰省しているときに、友達の屋敷に遊びに行ったら、その場にルシアン様が乗り込んできた。男がいると言って怒っている。
嫉妬されていると思うと嬉しくなったけれど、恥ずかしくてカッとした。
なんとか、松本と水瀬は友達だとわかってもらったら、「メアリーは私の何が嫌なんだ」と求婚に頷かないことを詰めてきた。
元平民な俺と釣り合うわけないじゃないか。
嫌じゃないから、戸惑って困っているのに。誰も俺の気持ちには気づいていない。俺自身が一番困ってる。
「ワタシ、男の人が好きかわからないの」
やっとのことで、今の気持ちの一端を吐露すると、ルシアン様が一瞬驚いた顔をした。
今も女の子が好きかというと、それももうわからない。ルシアン様は特別だ。
「私が怖いってことだろうか。こうすることは不快だろうか」
ルシアン様がそっと手を取って不安そうな顔をしたから、首を横に振った。今までさんざん触っておいて何なんだよ。
「メアリー、他の男はもっと怖いと思うぞ。私で我慢しなさい。悪いようにはしないから」
「兄貴……」
結局、少しずつ距離を詰めるといいみたいなことを、松本の婚約者が提案したら、皆の前で膝抱っこされた。
うわぁ、恥ずかしいし、少しずつじゃないじゃんか。
「見せつけておかないとね」
皆には聞こえないような声で、甘く囁かれた。身体中が熱くなってどうしていいかわからない。松本が気の毒そうな顔で見ていて、いたたまれない。
「メアリーは、自分の魅力をわかってないから、危なっかしいよ」
帰りの馬車では、ルシアン様のなすがまま。
「結婚は両親も賛成しているから、心配しなくていいんだよ。早く独り占めしたい……」
甘い真綿で締められるような日が続いてから、浮気しないようにと言ってルシアン様は留学先に帰って行った。春には卒業で戻ってくる。不安なのに待ち遠しい。もう駄目だ。
ルシアン様の溺愛が、物語の強制力かも知れないと知ってショックを受け、自分の気持ちを受け入れることになるのは、もう少し先の話。
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