芋と呼ばれて
思えば初めからおかしかったのだ。
ファリンは王都から遠く離れた領地の子爵令嬢
魔獣がよく出て危険なため人口が少ない
ので税収が少ない
すなわちお金持ちではない
自慢は艶のあるブルネットと深い海のような瞳だけ。
顔の作りは悪いとは言われないが凡庸
知性が特別に輝いているという訳でもない
ファリンには跡取りの兄が居るため結婚相手は自由に決めて良い。
地元には出会いも無いため17歳になった今年は社交界デビュー&嫁ぎ先探しに王都に短期やって来た。
子爵家にはタウンハウスなど無いので王都に滞在する時はいつも伯父の屋敷にお世話になっている。
精一杯のお洒落をして
舞踏会で出会ったバルド公爵家嫡男のオスカーから
「君と目が合った瞬間雷に打たれたように恋に落ちたよ」
と猛アタックからの交際開始
王家の縁戚でもあるオスカーからの好意に戸惑いながらも受け入れ、そろそろ婚約か?と話が出かけていた今日この頃
伯父の名代で急遽参加した夜会の庭園で
オスカーと同じ公爵家である
シルフィード·ヴィルガス令嬢との逢瀬を目撃した。
「オスカー私辛いわ。いくらまやかしの関係と言ったってあんな女と子供を作るなんて。貴方が他の女に触れるのが、耐えられない」
睫毛を震わせる瞳は碧眼で髪は艷やかなブルネット
抱き合い熱い口付けを交わす
「シルフィ…シルフィ…僕だってあんな田舎者の芋みたいな女嫌さ。でも大事な君のか弱い身体に出産なんて危険な事はさせられないよ。
芋女には孕むまで数回はそういう事をするけど心はシルフィ君だけのものだよ」
「オスカー」
「幸い髪も瞳もシルフィと同じ色だ。輝くシルフィには遠く及ばないがね。
子供が産まれたらシルフィの子として育てる。教育を使用人に任せれば僕達が煩わされる事は無い。
シルフィはずっと美しく女神のように僕の隣に居てくれたら良い。」
「でも、芋女が近くに居たら嫌だわ」
「子供を産んだら用無しだよ?土に埋めたら良いさ」
人権とは?
私って芋女だから孕み袋にされちゃうの?更に埋められちゃうの?
いやいゃもしかして2人は芝居の練習をしていたのかもしれない。
だってオスカーはとっても情熱的に私を口説いてくれた。聞き間違えかもしれない。
次の日花束を持って伯父の家に来たオスカーは
「今度誰にも秘密で馬車で出かけないか?
郊外に小さな別荘があるんだ。是非君と一緒に過ごしたい。」
長めの金髪、中性的に整った顔面
スマートな体
一昨日まで好ましいと思っていた全てが
汚物の膜がかかったように見える。
ちっぽけな貧乏子爵家令嬢が行方不明になったとて
まともに探される事は無いだろう。
別荘に連れ込まれ監禁孕み袋コースは絶対にゴメンだ。
「考えておきますね」
花束を受け取り穏便にお帰り頂いた。
「それでどうするの?」
黒い長い髪がモッサりとした従兄弟のマーカスが話しかけてくる。
3つ上のマーカスは引きこもりだ。中等学校の頃から家から出ることがなくなったらしい。
幼い頃はファリンの実家に遊びに来て元気に遊ぶ普通の男の子だったのに
今は眼鏡に長髪、髭も疎らに伸ばして小汚い
服も最低限のシャツにズボンといういでたちだ。
マーカスの父は私の母の兄で伯爵である。
長男ルーカスは父である伯爵と一緒に文官として王城に勤めているが、次男のマーカスはずっと家に居て自分の部屋に籠っている。人柄が悪いわけでは無いけど20歳で働かないのは頂けない
将来が心配だ。
「家に戻るわ。」
「それが良いね。誘拐されでもしたら大変だよ。王都にはもう戻らないほうが良い」
「王都には戻って来るわよ?」
「何故?」
「コケにされっ放しは嫌だからよ。絶対に復讐してやる。オスカーとシルフィード令嬢には生まれてきた事を後悔させてやる」
ハキハキと喋り目を爛々と輝かす私に
「ファリンが何かやらかしたら親族皆に被害が行くから止めて欲しい」
「バレなければいいのよ!」
「本当に止めて」
領地に向う馬車にはなぜかマーカスも乗っていた
「引きこもりなのに家から出られるのね」
「ファリンの所は面白い魔獣もでるし何だか楽しそうだから」
「魔獣好きって変わってるわ。あんな危険な生き物」
「面白い生き物が好きなんだ。王都には全然居ないんだよね。虹色の毒を吐く魔獣とかさぁ」
王都は強い魔術士や魔女も居るから
守りが堅く魔獣は滅多に入り込めない
家の領地とは大違いなのだ。
馬車に揺られて3日後
自宅の屋敷に着いて早々にファリンは頭巾をかぶり
家を出て森に向かう
「どこいくの?」
「魔女の所よ」




