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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

一回死んでから考えよっ

作者: 春奈 零
掲載日:2025/10/12

約1年ぶりにお話を書いたので、なんとも読みづらいです。すみません。

なろうでは初投稿です。

「ごめん……やっぱり恋愛的に好きにはなれなかった……」


 学校の屋上。時が止まったような感覚になる。


「え……?いやだって、私のこと好きだって……」


 冷や汗がどこからか湧き出てきて、体が熱くなる。目の焦点が合わなくなって、視界がぼやけてくる。つまりは焦り。


「もちろん君のことは好きだよ?でも、それは友達として、友人としてで、恋愛的じゃないというか……。君が私のことをそういう意味で好きなのは否定しないし、嬉しいは嬉しい。でも、やっぱりわたしは、女の子のことを恋愛対象としては見れない」


 少しぼさっとした髪を耳にかける仕草をする彼女は、可愛くてどうしようもない。こんなときまでそんなことを考えてしまう、そういうところがだめなのかもしれない。

 暑い夏は終わり、少しずつ涼しくなってくる時期。遮るもののない屋上には爽やかな秋の微風が吹く。いつもなら清々しい気持ちになるのかもしれないけど、今だけはちがくて、逆に風が肌に痛む。


「……それで、」


 ただ目をパチパチしているだけの私を見かねてか、彼女のほうが先に沈黙を破る。


「それで……?」

「今のわたしたちの関係は良くないと思うんだ。君の気持ちはわたしには理解できないし、君の気持ちはわたしには届かない。ちょっと強い言葉でごめんね」

「で、でも、私はそれでもいいよ。例えずっと片思いでも、私は」

「だめだよ。君がよくてもわたしはだめ。これ以上はわたしは付き合いきれない。一回別れて、もう一回友達に戻ろ?」


 いやだ。絶対にいやだ。頑張って告白して、せっかく付き合えたのに。やっと3ヶ月で、やりたいことだっていっぱいあるのに。好きなのに。こんなに大好きなのに。なんで手放さないといけないの。

 でも、そんなことを言ったら私のことを嫌いになってしまうかもしれない。そんな考えで私の口はなかなか動かない。


「……ごめん。一回持ってくれる?」


 散々黙ってようやく出てきた言葉は曖昧で、ありきたりなそんな返事だった。



「はぁ……」


 真っ暗なくせに無駄に透き通った深夜の空には、私を嘲笑うかのようにきらびやかに光る十六夜が昇る。うざったらしくて、苛立ちさえ覚えた。自分でも月に八つ当たりをするのはどうかと思うが、それほど私の心は乱れている。

 なるべく考えないようにやることやって、布団に入ってみたはいいものの、全く寝れる気配がしなかったので、親に気づかれないように深夜の街に出てみた。警察とかにバレたらめんどくさいので、とりあえず周りの大人に紛れられるような服装をざっと選び。幸い、私は背が高いほうなので、バレないことを願う。


 私の住んでいるところは、少し歩けば有名な大きなターミナル駅があるせいか街の夜はキラキラしている。うるさいぐらいのネオンの光が余計眠気を覚ましていく。


「どうしよっ、かなぁ」


 どうしようかな。どうしよっかな、か。どうするかなんて、ハナから決まっている。別れるしかないのだろう。きっとそれ以外の選択肢は私どころかあの子すら、誰も幸せになるわけがない。これからもダラダラと同じことを続けても楽しくはないし、答えを先延ばしにしても、たぶんあの子の考えは変わらない。そんなことはわかっている。あの子と私の考えは、気持ちとかじゃなくてもっとこう根本的に違うのだろう。しょうがない、私は性的マイノリティ(少数派)だ。

 いくら賑わいのネオン街でも、深夜も深夜。飲みグループは3次会に入るような時間なので、人の行き交いは少ない。その中で、私はふと目に入った看板に載っているメイド姿の女性に視界が奪われる。


「似てる」


 不意に声が漏れる。それほどまでに似ていた、あの子に。つまり美人で私のタイプの女性だ。あの子をそのまま成長させたみたいな大人びた姿に、興奮さえ覚えてしまった自分が恥ずかしい。

 そういうところだ。私は一人合点する。たぶんあの子にとって迷惑でウザかったのだろう。正直になると、もちろんあの子のことは性的な目でも見ていた。仕方ないでしょと自分に言い聞かせてはいたが、あの子からしたら私はあくまで同性の友達の延長線。無理もない。自分は自分がキモいこともちゃんと理解してるし、それはあっちも理解した上での了承だと思っていたのだが、しかしそんなことはなかったのかもしれない。だからこそあの子と私の感情の乖離が、この数ヶ月で広がっていったのだろう。


「きもいな。私」


 「なにマジになってるの。」あの子の声で脳内再生される。吐き気が襲う。そんなこと言うはずがない。でも、今の私はあの子を素直に信じれない。だって私を散々弄んで、散々勘違いさせてきた女の子だ。少し人間不信になりそうだし、今後当分恋愛はしたくないかもしれない。

 この恋は私の初恋だった。高校生になる今の今まで恋愛をしてこなかった理由は、てっきり自分の恋愛対象はみんなと同じ異性だと思っていたからだと思う。私の心に刺さる異性にまだ出会えてないだけだと思っていた。だけど、あの子と出会うとそんなのは杞憂だったことに気づく。あの子は確かに特別だけど、それにしても私の心が奪われるのに時間はそうかからなかった。


 なんでか、私はあの子の顔が見たくなってしまった。それが間違いだった。写真アプリからあの子の名前を冠したフォルダを探す。その中からベストショットをクリックして拡大する。なぜか安心する顔にきもい笑みがこぼれる。幾度か画面をスクロールすると、思い出が走馬灯のようにフラッシュバックすると同時に、涙と吐き気が込み上げてくる。


「あれ?なんか……」


 ただでさえふらつく足元と、さらに足取りがバラバラになる。気持ち悪くて、目眩がして、ああもう無理だってなる。力を振り絞りスマホの待ち受け画面を見る。

 へへ。やっぱりかわいい。それが私の最後の記憶だった。



「……っ」

「あ、ようやく起きた」


 見慣れない天井と、見たことのある顔。で、なんだろうこれは。あ。


「太もも……?」

「第一声がそれか!」


 かわいい声だなって感じた。でもそんなことを感じている場合じゃない。


「わぁ。いや、あ、す、すみません!」


 膝枕から飛び起きる。そしてちゃんと見てから、あのコンカフェ看板のメイドさんだということに気づいた。


「わたしはいいんだけど。それよりキミ。大丈夫?」

「だ、大丈夫です、大丈夫ですけど、でもなんで……」

「なんでって、キミがわたしに飛びついてきたんだけどな。もしかしてあんまり記憶ない感じ?ODかな?」

「あ、全然そういうのじゃないんですけど、記憶は曖昧で、」

「そっかそっか。でもキミ18超えてるって感じじゃないけど、どうしたのこんな時間に。中学生にも高校生にも見える……さては家出少女か!」

「家出ってわけでもないんですけど、そのなんていうか……」


 彼女の包容力というか雰囲気にのまれてしまって、とりあえず上っ面の部分だけ話してみることにした。


「なるほどねぇ。よくあるタイプか」

「なんですか。よくあるタイプって。当事者でもないくせに」


 つい、ちょっと突っかかってしまった。私の良くないところでもある。


「ありゃ、地雷踏んじゃったならあやまるよ。でもでも、当事者でもないくせにっていうのは反論させて」

「もしかしてあなたも、ですか?」

「わたしはキミとはちょっと違うんだけど、まあ簡単に言うならバイね。どっちもいける人。ちなみに、信じるかは任せるけど、わたしも女の子とお付き合いしたことはあるよ?」

「そうなんですか?でもしたことがあるってことは……」


 メイド服のフリルつきのスカートをふわりとなびかせながら、彼女は微妙な笑顔を見せる。かわいいというより可愛いだと感じた。


「そうね。お察しの通りって感じかな?別れたよ。キミと同じような理由で」

「それは、その、すみません……。デリカシーなかったです」

「いいよいいよ。お互いさまでしょ。それともまだわたしのこと信じてない?じゃあ、キミのカラダを使って証明してあげよっか?」


 そのさっきとはちがうあどけない笑顔が、あの子と重なる。少し忘れていた記憶が戻りだしてきた。


「大丈夫です、私一途なんで」

「あは、メンヘラちゃんかぁいいね。でも残念。キミかわいいのに」


 そういえばあの子には、かわいいってちゃんと言われたことないなって思い出した。


「あぁ、なんで泣くのー。やっぱ失恋後の子ってわかんないなあ」

「ごめんなさい。なんか、色々湧き出てきちゃって……私、これからどうしたらいいんでしょうか……」


 我慢してたの結局泣いちゃった。ああもう恥ずかしい。私、きもいしくどいし。


「どうすればいいか、かぁ。うーん」

「やっぱり、もうだめですかね。諦めたほうが私たちのためかなって」

「まあキミの言いたいこともわかるけど、わたしはそこからちゃんと友だちになれた人、あんまみたことないかも。結局気まずくなっちゃって、話さなくなっちゃう気がする。それに、キミの気持ちは変わらないんでしょ?メンヘラちゃんだし」

「そうですけど、でも、私と同じようにいくらあの子が考えても、たぶん気持ちは変わらないと思うんです」

「ほんとかな。それ」

「え?」


 急に空気が変わった。大気の圧が体にのしかかる。彼女の表情は、今までは営業モードですよというように、今度は真剣なものに変わる。


「ほんとにキミもその子も気持ち、変わらないかな?100年経っても変わんない?別世界に行っても変わんない?生まれ変わっても変わんない?」

「ちょ、ちょっと」

「死んでも、変わんない?」


 彼女の鋭い目つきは私の眼球をいじくり、私を文字通りの釘付けにする。


「なに言ってるんですか……?お酒ですか?」

「シラフだよ。わたしはほんとにそう思ってるの。キミもほんとその子のことが好きなら、することは決まってるんじゃない?」

「お、おかしいですよ……!」

「おかしくない。おかしくないの。」


 これ以上彼女の話を聞いたらだめだと細胞が拒否するが、魂が私を引き止める。結局私は私の言いなりだ。


「どうすればいいか知りたいんでしょ?私が教えてあげよっか?」


固唾をのむ。喉仏の位置が動くのを感じる。


「なにを、すればいいですか……?」

「一回死んでから考えればいいんだよ。ふたりとも」


 それからは一気に畳み掛けられる。


「わたしさ、周りからはいろいろ言われちゃうけど、実はこの仕事好きなんだ。確かにお客さんは有象無象だけど、みんなわたしに愛を注いでくれるの。みんな有象無象なりに考えてくれて、ときにヘラって、ときに病んだりして、わたしを愛してくれるの。愛されるってこんなに嬉しいんだぁって知れたの。でもこれって、前世のわたしはこんなこと思ってなかったと思うんだ。一回死んだから、変われたんだよわたし。だってさ、死んだら文字通り人生観って変わるでしょ?」

「で、でも……」

「でもじゃない。ほんとはキミも考えたことあるでしょ?」

「あります。ありますけど、そんな事できないですし、死んじゃったら元も子もないというか……」

「はあ。もう、うるさい。だまって」

「っん……!?」


 頭の奥が真っ白になる。そうやって、私のファーストキスは奪われた。



 学校の屋上。前よりも風が爽やかに、清々しく感じる。


「わたし、頑張って考えてみたんだけど、やっぱりわたしの気持ちは変わらないと思う。ごめん。終わりにしよ」

「ほんとにちゃんと考えた?」

「え?」


 予想していなかったのだろう。当然だ。私は彼女に口答えしたことはほとんどない。


「いや、ちゃんと考えたよ!なんなのその言い方!それに、ちゃんとここで引いてくれないと、もとの関係にも戻れないよ!」

「ちゃんと考えてないでしょ。ストーリーみたよ。遊園地楽しかった?」

「そ、それは、気分転換というか、そういうのもちゃんと考えるには大事だと思って……」

「別にそれはいいんだ。でも、私もあなたと同じで気持ちは変わらない。だからもう1回考えてみようよ。そしたら私も満足すると思う」

「ふざけないで!」


 彼女は、振りかぶりそうになっていた右手を、左手で必死に抑える。


「いくら考えても変わんないよ……わたしだってほんとはこんなこと言いたくなかったけど、わたしたちの未来を考えると、やっぱりだめなんだよ」

「未来なんて考えなくていいんだよ」


 私は彼女にゆっくりと歩み寄る。彼女のほうは後ずさるように下がっていく。

 もちろん学校の屋上なので、自殺防止フェンスみたいな高い柵がある。でも外階段の手すりのとこだけは低い。私はそれを知っている。


「ね。だからさ。一緒に一回死んでから考えよっ?」


 彼女の顔は一気に引きつり、青ざめる。そんな顔もかわいい。


「は、え?や、ちょっとまって!」


 私のほうが背も高いし、体格もいい。彼女は小柄でちっちゃくて、そういうところもかわいい。


「やだ。おねがいもとに戻って!」


 ようやく私の気持ちに気づいてくれたらしい彼女は、かわいく抵抗しようとしてくる。でも心配ない。

 私は腕を伸ばして彼女にがっつき、体の方に引き寄せる。


「いいからだまって」

「え?……っん?!」


 ほんとはファーストキスは彼女のために取っておきたがったが、セカンドキスということで我慢する。

 急にキスをされたら思考が停止する。そのことをあの人は教えてくれた。今から死ぬというのに彼女は頬を少し赤らめていて、なんともいえない高揚感に蝕まれる。


「あっ」


 次に周りを意識した頃には、私たちはもうすでに宙を舞っていた。浮遊感のなかで、ただただ私は彼女の顔を見つめる。


「これで、もう一回……」


 今までにないほどに私は彼女のことを強く抱いて、まるで一つになったような感触になる。そして、涙なのか唾なのかなんなのか、とにかく彼女から生成された液体が彼女の顔を覆い、私の顔にまでかかる。それを感じて、ああなんか嬉しいなって、そう思ったのが、”わたし”の最後の感覚だった。



 鬱陶しいほどに白い病室には、窓の外を無心に眺める一人の少女がいた。

 少女は少女にしては背が大きいらしく、ほんの少しだけベッドが窮屈そうにも見える。


「どう?ちゃんと一回死んでから考えてくれた?」


 病室の中に一人の女性が入ってきて、そんなことを少女に聞く。その女性は病院には似つかわしい派手なメイド服に身を包んでいる。


「どうせあの子は死んじゃったんだからさ……」


 メイド服の女性は、少女のベッドに近づく。そして、少女の顎に軽く手を添える。


「ね、今度はわたしにヘラってよ、メンヘラちゃん♡」


 すっと、2人の唇が重なる。

うへへ。

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