第二話
そこそこ長くなってしまいましたが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
「リキ!人呼んできて!転ばず急いで!」
僕はすぐさま少女のところへ駆け寄った。
「…わかった!」
弟がギルドの方へ走り出すのを確認して、僕は少女の状態を確認した。全身に軽い火傷と肩に斬撃があり、肺までいっている。出血量も多くて、息はしているものの途絶え途絶えだ。これじゃただのヒールやハイヒールでは間に合わない。
でも、あの魔法なら行けるかもしれない。初めて使うことになるけれど、これしかない。意を決して、呪文を唱え始めた。
少女の火傷が薄れ、肩の傷が埋まっていく。それと同時に、手足や背丈、顔立ちが幼く、小さくなっていく。
僕は割と魔力量が多い方だけれど、どんどん吸い込まれて行くようになくなっていく。そろそろやめないと、魔力が尽きて死んでしまう。少女の傷があらかた治ったところで、魔法を止めた。
少女は、倒れていた時の14歳くらいの姿から、8歳くらいの姿になっていた。そして、髪色が紺色だったのが水色に変化していた。
顔色が悪かったので、呼吸を確認したが小さくもしていた。だけれどすごく苦しそうだったので、仰向けから横向きに体勢を変えさせて背中をさする。すると血痰を吐いて咳き込んだ。
少女の呼吸が落ち着いてきたところで、人がやってきた。ほっと安心した途端、めまいがした。
多分、そこで倒れた。
※
夢を見ていた。子供の頃の思い出が一気に蘇ってくる。でも、すぐに水に溶けたように消えていく。その水が私に染み込んでいって、温かいような柔らかくて心地良い感覚に包まれた。まるで、おひさまにたくさん当たった天日干しのおふとんみたいな…
目を覚ますと、本当にふわっふわなおふとんをかぶってベッドに寝かされていた。…おひさまの香りがする。わきにあった小さいテーブルに、よく知らない果物がある。何かメモを置いてあるようだけど、字がわからない。
まず、なんで私はこんなところにいるんだろう。というか、私って誰だっけ。思い出せ…
私の名前は…シエナ。年は…14歳くらいだったかな。なんだか精神が幼くなっている気がする。10歳くらいに…そう思うと、身体も小さくて動かしづらい。
手をかかげて自分の手をみてみる。やっぱり小さくなっている。身体を起こそうとした時、ドアが開く音がして、とっさに眠っているふりをしてしまった。
「…まだ起きないか。」「大丈夫なんですよね?」
よかった。言葉自体は同じみたい。
「…少し位置がずれてる。」
ぎくっ。起きてるのバレた…?
「今ピクってしたぞ!」「大きな声出さないでください!…起きるかな…」
なんだか起きたほうが良さそうな雰囲気だったのでちらっと目を開ける。すると、40過ぎくらいに見えるおじさんと16歳くらいの男の子がのぞき込んでいた。
「!起きたか?」「大丈夫?」
とりあえずこくりとうなずく。
「よかった…体調は?なにか食べたい?」
男の子に呼びかけられ、返事をしようとしたけど咳き込んでしまう。
「あぁ…ごめんね。水いる?」
うなずき、起き上がって水を受け取る。
一口含むと、たぶん体が求めていたんだろう。じわっと甘みが広がって、ごぐごくとゆっくり飲み干した。
すると、なんだか涙が出てきてしまった。幼い体のせいで突然知らないところへ来た不安とかがあふれてしまったんだろう。
男の子が黙って背中をさすってくれて、声を出さずにたくさん泣いた。なんだか、その手は私を助けてくれたような、そんな気がする優しい手だった。
※
「…眠りましたね。」
「不安だったんだろう。元は14歳くらいだったか?」
「そうですね。ですが体ほどではないにせよ精神も幼くなっているでしょう。おそらく10歳くらいです。」
そんな会話をしながら、僕とギルド長は少女が眠っている部屋から出た。
あの後、僕は少女と一緒にギルドの医務室に運ばれたが、ただの軽い魔力不足だったらしく、翌日の朝にはいつも通りかと思う程気持ちよーく目が覚めた。ベッドはすごく気持ちよかった。晩飯を食べていなかったので腹は減っていたけど。弟には「心配して損した」と言われた。そして少女は、僕の魔法で治しきれなかった傷を治療された後、3日間眠り続けていた。
僕が彼女にかけた魔法は、傷を治す代わりに身体を小さくして、必要な血液などの量を減らす魔法だ。
小さくなった身体は、時間経過とともに治る。もともとの傷が完治するぐらいの時間だ。おそらくあれくらいならば1年半はかかるだろう。
僕がもっと光魔法を練習しておけば、あの魔法を使わなくても彼女の傷を治せただろうか。だが、元々僕のような光魔法を使えるものは珍しく、使いこなすのはさらに難しいみたいだ。だから仕方ないとギルド長に励まされた。
だが、珍しく便利なこともあって国にこき使われることもあるらしい。なので光魔法適性があるのは隠していたが、先日の出来事でギルドにバレてしまった。だが、事情を話したら上には別に報告しなくてもいいとのことだった。感謝しかない。
「…あの子の身元はわかりましたか?」
「いや、どこにも登録がない。でもなんだか捨てられたというわけじゃなさそうなんだよな…やはり本人に話を聞くしかないだろう。」
「わかりました。またあの子が起きたら話を聞いてみますか。」
いまは、あの子はどこから来たのか、これからどこにやるのか、ということを話し合っているのだが、どこにやるかというのは、魔法のことも相まって僕と弟の家で住むことになりそうだ。とりあえず落ち着くまではギルドの医務室で過ごすらしい。
※
あの時泣いた後、眠ってしまったらしい。改めて起き上がって身体をみてみると、やっぱり小さくなっている。8歳くらいかな…?服は別のものを着ていた気がするけど着替えさせられている。体もだいぶ楽になってきていたので、ベッドから降りて自分の体を確認する。やっぱり8歳くらいだな。
自分の体を確認し終わって、ベッドに戻ろうとしようとした時、お腹がなった。そういえば、と思ってベッドのわきの方をみると、なにか果物らしきものがお皿においてあった。新しくなっている。一旦ベッドに座り、あいかわらずメモの字はわからないけどいい香りがしているので食べてみる。
「!おいしい…」
すごく美味しくてぱくぱく食べてしまい、あっという間になくなった。たぶんメモの字は「食べていいよ」みたいなこと書いてたんだろう、たぶん!
足りないなぁと思って、ドアを開けて外に出てみる。
その先には廊下が続いていて、いくつかドアがあった。はだしでてちてちとドアの前を歩いていると、さっきお見舞いに来てくれたお兄さん達の声がした。内容は、私がどこから来たのか、戸籍などはどうするのか、ということだった。
そこで、私はどこから来たかわからないということに気づいた。
なんだか不安になってしまい、すぐにベッドがある部屋に戻ろうとした時だった。
「ふぶぁあっ」「ふべぇっ」
ベッドがある部屋から出てきた誰かに、正面衝突した。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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