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9話 見守る者


 リーフィア・レムナント・アムネシア。

 北の森でも有数な名家、【新緑と歩む記憶喪失(アムネシア)】に生まれた彼女は人生の大半を寝て過ごす。

 草木などに寄り添って眠りにつき、植物たちを守護する結界を構築するからだ。その際、彼女たちは歳をとらず長い時を眠りに費やす。


 だからこそ彼女らの血筋は、死したように寝入る【生き死人(レムナント)】だったり、他のエルフたちとの思い出をほぼ共有できないから【記憶喪失(アムネシア)】と呼ばれている。


 ちなみに【白き冬森】のエルフたちは何も彼女を蔑んで、このように呼んでいるわけではない。

 むしろ褒め称えているし、彼女も誇っている。


 というのも、全ては森の植物のために行っているからだ。

 そして【白き冬森】のエルフたちは、称賛する際は親しみや敬愛を込めて、切なく儚い名前で呼び合う風習がある。あなたは私にとって『別れを惜しむ大切な隣人だよ』との意味が込められている。

 時としてそれは、人族から見れば蔑称に聞こえたりするがその逆である。


 かといって全部が全部そういうわけではなくて、俺のように【小さな半端者リトル・クォータリーフ】とそのまま差別される場合もあるからややこしい。


 とにかく四分の一しかエルフの血が流れていない俺は、【白き冬森】で幼少期から差別を受け続けていた。

 そんな中、唯一優しくしてくれた同年代がリーフィアただ一人。


『若草が陽の光を求めて、競い合って、茎や葉を伸ばすのはいいこと。じゃあ踏みにじるのはいいことなの?』


 リーフィアがそう言えば、大抵のエルフの若草はしどろもどろになった。


『うっ……』

『……よくないことだな』


 彼女の家柄はそれなりの地位にあるため、俺をいびってくる奴らもリーフィアが現れると静かに立ち去っていく。


『若草は伸び伸びするのが一番、だよね?』


 俺に屈託のない笑顔を向けるリーフィア。

 当時、どれだけ俺が彼女に救われていたか、きっと彼女は知らないのだろう。

 なにせこれが彼女の自然体だからだ。



「……レジス、すこし大きくなった?」


 リーフィアは約六十年ぶりの再会なのに、キョトンと俺を見つめるだけだ。

 周囲の思惑や悪意、そして変化にあまり頓着しない。まさに木々とゆったり時間を共にする彼女らしい問いに、思わず笑みが浮かんでしまう


「リーフィアだってちょっとは成長したんじゃないか?」


「むっふーいいでしょ?」


「ああ、いい感じだな。俺の方はだいぶ老けちまったけどさ」


「そう? 双葉が三つ葉になったぐらい可愛いよ?」


 エルフの森を出る前。

 俺はまだまだひよっこの少年だった。

 そして今は、人族で言えば30代半ばの見た目をしているだろう。

 それを三つ葉と言うのだから、木々や樹齢と共にあるリーフィアにとって少しばかりの変化なのかもしれない。


「そうかい、それは嬉しいね。ところでリーフィアはどうしてここに?」

「むふふー私の友達が、新しい友達ができたっていうから来ちゃった」


「リーフィアの友達……?」

「うんうん」


 そういって彼女はすぐ背後にある【世界樹の若木】を振り返る。


「よろしくね?」

「ああ……なるほど」


【白き冬森】には【世界樹の双葉】がある。

 その双葉と寝て過ごすリーフィアは教えてもらったのだ。他にも世界樹があると。だから世界樹同士の何らかの方法を使って、リーフィアはここに遊びにきたと。


「世界樹は……世界のありとあらゆる物と繋がってるって伝承だったけど、本当だったのか」

「むっふー、(みち)? はあるかもね?」


「さすがは世界樹だ」

「でもレジス君もすごいね? 世界樹を創っちゃうなんて! この子が言ってるよ?」


「まあ、色々あってな」

「むっふふー、私は嬉しいな。最後に見たレジス君より、とっても楽しそうだもん」


 そんな風にリーフィアとの再会を喜んでいると、不意に木々の合間から気配を感じた。

 俺はそちらを注視すると、先ほど親たちに連れていかれたばかりの小狼と小熊がそろって俺たちの様子を伺っていた。

 そして心なしか『また遊んでほしい』とソワソワした様子だった。


『くるるっる』

『がうがうー』


 遊びたくなったら言えと伝えたのは俺の方だし、子供たちを無下にするのは気が引ける。

 だからといって、リーフィアも一緒にとなると危ない気もした。

 俺のステータスは城そのものだけどリーフィアは違う。そして子供とはいえ、小狼も小熊も鋭い爪や牙がある。

 無邪気に戯れたつもりでリーフィアに怪我をさせるのは望まない。


「んん……きみたち、ちょっとこっちにおいで」


「くるるー!」

「がうあー!」


 遊んでくれるとわかった子供たちは期待の眼差しを向けてくる。

 しかしその前にやることがあるのだ。


「————【人神の門】よ開け、【人体変異】付与」


【人化魔法Lv7】で習得する【賢者の門】を発動する。これは対象に【人化魔法】Lv2まで習得させる優れもので、これを小狼と小熊にかけてあげる。


「さあ、俺のようにまねっこしてみるんだ。そしたら、隣のお姉ちゃんも交えて遊んでやるぞ?」

「むっふっふー、動物さんと遊ぶのは久しぶり!」


「くるるるるるううううう……!」

「がうあうああああ……!」


 二頭はどうにか【人化魔法】を発動できた。

 しかし俺の予想とは裏腹にリーフィアの前で、すっぽんぽんのケモミミ尻尾な幼女二人になってしまったので、とても気まずい……。

 ……この二頭はメスだったのか。


 俺が人化魔法を発動した時は、生前の服を着た状態だったのに……あ、そうか……彼女たちには服を着るなんてイメージが最初からなかったのか。


「く、くるる、あ、あ、あそぼ」

「がう、が、あそぶ」


 幼馴染を前に……幼女二人に迫られる絵ずらなんて、一般的に見たら訝しむ光景なのだろう。

 しかしそんな俺たちを目の当たりにしても、リーフィアはリーフィアだった。


「むっふっふー、レジス君はすごいね! 私が新緑を見守り育む者なら、レジス君は万物を見守り育む者なんだね!」


 そう、今の俺は【見守る者(タリスマン)】。

 今も昔も変わらずに、何の偏見もなく俺を信頼してくれるリーフィア。

 ただただ純粋な笑顔を向けてくるリーフィアもまた、俺は見守っていきたいと思った。




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