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5話 花園の姫君たち


 今日も美しくて退屈な朝がきた。

 東の城壁では【朝守りの騎士】と【純潔の看護兵】が日の出を浴びながら、ただただ無言で見張りをしてくれる。


 本来の二人が『神々の戦争』でどうなったのかはわからない。

 元々、寿命の差で引き裂かれる運命であった二人だが、戦争によって別たれたのかもしれない。


 そう思うと二人で歩いている姿に心なしか満足感を覚える。

 こんなのは自己満だとわかってはいるが、ガチャを何度も回した甲斐があった。


 とはいえ、全員がペアになるまで相当な伝承ポイントを消費してしまった。何せ一人でも【朝守りの騎士】か【純潔の看護兵】が余ると、何も言ってはこないが一人寂しそうにしているのだ。

 そんなわけで、結局は【朝守りの騎士】が10人と【純潔の看護兵】が10人になってしまった。


 一気に大所帯になった気がするけど、別にそういうわけでもない。

 元々ここには多くの生物が生息しているし、なんとなく意思疎通できる相手が増えたって感覚だ。


 ちなみに【純潔の看護兵】は【希少位(レア)】なので、【王位(キングス)】の【朝守りの騎士】より排出率が高い。

 とにかく今回の件で、伝説や伝承を正確に理解するには、どんな形であれ実際に触れる必要があるのだと悟った。

【純潔の看護兵】みたいに、隠しラインナップなんてのもあるし。



『説、先日倒した【夜の王冠(ナイトリッチ)】よりドロップ品を発見しました』


『【遺物:夜刑に処す衣】……レア度【伝承位(ミソロジー)】』

『纏った者の魔力を吸って無限に闇を放出する。魔力が枯渇した場合、装備者の命を吸い尽くします』


 うわ……なんだか物騒なドロップ品だな。

 レア度はすごく高いけど今は必要ないと判断し、俺は宝物殿に転送しておく。


 さてさて、【千年書庫】へと意識を向けるかね。

 今日の新しい一冊はいったい何だろう。

 どうやら書物のタイトルは【花園の姫君(ひめぎみ)たち】らしい。


 なんだかんだで、今は【千年書庫】の本が一番の楽しみになっている。現実逃避に近いかもしれないけど、これはこれで新鮮だ。

 日がな一日ゆったり読書にふけるなんて、下級兵時代では味わえない贅沢だった。


 さて、【花園の姫君たち】の内容は植物の守り手でもある『花精霊(ドライアド)』の話だった。

 彼女たち単体では強力な存在ではないけれど、『花精霊(ドライアド)』が多く息づく森はとても豊かになる。

 そして古き森から、黄昏の森、世界樹にすら息づく種族らしい。



 そういえば俺の出生地である……エルフたちが治める【白き冬森】でも『花精霊(ドライアド)』は重宝されていたな。まあ【薄れた草人(クォータエルフ)】の俺では『花精霊(ドライアド)』の存在を感知できなかったし、よくそれを【森の麗人(エルフ)】たちにバカにされたっけ。



『説、ビルドガチャに【森と花の守り手】シリーズが追加されました』


『40%で【花精霊(ドライアド)】を生成』

『30%で【◇●樹】を生成』

『20%で【※黄§】を生成』

『7%で【???】を生成』

『3%で【世界樹の若木】を生成』


 んん?

【世界樹の若木】だって?

 たしかエルフの森にすら【世界樹の双葉】ぐらいしかなかったぞ?

 エルフたちはあれを必死に庇護して守っていたな。


 そういえば、故郷には悪い思い出ばかりではなかった。

 それこそ【世界樹の双葉】の守護姫に選ばれたリーフィアは、【薄れた草人(クォータエルフ)】の俺にも優しくしてくれたっけ。


 懐かしい顔を思い出して、自然と心が(ほころ)んだ。


 よし、【花精霊(ドライアド)】たちを生成して植物の管理をしてもらおう。

 庭園も荒れ放題だしちょうどいいのかもしれない。

 俺は30回ほどガチャを回してみる。


『7万9700ポイント → 7万9400ポイント』

『【花精霊(ドライアド)】×15体』

『【古代樹】×10本』

『【黄金樹】×4本』

『【世界樹の若木】×1本』


 7%の【???】は引き当てられなかったけど、緑が増えるのはいいことだ。

【古代樹】たちは立派で力強く、なんだか少しだけ落ち着いた気分になれる。

【黄金樹】は輝かしい。枝や葉、実すら黄金なので、人間だった時であれば巨万の富に胸躍ったかもしれない。


 そして【世界樹の若木】は神秘的だった。

 周囲には淡い七色の光りを纏い、若木といってもどの樹木よりも巨大だ。

 城の一部を突き抜けてしまったけど、後々景観を整えれば世界樹の素晴らしさがより際立つだろう。

 人間の頃に目にしたら、間違いなく圧巻の景色だったと思う。


『説、余分な木々などは宝物殿に保管できます』


 んん……なるほど生物の状態を保存できる空間に移すこともできるらしい。

 いわゆるストック的なやつで、不要な物はそこに保存しておける便利機能だ。


 今のところ問題はないけど、確かに木々が増え過ぎたら城全体のバランスがおかしくなってしまうかもしれない。

【森と花の守り手】シリーズを引く時はその辺を意識しておこう。


 ついでに【黄金樹】などの実が、勝手に荒らされないように守護者もつけておくべきと判断した俺は、【空に忘れ去られた城】シリーズも何度か回す。


『72万3000ポイント → 72万2900ポイント』

『【城の修繕】×4……ステータス防御+21』

『【巨神兵の人形(ティタンズ・ゴーレム)】×4』

『【古代樹の世話人(エルダートレント)】×2』


 10連回したらゴーレムが4体も出た。

 みんなランクは王位(キングス)なのに、相変わらずゴーレムはレア度が低いらしい。

 というか【影の王冠(シャドー・リッチ)】は1体も出なかったから、よほど排出率が低くなったのかもしれないな。


 俺は各々にそれぞれの役割をふわっと与える


巨神兵の人形(ティタンズ・ゴーレム)】4体には、『飛行形態で周辺大陸の探索』と『戻ってくること』の二つを。

古代樹の世話人(エルダートレント)】たちには『古代樹』や『黄金樹』、そして『世界樹』の管理を。


 そして【花精霊(ドライアド)】たちには『世界樹を最優先』と『庭園を含む全ての植物への祝福』を。


 最後に【朝守りの騎士】と【純潔の看護兵】の2ペアにだけ、『世界樹の警備』を任せた。



 うんうん、なんだか王国の滅亡で感情のやり場をなくしていたけど……こうしてコツコツ何かを作ったり、整えたりするのは悪くないかもしれない。


 壮大すぎる空の彼方に、ゆっくりと沈む夕日を眺めながらそんなことを思う。

 帝国兵への恨みや、仲間を守れなかった虚しさは決してなくならないだろう……だけど闇夜に星々が瞬き始めるように、静かにこの傷と共に在ることはできる。


 さて、そろそろ眠りにつこうか。

 今日も一日ふよふよしているだけだったけど、不思議と充足感に満ちていた。




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