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35話 Fランおじさんと三騎士


「おい、【戦乙女の三騎士(ヴァルキリーナイツ)】にも、ついに招待状が来たらしいな」


 仲間たちと気持ちよく飲んでいると、唐突に話しかけてきたのは王都でも有力な冒険者パーティー【鋼に夢を】だった。

パーティメンバー全員が【鉄打ち人(ドワーフ)】で編成された彼らは、鉄や鋼の扱いに長けていてあらゆる武器を使いこなす。

 しかもメンバーの一人が現役の凄腕鍛冶師だから、装備のほとんどが自作らしい。

 はっきり言って自分たちよりまだ格上だし、羨ましいと思っていた時期もある。だが、俺たちだってここ数年で彼らと同じAランク冒険者に登りつめたのだから、堂々と返してやる。


「おう、【鋼に夢を】じゃないか。そっちは一週間前に小人からの招待状が届いたらしいな。まあ身長差があった分、こっちは遅れてやってきたのさ」


「がはははっ、まあ俺たちの方が小人にちけえもんなあ!」



地底の小人迷宮(ピルグリム)】への招待状は、冒険者の間で一種のステータスになっていた。

 小人から【小さき運命】を送られた者は、『【地底の小人迷宮(ピルグリム)】を攻略するにふわさしい実力を認められた』なんて最近では言われている。


「おかげでほれ、こんな貴重な武具まで一足先に手に入れちまったぞ」


 そう言って【鋼に夢を】が俺たちに見せつけてきたのは……紅く脈打つ【冠位(ネームド)】の武具だった。

 ここ数年、ダンジョンでこれほどレア度の高い武器なんて見つかっていなかったのに、【地底の小人迷宮(ピルグリム)】では宝箱で稀にドロップするらしい。


 発見されてから、【血戦武器(ブラッド・ウェポン)】シリーズと名付けられたその武具は、破格の性能を持っていて、一つ一つに強力な特殊効果が付与されている、らしい……。


「降参だ。あんたたちの方が実力は上だから、先に招待状が来たんだよ。さあ、先輩がた。あんたたちより実力に劣る後輩に、少しばかり指導してくれないか?」


 俺は銀貨が10枚入った袋を【鋼に夢を】らに渡すと、彼らは即座に銀貨を火酒に変えてしまった。

 しかし彼らは気持ちのいい奴らで、気前よく【地底の小人迷宮(ピルグリム)】について語ってくれる。


「いいか。まず出入り口の周辺に生えている【小さな針苔】や【小さな棘きのこ】には気をつけろ」

「どんな見た目なんだ?」


「このままじゃ見えねえぐらいに小せえんだ。そんでもって異様なほど頑強だ」


「それはつまり……【小さき運命】を飲んで小さくなったら視認できるってことか?」


「そうだ。以前、地底のアリの巣ダンジョンなんざこのサイズのままで掘り起こしてぶっ壊せばいい! なんて無理した奴がいたんだが……」


「Bランクパーティー【暴力病気(ヤンキーズ)】か。確か、全員死亡したんだよな……」


「ああ。あとになってわかったことだが、【小さな針苔】や【小さな棘きのこ】に猛毒がある。んでもって地中を抉ろうと魔法をぶっぱなしたはいいが、苔もきのこも頑丈すぎて周囲に飛び散った。その針が知らず知らずのうちに奴らに刺さったってわけだ」


 大きい者には気付けない残酷すぎるトラップに俺たちは戦々恐々となる。

 だが出入り口がそこまで守られてるってことは、攻略のしがいもあるってものだ。ダンジョンの奥に隠された秘密を暴くのは、俺たち【戦乙女の三騎士(ヴァルキリーナイツ)】でありたい。


「他に気を付けるべき点はあるか?」


「ああ? そんなのごまんとあるが、銀貨10枚分じゃなあ」


「わかったって。あーあー、先輩が後輩に奢られるってどうなんだ? ったく」

「火酒は皆も平等に熱くするもんじゃ」


 俺たちが追加で金貨を2枚ほど渡すと、【鉄打ち人(ドワーフ)】たちはさらに景気が良くなった。


「出入り口にある木を必ず覚えておけ。【成長の呪木】と言って、呪われた花粉を飛ばしている」

「物騒だな……」


「通常だと何の効果もないが、小人になっているときにその花粉に当てられると……身体のサイズが元に戻る」


「おいまさか……ダンジョン内にもあるのか!?」


「ああ……つい二日前か。【竜と女王の拳ドラゴン・クイーン・ナックル】の面々はそれでリーダーを失ったからな」


「あのSランクパーティー【竜と女王の拳(D・Q・N)】が!?」


「何でもリーダーのクイーンがダンジョン内で一気に身体が戻ってな。残ったメンバーも肉塊の海に押しつぶされて何人か死んだらしいぞ」


 これから自分たちが挑むダンジョンの難易度が改めて高くてゾッとする。

 しかし妙な安心感もあった。

 実はこれまで【地底の小人迷宮(ピルグリム)】で亡くなったパーティーはどこもすこぶる評判が悪かった。


暴力病気(ヤンキーズ)】はよく一般人にケンカを吹っ掛けて傷害事件を起こしていたし、【竜と女王の拳(D・Q・N)】はリーダーのクイーンが中心となって戦争で働き口のなくなった者たちを使い、ご利益のある水を売りさばいていたらしい。


 だからなのか、表でも裏でも悪事に手を染めた冒険者だけが死ぬダンジョン、なんて囁かれていたりもする。

 冒険者ってのはわりとジンクスも大切にしていて、俺たち【戦乙女の三騎士(ヴァルキリーナイツ)】も同じだ。


 今日、この日までお天道様に顔向けできない悪事はしてきていない。

 だからきっと俺たちなら大丈夫だ。



「ああ、そうだ。他にもダンジョン内じゃ巨人の頭蓋骨できたエリアがあってな、【耳穴の迷路】ってのは音が反響しすぎて————」


 それから俺は先輩たちに地下迷宮についての情報をひとしきり耳に入れてゆく。

 もう十分ってところで、俺たち【戦乙女の三騎士(ヴァルキリーナイツ)】が席を立とうとすると、耳障りな喧噪が酒場内で勃発した。


「おいおい、おっさんよお。あんたその歳でFランク冒険者だぁ?」

「そんなんじゃ死にに行くようなもんだぜ?」

「しかも適性ジョブは【雑用人】だとさ」

「ぶはっ、ぶははははっ……!」


 そこには4人の冒険者たちに囲まれた、中年の男性がいた。

 なんの変哲もない男性だが、耳がわずかに長いのでエルフの血を引いているのか……?


 そしてそんな中年をいびっている輩には見覚えがあった。


「Cランク冒険者パーティーの……【初心者狩り】か……」


 そこそこの実力があり、主に金持ちの初心者を指導したり、クエストに同行してそのサポート料で荒稼ぎしている連中だ。

 そんな彼らが凡夫に目をつけるはずもないので、ただの絡み酒なのだろう。


「このおっさん、あろうことかミユユ様が発布した遠征クエストに興味があるらしいぜ?」

「おっさんよお、あのクエストはな? Cランク以上から何だわ」

「しかも行き先は外国だぞ? 険しい道のりだぞ?」

「【狐ヶ原(こがはら)ホモリ】って知ってっか?」


「あ、ああ……つい先日、通ってきたんだが」


「ぶはははっ、嘘も大概にしろよ。あそこは今じゃ、【嵐蜘蛛(あらしぐも)】の災厄に見舞わてるんだぜ?」

「武装した大商団ですら無事に通過できないってのに、Fランクのおっさんがどうやって王都までたどり着けるんだよ」

「ランクはしょぼいが嘘は大きく出たなあ!」

「そんなわけで、俺たちが参加する遠征クエストに連れていくのは無理だって」


「そこを何とか頼めないだろうか。ミユユにどうしても会いたいのだ」


「まじか……そっち系か」

「ミユユ様も変なファンがいて大変だな」

「おっさん。いい年して若い子のケツを追っかけるのはどうかと思うぜ」

「やっぱその歳でFランなだけあるわ……」


 Fランおじさんは【初心者狩り】に邪険にされて途方に暮れていた。その姿があまりにも哀愁漂っていたので、俺はついつい声をかけてしまった。


「おっさん、名前は?」


「あ、ああ……タリスマンという」


「そうか。俺はA級冒険者【戦乙女の三騎士(ヴァルキリーナイツ)】のヒイロって名だ」


「戦乙女……最近の王国では戦乙女って名乗るのが流行っているのか?」


「ああん? まあ戦乙女オルトリンデ様の教えを信じる者は未だに多いからな。俺たちだってオルトリンデ様の剣になれるぐらい強くなろうって誓ったんだ」


「そうか……ならミユユが戦乙女と名乗ってクエストを発行していたのも不思議じゃないのか……」


「なんか事情があるみたいだな? よければ酒の肴にしてやろうか?」


 そうして俺はタリスマンと名乗る男を、酒の席へと誘っていた。

 仲間たちも少し呆れた顔をしていたが、何だかんだでタリスマンを席へと促してくれる。


「僕はレイン。適性ジョブは【治癒士(ヒーラー)】だよ」

「自分はジュードス。適性ジョブは【重騎士】だ」

「んでさっきも言ったが、俺はヒイロ。適性ジョブは【魔剣士】だ」


「あ、ああ。お招きいただき光栄だ。私はタリスマン。適性ジョブは【雑用人】だ。さっそくだがミユユに会える方法はないだろうか?」


「あーミユユ様かあ……」

「悪いが先ほどのやり取りを小耳に挟ませてもらった。単刀直入に言うと難しいな」

「まあ冒険者ランクを上げたら、会えなくもないか?」


「それはどれぐらいかかる?」


「ええと、僕らでもAランクになるまで6年かかったからなあ」

「ミユユ様が発布したクエストの参加条件、Cランクなら3年だろうな」

「俺らみたいな高位パーティーの荷物持ちとして実績を積み上げると、ちょっとは早くなるかもな」


「な、なに!? じゃあ、頼む! ぜひキミたちの荷物持ちをさせてくれないか!?」


「は、はあ……?」


 さすがにFランおじさんに、まさかのパーティー申請をされるとは夢にも思っていなかった。




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