33話 伝承の裏側
「ミュ、ミューミス様がお喋りになった……!?」
神父や信徒たちの反応を見るに、目の前に小人神は滅多に口を開かなかったらしい。そんな彼女が今や、俺の前では饒舌に語り始めている。
「ダンジョン作りにおいて、骨組みは最も重要だかりゃっ!」
「お、おう……」
「タリスマン、お願いします。ともにダンジョンを作りょっ!」
聞けば【小人神ミューミス】はこの大迷宮……というか【埋葬迷宮ボーンドピア】は、先代のタリスマンが伝承ポイントを消費して共に作った迷宮の名残らしい。
彼女の言う通り、俺が改めてそこら中の地面や建物に触れると、新たなるガチャシリーズが解放された。
『ガチャシリーズ【埋葬迷宮ボーンドピア】が解放されました』
『49%……【巨人の骨】』
『20%……【白骨大地】』
『15%……【骨の草原】』
『15%……【岩骨】』
『1%……【◇〇Λ×楽園】』
「ミューミスがダンジョンを作りたいのはわかった……だが、キミの信徒たちが巨神を敵視して、王国へ策謀を企てているとも聞いている。それはなぜだ?」
特にミユユの暗殺がどうのってのが気になる。
おそらく今のミユユは王国に務めているのだろう。昔から剣が得意だったから、名のある上級兵ぐらいにはなっているのかもしれない。
巨神を信奉する王国に反旗を翻すなら、有能な軍人を始末するのは合点がいく。
「んんー、知りゃない。この子たちはダンジョン作りに便利だったかりゃ、【小さき運命】をあげた」
ちらりと神父を見ると、彼は本気で絶望した顔になっていた。
彼の様子から【小人神ミューミス】は多くを語らずに奇跡だけをもたらしてくれた。その行動こそが神のお告げであり、救いだと勝手に解釈していたのかもしれない。
しかしフタを開けてみたら、王都の地下にダンジョンを作りたいだけの様子。
「で、では小人神ミューミス様……私たちが子供たちを小人化させ、暗殺術を教え……各教会の出入り口から、王国の要人を殺める計画は何のために……」
「骨折り損は嫌でしょ? ダンジョンは攻略を挑まれて、初めてダンジョンになりゅからね!」
つまり地下に小人が潜伏しているダンジョンがあるらしく、そこから脅威が漏れ出ていると知れ渡れば、攻略に乗り出されると。
「そんな……し、しかし! ここが多くの教会に繋がっているのは、王国の主神であった戦女神オルトリンデ様を地底からお支えしていた名残であったはず! それをどうしてダンジョンなどと危機を煽るような……!」
「なにそれ。多くの教会に道が通じてりゅのは、リンちゃんがどこからでもダンジョン攻略を楽しめりゅようにって配慮しただけ」
「リンちゃんって、戦乙女オルトリンデか?」
「うん! リンちゃんとはダンジョン攻略で遊び合った仲だからね! 私のダンジョンを攻略させまいとがんばって、リンちゃんは攻略しようとがんばって、楽しかったなあ……」
王都の地下にこんな遊び場を作ってしまうなんて……なんて壮大なスケールの遊びなのだろうか。
これぞまさに人々に知られざる神々の遊びってやつなのだろう……。
隣に打ちひしがれる神父や信徒たちがいるので、全く笑える空気ではないが。
「そんな……では、我々が捧げた……土に還った同胞たちは! 何のために!?」
「このダンジョンの一部になってりゅよ。安心すりゅの」
ミューミスは数多の骨で作られた地底空間を示すように両手を広げた。
「そんなっ、ミューミス様ああぁぁ……!」
「それに私の名前は【骨拾いの楽園】。ミューミスはオルトリンデが勝手につけたあだ名」
絶望で泣き崩れる神父には悪いのだが……俺は彼女とオルトリンデの伝承が気になっていた。
なにせ王国建国の祖である戦女神オルトリンデは、俺が憧れた伝承の一つでもある。
「なぜ、戦女神オルトリンデはキミをミューミスと呼んだのだ?」
「んんっ、私たち【骨拾い小人】は小さくてよわっちだかりゃ、昔かりゃ骨を運んで、生活の骨組みにしてたの」
「それは動物の死骸や埋葬された人骨などか?」
「うん。死肉は他の肉食動物が狙って危ないし、土に埋められて残るのは骨ばっかりだかりゃ。私たちはそれを拾うの」
「なるほど……そういえばいつの間にか土に埋めた骨が溶けてなくなる、なんて逸話は『小人の悪戯』と言われていたが、キミたちが起源だったのか」
「よわっちだかりゃね。でもリンちゃんは、私が骨を自在に組み上げて、たくさんの小人たちの住居を作ったのを見て、小人神ミューミスなんて呼んじゃって」
「それで……ダンジョンを作る側と攻略する側で遊び仲間になったと」
「うん! 今代のタリスマンもたくさんの骨を持ってくりゅと嬉しいです!」
つまり、骨や死にまつわる伝承に触れていけば【小人神ミューミス】……いや、【骨拾いの楽園】のダンジョン作りに貢献できるのか。
「そんな、馬鹿なぁ……我々の救いは、一体……?」
俺はもはや魂の抜け殻になってしまった神父たちを見て思う。
神とは時に残酷であり、それらを勝手に信じて愚かな行いに走る人もまた、残酷である。
さて、どうしたものかな。




