27話 ソルジャスの系譜
久しぶりの王都は至る所がまだ復興の最中で、戦争の傷跡を如実に感じさせられた。倒壊した建物や砕けてめくれた石畳の街路地など、長らく放置された空き家も散見された。
しかし王都の人々の顔は明るかった。
多くの犠牲はあったが戦争は終わり、故郷を取り戻した喜びに満ちている。
さらには聖女王陛下も戴冠されて、これからの未来をより良いものにするのだと、そんな意気込みが見て取れた。
だからなのか、俺が検問を受けた時も以前よりすんなりといった。
検問兵は『今は人手がどこも不足してるから、エルフだろうが何だろうが王都入りは歓迎だ』と言ってくれた。
ちなみに身分は、【白き冬森】へと帰るついでに王都へ寄ったエルフ冒険者の一団と名乗っておいた。
本当は王国の下級兵と伝えたかったが、肝心の下級兵章を今の俺は持っていない。なので苦肉の策としてエルフの冒険者一団にしたのだ。
「聖女王陛下か……俺が知っているのは、まだまだ小さな赤ん坊の姫君だったな」
時の移ろいを感じつつも、道行く人々に『ソルジャス孤児院』はどこかと尋ねて回れば、みなが景気の良い返事をしてくれる。
「失礼。道をお尋ねしたいのだが、『ソルジャス孤児院』はこの道を突きあたって左で間違いないだろうか?」
「お、おおう!? びっくりしたな、あんちゃんたちイカついなあ! 『ソルジャス孤児院』はそうだな! 左の脇道から行った方が近いぜ!」
「助かった」
「いいさいいさ! 見たところ、あんちゃんたちも武人なんだろう? 戦乙女の祝福を求めてきたんなら、お布施をしっかりなあ!」
「戦乙女……お布施……」
さっきからみながこの調子だ。
俺がいなくなってから11年。王国民のほとんどが放浪生活を強いられてたらしいが、今の孤児院の運営形態は戦乙女の名声に紐づけて資金運営を回しているのだろうか?
孤児院も以前とはまるで違う場所のようだし、少しの不安がちらつく。
とにかく俺は足早に『ソルジャス孤児院』へと向かった。
いざ孤児院についてみれば以前より数段は設備が整っているとわかった。
昔は廃教会を手入れしなおしたものだったが、今の孤児院はだいぶ立派な教会だった。
大きさも3倍近くはあり、敷地内では子供たちが無邪気に遊んでいる様子が見れた。
これほどの規模の孤児院の運営となると……潤沢な資金がなければ厳しいだろう。一体、誰がここまでの支援をしてくれているのだろうか?
「失礼、子供たちよ。シスター・クレアはいるかな?」
「ひっ!?」
「す、すげえ」
「騎士だ! やばそうな騎士が3人もきた!」
「おっと、これは失礼した」
俺は頭にかぶった兜、【狂った竜頭】を脱いで膝をつく。
「俺はレジェンド・ソルジャス。シスター・クレアはいるかな?」
「ソルジャス……ってことは、おっちゃんは俺たちと同じ兄弟か!」
「あれ? レジェンドってミユ姉が言ってたパパ……?」
「ああ、そうだ。ミユユの父代わりをしていた者だ。ミユユかシスター・クレアはいるかな?」
「ミユ姉はいないよ! すっごいお仕事で忙しいんだ!」
「いつか私たちも! ミユ姉やオルカス姉やマギマニ姉たちみたいにすっごくなるの!」
どうやら子供たちの様子からして、みんなそれぞれ立派にやっているようだ。
一番大変な時にそばにいれなかった罪悪感と……成長した姿を思い浮かべて、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになる。
「そうか……みんな、そうか」
「おっちゃん悲しいの?」
「あれ? 嬉しいの?」
「泣きそうな時はシスタークレアに話を聞いてもらうといいよ!」
「シスターテレサは怖いから!」
「シスターモニカはおっちょこちょい!」
「ははは……この規模だとシスターの数も増えるか」
俺が子供たちの様子に笑みを浮かべていると、教会の方から扉が開いた。
そちらに目を向けると、記憶からだいぶ歳を重ねたシスター・クレアが子供たちに囲まれて出てきた。
俺が立ち上がると、シスター・クレアもこちらに気付いたようで視線を向けて来る。
「あんた……」
シスター・クレアは俺を見るや否や、目を大きく見開いて両手で頬に触れる。
彼女がひどく驚いた時の仕草に懐かしさを覚えつつ、俺は一歩一歩と歩み寄る。
「レジス! あんたっ、生きていたんだね……!?」
それからシスター・クレアは涙を流しながら、俺と抱擁を交わした。
「ああ……シスター・クレア。今日まで子供たちを守ってくれてありがとう」
「と、当然だよ……あ、あんたが死んでもッ、子供たちはあたしの生き甲斐だからねえ! でも、でも……本当に生きててよかったよ……」
すっかり歳を取ったシスタークレアのぬくもりは、10年以上経った今でも変わりはなかった。
懐かしい再会はやはりいいものだった。
◇
「なるほどねえ……10年近く動けなかったわけだ」
「正確には寝ていたらしいんだが」
ひとまずは詳細を省いて、ザックリとこれまでの経緯をシスター・クレアに伝えた。
王都防衛線で重傷を負ったこと。
気付けばとある場所で厄介になっていて、10年以上リハビリ状態になっていたこと。
つい最近になって王国の現状を知って、王都まで来たこと。
「寝てようが何だろうが同じだろうに。とにかく回復してよかったよ」
「シスター・クレアの方も元気そうでよかったよ」
「はっ、あんたがいない間にすっかり老け込んじゃったさ。レジスは変わらないねえ」
シスター・クレアは俺の顔を見つめて、羨ましそうに小さなため息をつく。
「エルフにとって樹齢を重ねた木ほど美しい。時の流れを刻んだ証もまた、美しいものだよシスター・クレア」
「はっ、全く。あたしの皺を褒めたって何にもならないよ? それにレジスはエルフ嫌いだったろうに、エルフの考えなんて出しちゃってどうしたんだい」
「十年もあるとな……人は少し変わるもんさ」
「そりゃあ言えてるねえ。あんたとあたしの子供たちもずいぶん立派に変わったもんだよ」
「そうだ。ミユユたちはどうしているんだ?」
俺の問にシスター・クレアは微笑みながら、孤児院を見渡し始めた。
そしてゆっくりと語る。
「戦争で孤児が増えたからねえ……あの子たちは放浪生活の間も子供たちをとりまとめるリーダーみたいな存在だったよ」
「そうか。誇らしいな」
「ここの孤児院の運営資金も、ミユユやオルカス、マギーにマニーたちの寄付で成り立っているんだよ。あの悪ガキ小娘たちが立派になったもんだよ」
「それは、すごいな。かなりの費用だろうに」
「ふっ、あんた本当に何も知らないみたいだねえ。厄介になってた場所がよほどの田舎か秘境だったのかい?」
「まあそんなところだな。それでミユユたちは今何をしているんだ? できれば会いに行きたいんだが」
俺の問いにシスター・クレアはふふっと笑う。
この笑い方は……子供たちと遊ぶ際、からかう時にする表情だとわかった。
「ミユユは王城に務めているから会っておやり。ソルジャスの名を出せば、みんなわかるさ」
何か含みのある言い方だったが、10年以上も孤児院を放置してしまった手前、彼女の悪戯につべこべ言える義理はないので黙って頷いておく。
「さぁて、レジスの手から巣立った子供たちがどれほど成長したか、その目で確かめておいで」
俺は孤児院の子供たちやシスターに見送られ、改めて王城へと向かった。
ちなみに【朝守りの騎士】や【純潔の看護兵】たちは、シスター・クレアから孤児院の手伝いを頼まれたので残しておいた。
なので俺は今、一人で王城の門まで来ていた。
「やはり懐かしいな……」
帝国に蹂躙されたであろう俺の古巣は今では、堅固な門構えをしていた。
有事の際の防衛力も以前より強力になっているように思えた。
そして入城するために多くの人々が長蛇の列を作っており、俺もその一人として加わった。
いよいよ俺の番になったので門衛に用事を伝える。
「ミユユ・ソルジャスに会いたいんだが」
すると門衛たちはポカンとした表情をして、次になぜか笑い出した。
「お前さん、何かの冗談か?」
「ミユユ様に会いたいってお前、面白いな」
「様……? いや、まあ冗談ではなくて、本気なんだが」
「お前さん……何者だ?」
「見るに王国出身の者には見えないが……?」
「いや、まあ……一応は王国出身なんだが」
「身分証明の開示を頼む」
「ミユユ様との面談約束を取り付けてあるのか?」
「あ……本当のところを言えば、今日王国についたばかりでな。俺はレジェンド・ソルジャスだ。10年ほど前に王国下級兵として勤めていた者だ」
そこで門衛たちは首を傾げ、次いで笑い始めた。
「ぶははははっ、言うにことかいてお前っ! ミユユ様の父上を名乗っているのか!?」
「おまえっ、まさかミユユ様のファンか? そこまでして会いたいのかよ」
「だがな、面会の約束もなしで、身分を証明できる物がないのならここを通すわけにはいかない」
「悪いな。これも門衛としての職務なのだ。次はもうちょっとマシな冗談で頼む」
「あ、いや……」
「次の者!」
なんと……門前払いをくらってしまったようだ。




