26話 別れと家宝
【流星のささやき】によって、ツクヨの優しい気持ちが流星群となって降り注ぐ。
俺はそれを眺めながら、隣で夜空を見上げる少女にそっと感謝した。
ツクヨがいなければ俺はきっと【星棺の窓】を見なかっただろう。子供たちが生きているのを、知るきっかけを作ってくれた彼女には頭が上がらない。
同時にローハンに任された娘に会いに行く楽しみもできた。
ミユユやオルカス、そしてマギーやマニーは元気でやっているのだろうか。
想像するとついついにやけてしまう。
ここまで穏やかな気持ちで王都に入れるのは、やはりツクヨのおかげだろうな。
「竜騎兵よ、何をにやけておるのじゃ。そんなに妾と星空を眺めるのが嬉しいのか?」
「いや、なに。明日の王都入りが楽しみでな」
「明日……そうか、もう明日……いや、民を思うならもっと急ぐべきじゃったな……キホの調子は主から見て大丈夫そうかの?」
「【純潔の看護兵】たちが看なくなったから大丈夫だと思うぞ。もちろんしばらく無理は厳禁だけどな」
「そうか……竜騎兵よ、妾やキホへのもてなし、天晴れであったぞ」
「もてなしたつもりはないが礼は受け取っておこう。俺の方もツクヨと会えてよかった。おかげで王都入り前に、心の整理がついた」
「う、うむ。しかし明日か……竜騎兵は王都についたら……いや、詮索は無粋かの」
「ちょっと自分の古巣に挨拶するだけだ。あとは子供たちの顔を見て、無事を知らせる」
「子供……!? 主は子供がおるのか!?」
「ああ、孤児院を運営していたんだ」
「ほう……では独り身なのじゃな?」
「ああ。恋愛や結婚なんてしている暇がなかったから……いや、これはモテないおっさんのは言い訳か」
「そ、そんなことはないのじゃ! 竜騎兵はまっこと面白く愛い奴————面白いのじゃ!」
「あははは……まあ結婚できないおっさんは面白いのかもな」
「いやっ、そうではなくてじゃな……うーむむむぐぬぬぬ……」
なんだ?
ツクヨは【流星のささやき】を見たあたりから少し情緒不安定だな。
寂しげな顔をしたと思ったら、途端に上機嫌になって、今は何かひどく悩んでいるようだ。
まあ上に立つ者として、悩みは多いのだろうな。
俺はこの時、ツクヨの態度にそこまでの関心はなかった。なにせ俺たちは立場がだいぶ違うからだ。
俺は天空城を気ままに発展させたり管理するだけだが、ツクヨは【狐ヶ原ホモリ】を導く地位にあるのだろう。
俺が横から何か口出ししていい問題じゃないし、あっちだって俺を詮索してこないのだから、互いにこれぐらいの距離感がいいと勝手に納得していた。
そんな俺の鈍さが……まさか後々、あんなことに発展するなんて夢にも思わなかった。
◇
明くる日。
俺たちは【竜跡を残す丘の家】での移動をやめて、徒歩での移動に変えた。
それに伴い【星詠みの翼竜セリオス】や【空の支配者】たちは天空の城へと帰らせた。
なにせいきなりセリオスなんかが王都に現れたら人々が大混乱に陥ってしまうかもしれないし、巨神タイタスとやらを刺激したくなかったからだ。
道中はひたすらにツクヨが俺に話しかけてくるので、ちょっとだけ騒がしいと思ったが、この元気さも別れる頃になれば名残惜しくなるのだから不思議なものだ。
「ようやく王都についたのじゃ」
「そうだな。じゃあ、俺たちはここらで別れよう。互いにやるべきことがあるのだろう?」
「う、うむ……そ、その、なんだ。竜騎兵は、妾に……もし兄様がいたらこのような感じなのじゃろうかと……楽しませてくれたのじゃ」
少しだけしょげるツクヨを見て、今更ながらにそういうことかと納得した。
ツクヨは両親を失い、姉まで失っている。
そして里では敬われる立場であるため、俺のように何も気にせずに対等な会話ができる者が少ないのだろう。
「そんな悲しむことないぞ。いつかまた会えるさ」
「う、うむ。いくら王国の王都が広しと言えど、同じ王都にいるのじゃからな」
「あー……それは、うん、そういうことにしておこう」
実際はツクヨと俺では立場が違いすぎるので、高貴なツクヨと俺が王都で顔を合わす機会なんて訪れないだろう。
それでも別れを惜しんでくれている少女に、『王都での再会はありえないぞ』なんて無粋な発言はできなかった。
「竜騎兵よ。主に、これを授ける」
「ん?」
ツクヨがおもむろに取り出したのは綺麗な琥珀色の勾玉だった。
「狐姫さま!? そ、それはっ!」
ツクヨのお供のキホさんがその勾玉を見て血相を変えたので、もしかしてとんでもない物を渡そうとしているのでは?
「これはの。妾の一族、珠代家に代々伝わる物じゃ。ほれ、片方は妾が持っておる」
「おおう……あ、二つ合わさると綺麗な円形になるのか」
ピトリと互いの勾玉をくっつけるツクヨ。
なぜか両頬を物凄く赤らめているのが少し気になった。
「受け取っていいのか? その、一族に伝わる物ってことは、ご両親やお姉さんから受け継いだ家宝みたいなものだろう?」
「うむ。母様と父様、そして姉さまに会わせてくれた主にこそ、渡しておきたいのじゃ」
おおう……。
ツクヨの背後で口をパクパクしてるキホさんがすごく気になるけど……。
「受け取ってもらえるかの? 竜騎兵ソルジャスよ」
ううーん。
これはきっとツクヨなりの感謝の示し方なのだろう。
そう思うと、無下に断ってはいけないような気がしたのでありがたく頂戴しておく。
「ありがとう。大切にする」
「うむ。妾と思って、誰よりも何よりも大切にするがよい。妾もまた、この勾玉をソルジャスと思って大切にするのじゃ」
想定していたよりも重い答えが返ってきたけど、これも【狐巫女族】の文化的な何かなのだろうと納得した。
それから俺は【朝守りの騎士】と【純潔の看護兵】を率いて、検問前にてツクヨたちを別れた。
久しぶりの王都の壁は、記憶のものより頑丈そうに見えた。
きっと幾度となく補修をされてきたのだろう。
だが、俺にとってはもう一つの故郷に帰ってきたと——
そう思えるぐらいの懐かしさを覚えた。
「子供たちに会えるのが楽しみだな」




