20話 小部屋に集まる星々
20話【小部屋に集まる星々】
「うーん……」
俺は【竜跡を残す丘の家】にある一室の中央で、一人あぐらをかいて悩んでいた。
「ここ、【星図の部屋】はもうちょっと使い勝手が良くならないものか……」
俺は優秀な翼竜が死の間際、流星となって落ちる際に生成する【流星石】を積み重ねて作った家の調整に悩んでいた。
ドーム型のこの部屋は、壁や天井が夜空のように光っており、【竜星石】で構成された星図盤となっている。
現在地がどこなのか、星図盤を用いて昼でも正確に測れる優れものである。
また、遠くにいる『心を結んだ者』の現在位置を把握できて、対応する星が僅かに輝きを増す。
星が青く明滅したら安全な状態で、赤く脈動すると危険、または心の不安。
そして消えると、死または意識の喪失を現す。
「もう少し精度が増せないものか……」
「くるるるるう、お昼、なのに、星空、いっぱい」
「がうう、お兄ちゃん、星空、つくる?」
俺が部屋作りに夢中になっていると、いつの間にかひょっこり様子を伺ってきたのは、ウルフォナとベアトリクスだ。
幼女姿に変身しているようで、【人化魔法】の扱いがだいぶ上手になった。
「ウルとベアか。この星空はな、どんなに離れていても互いの居場所がわかる星空なんだ」
「わあ、星空、見る」
「遠く、でも、さびしくない」
幼い【月を狩る古狼】と【月を喰らう大熊】は星に魅入られたように、ジッと天井を見つめ続けた。
なんだか人のことを言えた義理ではないが、誰かが夢中になる姿は微笑ましいものだ。
「あっ、レジスくん。私をお迎えにこないと思ったら、ウルとベアと遊んでたんだ」
「おお、リーフィアじゃないか! 今回も起きるのが早かったな!」
「むふー、レジス君がくれた枝のおかげだよ。ちびちび魔力を使っても、まだまだたーっくさんあるから、当分は早起きできそう~」
銀髪緑眼の美少女リーフィアはすこぶるご機嫌な様子で、【星図の部屋】に入ってくる。
「ふぅん。今のレジスくんは家づくりに夢中なんだね? 前来た時は動物の死骸から【血の武器】を作るのに夢中だったから、新鮮かなあ」
「ああ、一カ月前はそうだったな」
「若葉たちもすくすく育っているね?」
「リフィー! あそぼ!」
「リフィ! 競争しよ!」
「じゃあ星数えの遊びでもする?」
「なん、それ!」
「する、する!」
すっかりお姉さんなリーフィアにニコニコしていれば、またもや【星図の部屋】に元気な女子たちがやってくる。
「ますたー、聞いて、ししょーに褒められた」
「タリスマン様! もう少しで竜樹の試練を超えられそうです!」
銀髪紅眼のルナル、そして金髪金眼のソレイユは意気揚々と戦果を報告してくれる。そして彼女たちの御目付役と言わんばかりに静かに入室したのは、黒髪の美女【戦乙女ブリュンヒルド】だ。
2人は最近、【伝承位】の守護者【戦乙女ブリュンヒルド】に戦いの師事を仰いでいるようで、なかなかハードな訓練をこなしている。
「あれ、お客さん?」
「あっ、初めまして。ソレイユ・トリスタンと申しますっ!」
二人はリーフィアとは初対面だったので、少々面食らっているようだ。
俺が双方を紹介しようと腰を上げると、これまた【星図の部屋】に新たな訪問者が現れた。
「タリスマン様。ご報告したいことがございます————あ、ご来客ですか? でしたら私がおもてなしの花茶を……」
銀髪碧眼の秘書、みたいなプリシラさんの登場だ。
「花茶はますたーのがいい!」
「あれは最高だったよねえ」
「じゅーす、のむ!」
「ルナルとソレユだけずるい!」
なんだか静謐だったはずの【星図の部屋】が、急に騒がしくなってきたのでちょっと笑えてしまった。
これじゃあ星図盤に輝く星の数を増やしておかないとだな。
星の登録はリーフィアだけを予定していたが、この様子ではズルいだなんだと不満が出てきそうだ。
そんな俺をリーフィアは目敏く捉え、さっそく不満そうに頬を膨らました。
「むうー……女の子が増えてる」
「ま、まあ……今はみんなで、この小さな星空を楽しもうじゃないか」
なぜかリーフィアにジト目で見られた。




