16話 王国を目指して
「では、ルナル。しっかり帝国の『英雄機関』を潰してくるんだ」
「はい、ますたー」
「『奴隷紋』解除用のプロテアはひとまず10本ほど預けておく。ルナルと考えを同じとする英雄にのみ使用するように」
「はい、ますたー」
強制的に実験やら殺戮を迫られていた英雄たちからすれば、奴隷紋が解除された途端、怒りを爆発させる者もいるだろう。
下手に奴隷紋を解除して、大暴れされたら帝国の一般人にも被害が及んでしまうし、ルナルに敵対する可能性だってある。
仮に『英雄機関』の存続を望む英雄がいる場合、その場での戦闘は避けられないだろう。
「いいか。帝国の英雄たち各々の考えは読めない。特に【英雄番号02:ヘラクラス・オルドバーン】だったか。『英雄機関』の責任者のような顔をしていたらしいな」
「はい、ますたー」
「奴は要注意だな。今後、プロテアは交渉の鍵となる。『英雄機関』を潰した後で、危険ではなさそうな英雄がいたら、こちらから改めて接触を図るのもありだ」
「はい、ますたー」
「逆にこの天空城や多くの人々にとって、危険だと判断した英雄は……殺して構わない。その辺の判断はルナルに全て任せる」
「はい、ますたー」
「それと、ソレイユ以外にはこの天空城の存在を秘密にするのだぞ」
「がんばるます、ますたー」
「それで……ええと、そのマスターってのは何だ?」
「ますたーはルナルを自由にしてくれたので、ますたーです」
「そ、そうか。とにかくルナルの影に【影の王冠】を5体ほど潜ませておくから、一緒に『英雄機関』を潰してくれ」
「はい、ますたー」
「それじゃあ気をつけてな」
「はい、ますたー!」
こうしてルナルは二体の【巨神兵の人形】に抱っこされながら、帝都へと飛んで行った。
ルナルの話では帝国は巨神とやら一体に歯が立たなかったようなので、巨神系譜の【巨神兵の人形】が二体いれば、十分な戦力だと思いたい。
しかし、英雄上位ナンバーの5、4、2、1の能力は未知数らしい。
ナンバー7のルナルですらナンバー2と3しか顔を合わせていないようなので、警戒は必要だろう。
さて、ルナルを送り出した後はやることが盛りだくさんだ。
まずはここ数日、続々と追加されたガチャシリーズを引いていく。
『ガチャシリーズ【勇神アーサー・ペンドラゴン】』
『【起動:聖剣術Lv1】×6獲得……Lv6に統合』
『【施設:王城キャメロット】×1を獲得』
『【施設:十三騎士の円卓】×1を獲得』
『【神遺物:アーサー王の心臓】×1獲得』
王城とか円卓とか、なんかすごい物を色々引けて嬉しい。
もちろんいきなり浮遊大地にドカンと建てたら、急激な環境変化を引き起こすので、一旦は宝物殿で次元収納に入れておく。
大目玉の【聖なる神剣】は出なかったものの、3%の神遺物【アーサー王の心臓】が出たのは嬉しい。
なになに、神血が永遠に少しずつ滴るとかホラーなオブジェだな。
どうやら帝国はこの神血とやらを孤児や奴隷に注入し、強靭な英雄を生み出していたらしい。さらには武器にも混ぜ込んでいたのが、聖剣のレプリカシリーズだとか。
ルナルが持っていた【血の大聖剣】もその一つだそうだ。
『ガチャシリーズ【竜殺しのシグルズ】』
『【起動:竜壁魔法Lv1】×3を獲得 → Lv3に統合』
『【起動:竜血魔法Lv1】×2を獲得 → Lv2に統合』
『【宝物:邪竜ファフニールの財宝】×1を獲得』
『【狂い鉄の竜樹】×1を獲得』
『【伝承位】の守護者、【戦乙女ブリュンヒルド】×1体を獲得』
『【施設:シグルズの絶鳴】×1を獲得』
『【神遺物:魔剣グラム】×1を獲得』
おおおおお1%の【魔剣グラム】きたあああ!
【シグルズの絶鳴】は石段などが浮遊している空中庭園でかなり神秘的な施設だった。
そしてそして【戦乙女ブリュンヒルド】が【伝承位】の守護者とか、過去最高ランクの強さを誇るぞ。
「主よ……ジークフリートを創造したら我に殺させてほしい」
誕生から数秒でいきなり物騒なことを言う【戦乙女ブリュンヒルド】。
凛とした黒髪ロングの美女は、輝かしい甲冑に身を包み、その兜だって厳めしい。しかし、漆黒の双眸に燃えるのは執念の炎だった。
「え、えーっと……シグルズ……ジークフリートに浮気されたんだっけ?」
「いかにも。絶対に許さぬ」
「わ、わかった。もし、その創造しちゃったら連絡するね。それまで城の護衛を頼めないかな?」
「承知。ジークフリートを殺しきったあとも、我が運命にかけてこの天空城をお守りしよう」
戦乙女って種族はかなりピュアらしく、一度決めたことは絶対に覆さないらしい。
そんな戦乙女と永遠の愛を誓ったシグルズさんだが、浮気して恨まれて、ブリュンヒルドさんに殺された伝承を持つ。
英雄、色を好むというが……どんなに偉大な功績を築いたとしても、そんなのが最期だとなんか尊敬できなかった。
ちなみにシグルズさんの排出確率は1%なので、多分そのうち出てしまう。
その時は、この天空城で殺し合いをしないでほしいものだ。
そんなわけで、伝承ポイントを1回1000も消費する高級ガチャを20回引いたが、結果には大満足している。
「となれば、新しい浮遊大地の生成でもしておくか」
俺は手ごろな……といっても直系3000メルほどの浮遊大地を生成し、そこへ【施設:王城キャメロット】と【施設:十三騎士の円卓】、そして【アーサー王の心臓】を混ぜ込む。
するとやはり予想通りの天空城が出来上がった。
俺たちほどの巨大さはないもののかなり立派なので、ここには騎士系統の守護者を在中させるのもいいだろう。
自分だけの伝承騎士団とかロマンすぎるぞ。
次にもう一つの浮遊大地を生成していく。
もちろん混ぜるのは【施設:シグルズの絶鳴】と【宝物:邪竜ファフニールの財宝】、そして【狂い鉄の竜樹】だ。
新たに生成された浮遊大地の上には、屋根のない朽ちた神殿が鎮座していた。そこにはやはり浮遊する石段や回廊、そして床などが点在し、古の空中庭園そのものだった。
最上階には鉄の大樹が堂々と生えており、太く巨大な幹が絡まり合い、その一つ一つが何頭もの竜が天に登る形状を象っていた。
その姿には大いに神話の残り香を感じる。
そんな竜樹の根本には金銀財宝が山のように散らばっていて、まるで黄金を守る竜のようにそびえ立っている。
「ふう、やばい領域が出来上がったな」
それぞれの施設効果を把握すると、我ながら仰天しかねないものばかりだ。
この辺もおいおい触れていくとして……ひとまずは、最もやりたいことを始めようか。
「……天空の城を含め! この浮遊大地群の進路を、グランドタイタス聖王国に定める!」
『説、【竜翼魔法Lv3】の推進力では到着するのに数カ月ほどかかります』
それでいい。
本当は今すぐにでも【巨神兵の人形】を数体伴って、人間状態で飛行して向かいたい。
そうすれば数週間後には到着するだろう。
しかし、今の俺は【見守る者】でもある。
死してなおセカンドライフのチャンスをくれた天空の城に、ここのみんなに感謝している。
王国はあまりにも離れすぎていて、長期間ここを留守にするのは違うと思った。
それに……色々と心の準備もある。
一旦、灯った希望が潰える可能性だって十分にあるのだ。
子供たちが生存しているとは限らないし、戦友が無事であるとも……。
だから、今はゆっくりでいい。
ルナルの帰還と報告を待ってからがちょうどいいのだと思う。
俺は遠く離れた王国を想い、大空の果てを見つめる。
「王国を救った『巨神』とやらも、この目で拝んでおきたいな。一体、どんな伝説的な存在なんだろう……」




