表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/36

1話 おっさん、伝説になる


「死ねえええ! 王国のクソ兵士がああ!」


 意識が朦朧(もうろう)とする中、その帝国兵は狂気と凶器を容赦なく俺に向けた。

 どうにか左腕でその剣戟(けんげき)を受け止めたが、すでに腕の感覚は麻痺しているため痛みはほとんどなかった。


 ただ、ザシュっと斬り潰される音を聞いて、二度と使い物にならないだろうと腕は諦める。


「王国の物は全部奪ってやるぜええ! 女ァ! 子供ォ! 犯しまくれえ!」


 だが諦めきれないものもある。

 王国兵として守り抜きたいものがある。

 だから残った右手で剣を握り、(ろく)に力の入らない足腰を叱咤する。

 満身創痍の下級兵士である俺にだって、まだできることはあるはずだ。

 まだ、まだ死ねない。


「王国のおっさんはしつけえなあ!」


 しかし現実は俺の意思に反して、無常にも流れてゆく。

 明滅する視界が最後に捉えたのは鈍く光る刃。帝国兵の剣が俺の胸に突き刺さり、燃えるような痛みが爆発する。

 ————ああ、いつもそうだったな。


薄れた草人(クォータエルフ)】として生まれ、【森の麗人(エルフ)】たちから差別を受けた幼き日々も。


 冒険者を夢見て旅立ち、自分には何の才能もないと改めて痛感させられた時も。


 いつも現実は無常だった。

 そして悔しさは胸を焦がし、俺に目まぐるしい走馬灯の篝火を見せつける。


「おっさん~早く死ね~!」

「こいつ口からめっちゃ血ぃ吐いてて笑えるわ!」


「かはっ」


 あぁ————

 胸が熱い、痛い。


 かつての冒険者同期たちが活躍したと、風の噂で聞いた時は胸が躍ったな。

 遠く異国の地で【花園(はなぞの)騎士】たちが発見した、【神を埋葬した箱庭(ノーザンガーデン)】の話は衝撃的だった。

【剣聖】と名高い英雄が、西に座す【夕染(ゆうぞ)めの魔王】を地平に沈めた武勇伝にも憧れた。


 子供の頃に聞いた伝説や伝承は本当にあるのだと、俺だっていつかそんな伝説に巡り合えるかもしれないと。

 諦めきれずにただひたすら剣を握った。

 夜に腐っても、日が昇れば、また剣を振り続けた。


 そして数々の冒険の果てに、俺がようやく掴み取ったのは下級兵士の身分だった。

 安住したいと思える場所に出会えた。

 いつまでも酒を飲み交わしていたい友人とも出会えた。

 いつまでもその成長を見届けたいと願う、孤児院の子供たちとも出会えた。


 だから俺はこの王都で、大切な人達の安全を守れるぐらいにはなりたかった。


 世に語られる伝説と比べたら、ちっぽけな俺の人生(ぼうけん)だったかもしれない。

 でも俺にとっては全てかけがえのないものだった。

 


「だからっ……お前らにここは蹂躙させ、ないっ……!」


 ここには俺の愛する友人が、子供たちが、国が、ある。

 守りたいものがある……!


「絶対にッ……負けられない(・・・・・・)……!」


「まじでしつこいわ~、おいお前ら。こいつが何回突き刺されたら死ぬか賭けようぜ?」

「王国兵のおっさんまじタフだなあ」

「俺はあと三刺しで絶命に銀貨2枚賭ける!」


 あぁ————ちきしょう。

 死の間際にしてようやくわかった。

 年甲斐もなく俺が伝説や神話に焦がれ続けた理由が。


 だって、もし伝説になれていたなら————

 こんな理不尽をはねのけ、大切な人達も、国も守れたかもしれないから。


 どうかみんなは無事で逃げ————



「おいおい、二十五刺しとか粘りすぎだろ……」


「……見事に俺らの完敗だぜ」


「ああ。賭けには誰も勝てなかったな(・・・・・・・)






 ん?

 気付くと俺は大空をぷかぷかと浮いていた。

 ここはどこだ……?


 少なくとも黄金教の神父が説く、死者の楽園【黄金郷】ではなさそうだ……?

 どちらかと言えば竜神信仰者たちが謳う、落ちた翼が行きつく蒼穹の墓場【天骸(てんがい)】に近いかもしれない?

 周囲を見ればミニチュアサイズの竜たちが飛び回っているし……。


 んん……なんだかお腹の辺がむずがゆいような……。

 かゆい部分に視線、意識を向けると、ん……?

 これまた米粒サイズの熊と狼が、寂れた庭園で戦っている?



『説、数千年ぶりの主格を獲得しました』

私たちは(・・・・)ラピュタリス』


 んんん!?

 頭の中から妙な声が聞こえる!?

 お前は、誰だ!?


『説、敢えて私たちを別格として分類するのでしたら私は【浮遊する者(ラピュタル)】』

『あなたは【見守る者(タリスマン)】』

『ゆえに私たちはラピュタリス』


 ラピュタリス……?

 俺は死んだんじゃないのか?

 というかここはどこで、俺、たちは何なんだ!?


『説、数千年もの間、様々な機構が眠りについていたので現座標は不明』

『私たちは【伝承を育む天空城】、もしくは【神話を生む天空城】と呼ばれています』


 神話を生みだす……天空城!?

 下級兵だった俺が、伝説の存在になっている……?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ