表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

【EP1-2】途切れた場所へ

「じゃ、今日はもうちょっとだけ“裏”に行ってみまーす♡」


 軽やかな声でそう宣言すると同時に、マリア・スノウリリィは暗い通路の奥へと足を踏み出した。

 視界に広がるのは、登録済みのマッピングとは異なる灰色の構造体。

 配信用ナビHUDが点滅し、警告を表示する。


《警告:未認可区域に接近しています》

《データベースに該当構造が存在しません》

《この区域への進入は推奨されません》


「わかってる、でも──行くの」


 マリアは小さく呟き、警告ウィンドウを手のひらで払う。

 カメラドローンが後を追い、視界を多角的に記録しながら、視聴者に異様な空間を中継する。


《え、未認可行くの!?》《またギリギリ攻めるな》《リアルBANの予感しかしない》


 コメント欄は瞬時に盛り上がる。

 彼女のファンには知られていることだが、マリアはときどき意図的に“認可外”に突入する。

 だがその理由を、本当に理解している者は少ない。


 ──未認可区域。

 それは「都市防衛ダンジョン」内部において、行政機関および管理AIが安全性や論理的一貫性を保証できない空間のことを指す。


 ダンジョンはあくまで“異界との接続点”であり、人間による観測と記録によって構造が安定している。

 しかし未認可区域は、元々想定されていなかった形状、記録にない出入口、反応しない魔物、繰り返す構造変動など、不確定要素に満ちた異常空間である。

 本来、こうした領域への立ち入りは法人資格がなければ違法であり、事故が起きても一切の責任は負われない。

 それでもマリアは進んだ。


 ──なぜなら、この区域で、“彼女の過去”が途切れているからだ。


「ここだけ、空気が死んでる……」


 壁をなぞる指先に、埃はつかない。

 だが肌を刺す冷気と、喉奥にへばりつくような異臭が、この先の異常性を物語っていた。


(事件当時のデータログじゃ、この区域の記録がまるごと空白だった)


 そう。

 ファントム・ミラー暴走事件が起きた当日。

 爆発的な通信遮断と同時に、ここ──層区07-B・γブロックの地下構造──は“存在しなかったこと”にされた。


 管理局の報告でも、企業の記録でも。

 この地点で「アイドルの少女たちが消えた」という事実は“書き換えられている”。


「……今度こそ、あたしの目で見る」


 ドローンが警戒音を発した。


《魔力反応、接近中》


 直後、頭上から落下してきたのは、生きた鉄塔のような巨大魔物。

 鋼線のようにうねる腕、光学迷彩を纏った肌、複数の視線を持つ“再設計型”魔獣。


 マリアは跳躍し、即座に光の鞭を展開。

 先端がきらめき、瞬時に反転して腕を切り払う。


「おっと……随分お行儀の悪い歓迎ね!」


 だが、魔物は倒れない。

 明らかに通常の種とは挙動が異なる。反射速度も、構造も、生物兵器のように洗練されていた。


《なんだこれ》《あのスピード初見殺しじゃね》《マリア逃げて!!》


「大丈夫、ちゃんと倒すから──見てて」


 鞭を振るうその手の先で、光が再び唄う。


 しかし、その瞬間──

 視界の奥に、何かが“揺れた”。

 暗がりの中で、誰かが“見ている”。


(──え? 誰?)


 その問いが生まれる直前、魔物の一撃が、マリアの眼前を切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ