第4話 プリマヴェーラ(春)
戦闘もできる魔法士のバートとコンビを組み、リックは攻撃に専念できるようになり、ソロ時代のボッサのようなオールラウンダーというよりは、超攻撃派に転じた。
唯一無二の超パワー系剣士のリックと魔法士バートのパーティは、レベルを上げ、ギルドも冷遇できない存在となった。
そんなバートたちは、ボッサが死んだときのパートナーが冒険者を辞めた、との噂を聞いた。
もし冒険者がイヤで辞めるなら、それでも構わない。
しかし、そうでないなら…
2人はそのパートナーに、会いに行くことにした。
それは近郊の農村だった。
子どもたちに剣術を教えている女がいた。
「魔物が出たら自分のことは自分で守らないとダメだよ!」
ジーンという女だった。
子どもたちへの剣術指導が終わった頃合いを見て、2人はジーンに話しかけた。
「オレらは、ボッサの元パートナーで…」
というと彼女は涙を流した。
「申し訳ありません。私が未熟なばかりに…」
「別にオレたちはキミを責めに来たんじゃない。なぜギルドを辞めたのか、聞いてみたいと思ったんだ」
「責任を取って、これからは農民として生きていこう、と思っています」
バートとリックは顔を見合わせた。
「責任?」
「ええ、ボッサの死の責任です。私が彼を殺した」
リックがあわてていった。
「誰も望んでないよ!」
バートが続けた。
「冒険者なんてある程度の確率で死ぬんだから、責任を感じる必要はないだろ?」
「でも私が冒険者の宝を…」
2人は思った。
この人もちゃんとボッサのこと尊敬してたんだな…
ならば、余計に辞めさせたくないものであった。
バートがいった。
「冒険者を続けることも、ひとつの責任の果たし方だよ」
「それって都合が良すぎませんか」
「ボッサだって、きっとそれを望んでるさ」
「……」
「オレたちがキミの技術向上の面倒見るよ。それでも冒険者として素質がないなら、辞めればいい」
「……」
「子どもたちに剣術を教えているのは、剣に未練があるからじゃないか?」
「それは…」
バートが、ふと思いついたようにいった。
「…魔法士とパーティを組めば、強化魔法でさらに上を目指せるのになあ」
彼女の耳が、ピクリと動いた。
「…強化魔法?」
「そうだよ。魔法士とパーティ組んだことある? 強化魔法を掛けたら、今までの何倍も動きが良くなって、すごい魔物も倒せるよ」
「すごい… 魔物を… 倒せる?」
「せっかくのチャンスなのになあ…」
「あなたがたは、それを聞いて選択を変える私を、ひどいヤツだとは思わないでしょうか」
「アハハ。オレらの方がひどいでしょ。剣士の前にニンジンぶら下げて!」
「人を馬みたいに!」
それで決まりだった。
ジーンは冒険者に戻ることになった。
ボッサが目を付けただけあって、彼女はセンスが良かった。
剣術は、リックが入念に指導した。
前衛に回る剣士には相応の役割がある。
魔物をビビらせる。
人間が怖い存在だと思わせる。
そうでないとナメられて、その後の攻撃が上手くいかない。
バートも、魔法で彼女のサポートをした。
「自信を持って行け! 必ず守ってやるから!」
ボッサにいわれていたことを、彼女にいっている自分に気づき、バートは苦笑した。
そして、こう思うのだった。
ボッサ… アンタが生きてればなあ…
オレたち、すごいパーティになれたのに…
だが、彼はもういない。
それでも…
…それでも、彼らは冒険者を続けて行くのだ。
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