第3話 ミーニャ・サウダージ(私の憧れ)
「あの人、新人では苦労しているからな」
新しく加入したパーティで、バートは、ボッサの昔話を聞いた。
ボッサは、バートとコンビを組む前に、リックという剣士と組んでいた。
彼は、新人リックに手取り足取り丁寧に教え、一人前の剣士に成長させた。
最強の2人として、コンビは上手くいっていた。
しかし、リックは、だんだんとボッサに子ども扱いされている、と考えるようになった。
自分が大きな役割を果たした仕事でも、ボッサの仕事だからと言われ、自分が全く評価されないことも、彼をイライラさせた。
そこで彼はコンビを解消し、ボッサを完全に真似たスタイルで、ソロで仕事を取るようになる。
しかも安い報酬で受けるのだから、ボッサに仕事が回らなくなってしまった。
バートがボッサと組んだのが、ちょうどこの頃である。
ボッサはタイプの違うパーティにならないと、冒険者として生き残れないと判断したのだ。
(今、リックはどうしているのか?)
そう思ったバートは、彼を探した。
すると、リックは酒場街で飲んだくれとなっていた。
リックはバートを見ると、
「…ああ、おまえか。新しいボッサの相棒だった男は」
と虚ろな目でいった。
あまりに荒んだ彼の姿を見て、バートはいった。
「こんなところで、なにをしてるんだ。ボッサが悲しむぞ」
「よくいうぜ。おまえだって、ボッサを見棄てたクセに!」
カッとなったバートだが、同時に冷静にならねばと思った。
ここでいがみ合っても、ボッサは喜ばないだろう。
「そうだな… たしかに、そうだ… でもボッサが死んだことは、オレだって後悔しているんだ」
リックがポツリといった。
「ボッサを殺したのはオレだ」
「?」
「ボッサから離れたとき、ギルドからいわれたんだ。ボッサより安く仕事を請ければ、優先的に仕事を回してやるって… オレ、あの時は、ボッサを見返してやるって思っていたから、これでオレもボッサに勝てると思って… オレは…」
「あの人はそんなことで怒りゃしないよ」
「知ってるさ。だからこそ、ツラいんだ」
そしてバートの防具を見ると、彼にいった。
「その防具、ボッサに買ってもらったろ」
「ああ」
「あの人、たいして貯金もないのに、すぐ新人に奢っちゃうんだよな」
泣きながら、続けて言った。
「冒険者パーティで楽しくやるのが、本当に好きだったんだよ」
このままではコイツはダメになる。
バートは、そう直感した。
彼は、移籍した有名パーティを抜けて、リックとコンビを組むことにした。
ギルドからは、猛反対を受けた。
「いいから、あのパーティにいろ」
「でも、このままじゃ、リックはダメになる」
「放っておけばいい。おまえはギルドのいうことを聞いていればいいんだ。ボッサみたいになりたいのか」
「どういう意味です?」
「言葉通りの意味だよ」
「オレが誰と組むかは、自分で決めます」
「勝手にしろ。あとでどうなっても知らないぞ」
以前彼にギルドとは仲良くしておけ、と注意されたことを思い出したが、ここは引けなかった。
ボッサ… オレもバカでしたよ…
リックはそう思った。
それでも、ギルドに従わない人間は不幸にしておけばいい、という考え方に反発を覚えたのだ。