第1話 デサフィナード(音痴)
ウィロー村の便利屋魔法士の息子だったバートは、小さなころから魔法に親しみ、幼なじみで近所のアルやフランとも快活に野山で遊んだが、彼らから魔法が使えることでの尊敬の目を向けられると、それは彼を魔法の道の深みへと進ませ、両親の指導や家の魔法書を積極的に学び、さらに使える魔法の数を増やしていった。
使えば使うほど魔法への興味は高まり、もっと学びたいという欲求から、王立魔法学校へ入学する。
父親には学費は大きな負担だったが、バートは2年目から学業優秀者として特待生となり、学費も免除された。
成績はいつもトップクラスだったが、平民の彼は貴族から疎まれ、少なからずイヤな思いもした。
貴族の同級生たちは、魔法の腕ではかなわないとわかっているので、バートの服装や礼儀作法のなさをバカにしてきた。
そのなかでも、国王付き魔法士の娘で同級生のメアリー・クリークは、彼の魔法の力と真面目でおだやかな性格を評価し、何かとかばってくれた。
とはいえ貴族への不信感は募り、卒業時にどこであろうと望む官職に就けそうだったのにも関わらず、彼は、「実践で自分の魔法を試したい」と冒険者になった。
魔法関係の省庁で一緒に働けると考えていたメアリーは、ずいぶんと寂しい思いをしたものである。
王立魔法学校を卒業して、冒険者などという下賤の職に就く人間はめずらしく、仕事を始めたころは加入したパーティのメンバーから、「学生さんのお手並み拝見といきますか」などと皮肉をいわれたり、「なんで冒険者になんかなったの?」と聞かれて、「自分の実力を試したかったんです」と真面目に答えたところで、そっけなく「ふーん」と返されるのがオチで、冒険者として異物の彼に、向き合う人は誰もいなかった。
何か提案しても、「魔法士は黙ってろ」とか「学生さんのいうこと違うねえ」などと茶化されて、まともに取り上げてはもらえない。
バートは初め、学ぶべきことも多いと考えて、大所帯パーティに加入していた。
しかしそこでは、新人ということもあり、「見習いなんだから」と報酬の分け前も低く、「イヤなら他のパーティへ行けよ」といわれたりと、まわりは偉そうにしてるばかりで、なにも教えてはくれなかった。
パーティの中では、戦闘に加わらない魔法士の扱いは低く、取り分も少ないのだ。
露骨に「おまえはオレのパーティに入ってるんだから、オレに尽くせ」、「おまえが仕事が出来ているのはオレのパーティに入っているからだ」、「他じゃ通用しない」などといわれた。
魔法学校では貴族に退けられ、冒険者の中では貴族寄りの人間として退けられる…
自身の居場所見つけられない彼は、「信頼し合える人間と仕事がしたい」と心から願った。
そしてバートは、少人数のパーティに移籍しようと考えるようになった。
ある日、彼は、ボッサというソロ冒険者の補佐に入った。
そのソロ冒険者は、彼の提案を素直に受け入れ、さらに「気が付くことがあったら、どんどん言ってくれ」といい、その案が良ければ採用してくれ、報酬の分配も公平で、いい関係を結べた。
また、2人しかいないので、戦闘の一部を引き受けることもあり、冒険者として経験値が上がるのを実感できた。
以前の大所帯パーティでは、考えられないことだった。
「どうしてそんなに意見を聞いてくれるんですか」と彼が問うと、
「若い連中を平等に扱うことが、冒険者として長く働けるコツだと気づいたからさ」と彼は答えた。
ボッサは若いころは凄腕の冒険者だったと聞いたが、あまり有名ではないようだった。
腕のある冒険者は、大所帯の有名パーティのリーダーであることが多い。
バートは彼に聞いてみた。
「なぜソロでやってるんですか?」
「若いころに、めちゃくちゃトガっててさ、ヤンチャしすぎて、ギルドに嫌われてるんだよな。だから、あんまり組んでくれるやつがいないんで、新人とばっかりやってるんだ」
「ヤンチャって?」
「ギルドを通さずに仕事を採ったりとか、いろんなルールを無視したりとか」
「はあ… それは… ダメですね…」
「あとで謝ったんだけどさ、ギルドのヤツらから、未だに憎まれてるんだよな」
「はあ…」
「おまえも気をつけろよ、って言いたいところだけど、おまえは大丈夫か。オレみたいなバカじゃないから」
彼は他にもいろいろなアドバイスをしてくれた。
「初挑戦ですべて成功することなんてない。失敗しても良いから、前へ出ろ」
「自信を持ってやれ! おまえの考え方で合ってるから」
「明るくないと損するぞ。社交的じゃないと、まわりの連中が情報を教えてくれないから」
「そんな防具じゃ長生き出来ないぞ」といって、防具を買ってくれたこともあった。
良ければ褒めてくれるし、悪ければ叱ってくれた。
年は離れていたけれど、話は合った。
根本的な考え方が似ていたからだろう。