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1-7 孤児院の魔法使い

ルクスの引き取り先を孤児院にするか教会にするか迷った末、街外れの孤児院を選んだ。場所は宿屋の主人が教えてくれた。


「ここか…」


目の前には古びた石造りの建物。ちょっと年季が入りすぎてるけど、窓も扉もちゃんと手入れされてる。庭の木製ブランコが風に揺れてるが、周囲は妙に静かだ。


「たのもー」


錆びた鉄門の前で声を上げる。……けど、反応なし。まさか留守?それは困るな。


腕の中のルクスは相変わらず寝息を立ててる。このまま起きる前に話をつけたいんだけど…。


「どうしよ…」


小さく呟いたその瞬間、孤児院の扉がギィと音を立てて開いた。箒を手にしたエプロン姿の、十代半ばくらいの女の子が顔を覗かせる。


「あのー、ちょっといい?」


「……何か用ですか?」


声をかけると、彼女の表情が一瞬で曇る。……あからさまに警戒されてる。


「その……赤子を引き取ってほしいんだけど、とりあえず入れてもらえる?」


私が言うと、彼女は無言でこくりと頷いた。


「ったく、そんなビビらなくても何もしないっつの……」


愚痴をこぼしながら鉄門に手をかけた、その瞬間――。


バチンッ!


「っ、なんだ?」


手が弾かれて思わず後ずさる。鉄門が鈍い光を放っていた。これは…保護魔法?


「あ……あ……!」


心の底から怯えた声を出しながら、エプロン姿の女の子がその場にへたり込む。怯えた目でこっちを見上げてくるその視線に、嫌な予感がした。


「ま、魔族!?」


その言葉にドクンと心臓が跳ねた。その目…何度も向けられてきた、恐怖と侮蔑の目。パーティーを追放されたあの日の記憶がよみがえり、少し嫌な気持ちになった。


落ち着け。ルクスを引き渡す前に、正体がバレるのはやばい。ここは逃げるしか…。


「逃がしませんよ」


後ろを向くと、いつの間にか若い女性が立っていた。長い金髪に、大きな金の瞳。古びた黒のワンピースをまとい、整った顔立ちにはどこか幼さが残っている。


「ライアお姉ちゃん!」


エプロンの女の子が涙目のまま、ほっとしたように笑った。


「メリル、危ないから門から出ないで!」


ライアと呼ばれた彼女は鋭い声で女の子に命じた後、すぐさま私をキッと睨みつけた。この流れは、まっずい。


「子どもたちには指一本触れさせません!覚悟してください!」


ライアは威勢よく何かを取り出した。それは……リボンの付いた木の枝のようなものだった。


「……何それ?」


「何って、見れば分かるでしょ!魔法の杖です!」


「……冗談でしょ?」


どう見ても、ただの木の枝じゃん。


「むっ、バカにしてますね!?怒りましたよ、わたしは!」


私の反応に、ライアは顔を真っ赤にしてその杖(?)を構えた。リボンが揺れ、杖の先にバチバチと閃光が走る。杖に集中していく魔力量から、並大抵ではない攻撃がくることが予想できた。


強風になびく金色の前髪。その隙間から覗く双眸が私を射貫く。


「ちょ、待っ……!」


このバカ!ルクスに気づいてないの!?


「待って!お姉ちゃん!」


メリルも大声で止めようとするが、もう遅かった。


「【破閃(ブラスト)】!!」


轟音と共に、杖から放たれた光の塊が地面をえぐりながら一直線に飛び出す。


【破閃】って、たしか初級の衝撃魔法のはず。威力…おかしくない?てか、この斜線上……孤児院とあの子に当たるぞ?それを分かって放ってるよな?そんなバカじゃないよね?


チラッと後ろをみると、不安そうな顔をしているメリルと目が合った。


「はぁ…下がってて」


ため息をついた後、私がそう言うと、メリルは驚いた顔をした。


万が一がある。私は避けずに受けることを選んだ。手に握った短剣をそっと構える。


――【(エンチャント)付与(シャドウ)


黒い影が刃に絡みつき、濃密な闇が短剣を覆う。


「フッ!」


短剣を振り上げた瞬間、迫り来る光の魔法と激しくぶつかり合う。刃先に火花のような閃光が飛び散った。


ギィィンッ!!


光の塊は上空へ弾き飛ばされ、そのまま遠くで炸裂した。


「……………は?」


ライアは、あり得ないものを見たかのようなマヌケな面になっていた。


「ちょっと、危ないんだけど?」


【影付与】が一撃で解けている。まともに喰らっていたら無事じゃ済まなかっただろう。コイツ、見かけによらず意外とやり手じゃん。


腕の中のルクスに目をやる。さっきの騒ぎが嘘のように、相変わらずスヤスヤと寝息を立てていた。……アンタも凄いな。


「ま…魔法を“弾いた”!?そんなのあり得ない!!そんなことできるのは“剣聖”ぐらいじゃ…!」


ライアが驚愕の声をあげる。いやいや、私のほうがアンタに驚いてるよ。


「くっ!もう一度……!」


懲りずにライアはまた魔法を放とうとする。


「ちょっと、いい加減に――」


私が止めに行こうとした、その瞬間。


バキッ!


彼女の魔法の杖が真っ二つに折れた。


「あ――――!!わたしの杖が――――!!」


ライアはその場にへたり込み、折れた杖を抱えてメソメソと泣き始めた。


……いや、当たり前でしょ。あの威力の魔法を、そんな木の枝みたいな杖で撃とうとするほうが間違ってる。


「ライアお姉ちゃん!」


メリルは怒った様子で、私の横を通り過ぎ、ライアの元に向かっていく。


「ちょっ!危ないから出ちゃダメでしょ!」


「危ないのはお姉ちゃんでしょ!当たったらどうすんの!?」


「孤児院には、マザーの保護魔法がかかってるから大丈夫だって!」


二人でコソコソ話をし始めた。まぁ、全部きこえてるけどね。それにしても、今の魔法を防げる保護魔法…マザーっていったい何者?


「そうじゃない!赤ちゃん!」


「あかちゃん…?」


「左腕で抱っこしてるでしょ!」


ライアがじーっと私の左腕を見たあと、ハッと目をまんまるにした。


今さら気づいたか、このバカ。


そのまま汗をじわっと浮かべながら、わざとらしく咳払いして腕を組む。


「まぁ…?話ぐらいは…?きいてあげてもいいですよ?特別にですからね!」


よし、ここはやめよう。教会に行こう。

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