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1-4 メルノア 骸の王と戦う

「よっと」


骸の王(スケルトンキング)の大振りをひらりと躱して、私はスケルトンの群れに紛れ込んだ。だけど、周りのスケルトンたちは、私の存在に気づかない。――暗殺者スキル【隠密】のおかげだ。動かない限り、私はただの影と同じ。気配さえ、闇に溶け込んでいる。


七、八、九……全部で十二体。数と位置をざっと把握する。さて…始めるか。


短剣を一閃。近くにいた二体のスケルトンの首が宙を舞う。骨が砕ける音に反応して他のスケルトンたちが振り向くが、ムダだ。もう、私はそこにはいない。

影を滑るように動きながら、一体、また一体と仕留めていく。殺す、移動する、姿を消す…その繰り返し。これが暗殺者の基本的な戦い方だ。


「な…何が起きている!?」


パーティーメンバーから「何もしてない」と誤解されるほどの私の手腕に、骸の王は驚愕の声をあげた。気づけば、スケルトンたちは全滅。残っているのはキングのみだった。


「終わりね。もう諦めたら?」


私は短剣を軽く振り、フッと息を吹きかけ付着した骨粉を払う。


「我が眷属たちを一瞬で…!?貴様…一体何者だ!?」


骸の王の赤い瞳が揺れる。もはや、さっきまでの威厳は消え失せていた。


「別に…ただの暗殺者よ」


「暗殺者…?貴様は魔族だろ!なぜ邪魔をする!?魔王様が復活した今、再び我々の時代が訪れようというのに!」


「私には関係ないし、どうでもいい」


冷めた声でそう返しながら、私は思い出していた。さっき骸の王が蹂躙しようとした青年の絶望した顔を。


「ただ…アンタは胸糞悪かった。それだけよ」


そう呟くと、骸の王の瞳が怒りに燃え上がった。圧倒的な威圧感が空気を押し潰し、森全体がざわつき始める。遠くで鳥たちが羽ばたく音が響く。


「そんなくだらない理由で裏切るだと!?我ら魔族は魔王様のために存在しているのだぞ!この不届き者が!貴様だけは、この場で確実に葬ってやる!!」


骸の王は、巨大な大剣を縦に構えた。


「幾千の眷属達よ…我が声に応えよ…」


骸の王が詠唱しはじめると、地面から瘴気が立ち上り、渦を巻くように大剣へと吸い込まれていく。


「先の戦いで、貴様が集団戦に長けていることは分かった。だが!その矮小な肉体と武器ではこの一撃は受けれまい!」


大剣を頭上に高らかに振り上げた。


剣から怨嗟の声がこだまし、空気が張り詰める。地響きが起こり、森全体が震えた。


「うお…まずい」


私は、急いで横に避ける。


「阿呆が!逃げられると思っているのか!!」


骸の王の叫びと共に、大剣がキィイィィンと不気味な音を立てた。黒いオーラが刃先に集まり、研ぎ澄まされたような鋭い光を放つ。


――くる


「汝らの魂、主たる我に捧げよ!闇を焦がし、光を断ち、全てを焼き尽くせ!!【爆ぜ狂う魂の喝采(ソウル・ストライク)】!!」


骸の王が大剣を振り下ろすと、黒い閃光が空間を切り裂いた。轟音と共に爆発が走り、森は一瞬で荒地へと変わり果てた。



「カタカタカタ!思い知ったか!これが我が最終奥義の威力よ!」


「たしかにすごい。森が丸裸だ。……てかその姿、どうしたの?」


「…………は?」


私を倒したと勝ち誇る骸の王。しかし、次の瞬間には私はすでにその背後を取っていた。


そして、骸の王は…なぜか、王冠を被っただけのスケルトンになっていた。みずほらしい姿に失笑する。


「貴様、いつの間に!?どうやって!?」


「いや、普通に避けただけだけど…」


「あ…ありえん!あそこから避けただと!?横に躱しただけでは、絶対に…!」


あー、やっぱり見えてなかったか。横に避けてから、そのあとすぐにアンタの方角に飛んだんだよ。

私の固有スキル【影歩(シャドウ・ステップ)】。影に潜るようにして一瞬で間合いを詰める――それがこの技の真骨頂。


「そもそも!初見の技のはずなのに、なぜ攻撃範囲が分かった!!」


「うーん…暗殺者の勘、かな?」


「はぁ!?ふざけるな!!」


本当は、剣の構えや魔力の流れ、攻撃の方向を読んでただけ。でも、こう言ったほうが悔しいと思って嘘をついた。


「それに、あっちの方角はまずかったし」


私がちらっとそっちを見ると、骸の王が何かに気づく。


「ま…まさか、小僧に当たらぬようにするために横に移動したのか…?」


骸の王の目が大きく見開く。攻撃をかわされた上にこちらの思惑通りだと気づいたら、そりゃショックよね。


「我が眷属たちの魂を凝縮した究極の一撃が……」


骸の王は全身を震わせ、カタカタと音を立てている。さて…ちょっと思い知らせてやるか。


「あー、だからその姿なんだ?眷属…いなくなっちゃった?」


わざと首を傾げて、軽く煽ってみせる。


「うっ!!」


「それってさ、無駄死にじゃん。眷属たち、かわいそー。アンタのために魂を捧げたのにね」


「う…あ…」


骸の王の震えがどんどん激しくなっていく。


「てか、眷属がいなきゃ何もできないんだ?その上、そんなみっともない姿さらして…アンタ、王様失格じゃない?」


軽く笑いながら言葉を刺すと、骸の王の体は震えの頂点に達し、絶叫をあげた。


「うあ…うあああああアアアアアア!!」


次の瞬間、骸の王の体はガラガラと音を立てて崩れ落ち、ただの骨になった。


「え、どんな仕組み?」


煽るだけのつもりだったが、死んじゃった。

いくら暗殺者といえど、言葉のみで死ぬ魔物を見るのは初めてだったので、驚いた。


「まぁ…私からの“究極の死”ってことで」


汚らしい骨粉の舞う中、そう呟いた。


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