1-1 暗殺者メルノア パーティー追放される
「メルノア。貴様をパーティーから追放する」
「……は?」
「メルノアさん…あなたをパーティーから追放させていただきます」
「は?」
「だからぁ!メルノアァ!!お前をパーティーから…」
「いや聴こえた上では?なんだよ」
ギルドで旅立ち前の最後のランチ中、同じパーティーの
灰色の長髪の魔法使い、グウェン。
ピンクの髪を短く整えた聖女、イザベラ。
そして、屈強な肉体を持つタンク、オーグから立て続けに追放宣言をされた。
三人とも、王都屈指の実力者で、それぞれなんか凄い異名を持っていた。……なんて名前だったかは忘れたけど。
「トレイ、どういうこと?」
「そのままの意味だよメルノア。君は、僕のパーティーにふさわしくない」
きちっとした金髪の男、トレイがいつものように偉そうにふんずりかえっている。我らパーティーのリーダーにして、選ばれし勇者だ。
「なんで? 私、めちゃくちゃ頑張ってるじゃん」
私は暗殺者として、影からパーティーを支えてきた。敵の背後を取り、一撃で仕留める。パーティーが動きやすいように罠を解除し、隠し通路を見つける。時には敵の追っ手を引き受け、時間を稼ぐことだってやった。
地味で目立たないけど、誰かがやらなきゃならない大事な仕事。それが私の役割だと思ってた。
……なのに、どうしてこうなった?
「色々理由はあるが…そうだな。最後にいい機会だ。それぞれ一人ずつ、メルノアの追放理由を言っていこうじゃないか!」
パーティーの連中は、「それはいい!」、「さすがトレイ!」と盛り上がっている。正直、気分が悪い。せめて腹は満たそうと、おもむろにスパゲッティを口に運ぶ。
「まずは、我からだな。フム、一つだけ……か…これは難題だな。『真理を追求する者』と呼ばれた我でさえも、この答えを導くには骨が折れる」
グウェンが頭を抑えながら、深いため息をついた。あーそんな異名だったなと、喉の奥に引っかかっていた骨がするりと取れたような感覚がした。
「そうだな…一つだけ挙げるとするなら、パーティー内での貢献が著しく低いことだな。戦闘中、姿を現したかと思えばすぐに消え、一緒に戦っていると感じたことがない。ダンジョン探索でも、一人で先行するばかりで、協調性に欠ける独断行動が目立つ。つまり、何もせずに恩恵だけを貪る寄生虫…それが貴様だメルノア!」
消えたり現れたりって…それが暗殺者の戦い方だし。ダンジョンでも、私が独断行動してるんじゃなくて、お前らがダラダラ進んでいただけだろうが。
文句を言おうとすると、トレイから「黙って聞け」と釘を刺される。私はより不機嫌になり、スパゲッティを口いっぱいに頬張った。
「次は私ですね。メルノアさん…申し訳ございません。『慈悲深き聖母』である私でさえも…貴女を許すことができませんでした。きっと、こうなることも神の思し召しなんでしょう」
イザベラは、目を閉じて祈りを捧げはじめた。
アンタが祈ってるところ…久しぶりに見た。いつもくだらない恋愛や夜のアレの話ばっかしていた癖に…。
大層な異名をつけられたものだなと、フッと笑った。
「一番ショックだったのは、そう…女性としての尊厳を踏みにじられたことです!」
え?そんなことしたっけ…?と、いろいろ思い返してみたけど、それらしい記憶はなかった。
「宿で同じ部屋になったとき、メルノアさんの裸を見て『素敵で羨ましい』って褒めたのに…!『アンタは貧相だね』ってバカにされたんです!褐色の肌に綺麗な銀髪…グラマラスでちょっと可愛いからって、ひどすぎます!」
イザベラは、目に涙を浮かべながら声を震わせた。
「最低だ…」
「このご時世にそんなことを言うなんて…」
「オ…オレはイザベラちゃんの方が素敵だと思うぜ!」と、男性陣が次々にほざき始める。
もちろん、侮辱した覚えなど一切ない。本当のところは、筋肉量が少なくて貧相だと言い、少しは鍛えたほうがいいんじゃないかと助言したのだが――どうやらそれが、イザベラの被害妄想に火をつけたらしい。まったく…余計なこと言うんじゃなかった。
「次はオレだぁ!メルノアァ!お前には言いてぇことが山ほどあるぜ!」
オーグが大きな骨付き肉を喰らいながら、叫んだ。うるさ…。
「『大喰らいの豚』と呼ばれたオレが…その…食い切れねぇぐらい?あれ?……山ほどあるぜぇ!」
バカなんだから異名に絡めて上手く言おうとするな。てか、大喰らいの豚って…蔑称でしょそれ。
「オーグ…一つだけだ」
グウェンが呆れながら注意する。
「おおそうだった!オレが一番許せねぇのはなぁ!いくら言ってもお前が技名を叫ばなかったことだ!『死神の針』…全員で夜通し考えてやったんだぞ!?一回もちゃんと言わなかったよな!そのせいで、まったく連携がとれなかったんだ!」
ただの刺突攻撃に誰が言うかそんな技名。そもそも、敵の不意をつくのに叫ぶバカがいるか。てかアンタは、技名つけすぎなんだよ。盾構えるだけで、『永遠の守護者の壁!!』とか言ってたし。正直、バカだなぁと思ってた。
「各々言いたいことは言ったようだね。どう?メルノア。少しは自分の処遇に納得したんじゃないか?」
トレイがほくそ笑みながらエールを飲んだ。
むしろ、納得できるところを探すほうが大変だわ。ひとつとして、ロクな理由がなかった。まぁ…もうどうでもいいけど。
「……もう喋っていい?」
「悪いけどあと少しだけ待ってくれ。最後に僕から言わせてもらう」
トレイが笑顔で私に語りかけてくる。
おいおい…まだやるの?どうせくだらない理由でしょ。退屈さを紛らわすため、コーヒーに手を伸ばす。
「追放する理由…それは、君に穢らわしい魔族の血が流れている魔人だからだよ…メルノア」
その言葉を聞いた瞬間———飲んでいたコーヒーを床に落とした。陶器のコップが割れ、どす黒い液体が床に飛び散る。
「……は?」
怒りのあまり、全身の血が沸々と沸き立っていくのを感じた。