◆ 第六章 後宮の闇を解く(15)
李空は既に先日の鬼火の事件に絡み、解決できる事件を解決できないと虚偽の証言をした罪に問われている。この事件まで明るみに出れば、処刑は免れないだろう。
「さすがは天嶮学士の娘だ。見事だな」
天佑改め、栄祐は観念したように、笑う。
「兄はある日、家で苦しみ出して死んだ。そしてその日、俺と兄で口にしたものが違ったのは、職場で食べた茶菓子だけだった。……俺を軽蔑したか?」
「いいえ」
玲燕は首を横に振る。
「結局、私達は似た者同士なのでしょう」
玲燕が孤独の中で父の無念を晴らそうと誓ったのと同様に、栄祐も孤独の中で兄の復讐を誓ったのだ。
「あなたに出会えたことを、心から感謝しておりますよ」
この言葉に、偽りはない。彼に会わなければ、今頃玲燕は家賃が払えぬまま家を追い出され、とうに死んでいたかもしれない。
玲燕の言葉に、栄祐の目元がふっと和らいだような気がした。
「甘様。そろそろ、陛下のところに行かなければならない時間では?」
部屋の外にいた鈴々が、トントンと扉をノックして時間を知らせる。
「ああ、ありがとう。下がっていていいよ」
栄祐は扉の向こうに向かって礼を言う。扉の向こうで、人が遠ざかる気配がした。
「もしかして、鈴々は天佑様が栄祐様だと知っていたのですか?」
「鈴々は元々、特別な防護術の訓練を積んだ潤王付きの女官だ。……兄の婚約者だった」
「ああ、それで……」
鈴々はいつも、栄祐のことを〝天佑様〟とは呼ばず〝甘様〟と呼んでいた。きっと、弟とはいえ彼女の中で他の男を愛した男の名で呼ぶことは憚られたのだろう。
「さあ、行こうか」
すっくと立ち上がった、栄祐がこちらに手を差し出す。
玲燕が手を重ねると、力強く引かれた。
◇ ◇ ◇
栄祐に連れられて潤王のところに行くと、彼はちょうど執務の最中だった。玲燕に気付き筆を止めると、柔らかな笑みを浮かべる。
「菊妃よ、今回も見事であった」
「ありがたきお言葉にございます」
玲燕は深々と、頭を下げる。
「褒美に、何がほしい?」
「褒美?」
「ああ。望むものを言ってみろ」
潤王が玲燕を見つめる。
(望むもの……)
お金以外の褒美をもらえるとは思っていなかったので、何も考えていなかった。
けれど、玲燕の頭に浮かんだことはたったひとつだけだった。
(何を望んでもいいのかしら?)
答えに迷って視線をさまよわせると、同席にいる栄祐と目が合った。栄祐は、何も言わずに少し頷いて見せた。きっと、望むものを言っていいのだと後押ししてくれているのだろう。
「本当に、なんでもよろしいでしょうか?」
「まずは言ってみろ。それから考える」
「そうですか。それでは──」
玲燕は潤王を見上げると、ゆっくりと言葉を紡いだ。




