◆ 第六章 後宮の闇を解く(13)
「非常に面白い推理だが、お前が言っていることは全て推測の域を出ない。何を以て、そのようなことを言っているのか」
黄連泊は話にならないと言いたげに、手を振る。
「証人ならおります。輪軸の工事をした者を少し脅したら、黄様より氷を持たされたことをあっさりと白状いたしました。それに、昨晩翠蘭のところに確認に行っていただきました。『陛下の酒が減っているようだ』と黄様から言われたと証言しています。あとは……梅妃様の診察をした医師の証言も必要ですか?」
昨日事件の真相を見抜いた玲燕は、天佑に頼んで一通りの証言取りをした。その結果は全て、玲燕の推理を裏付けるものだった。
「なっ!」
冷ややかな表情のまま玲燕が聞き返すと、黄連泊は怯んだように目を見開く。
「これらの事件全てを、光琳学士院の李空様に相談してどうすればよいか考えたのではないですか? だから、鬼火の事件の際に光琳学士院は解決できる事件に対し『解決できない』と言った。これが、私の推理です」
「…………」
黄連泊は目を見開いたまま、絶句する。
「黄。そなたの負けだ」
玲燕と黄連泊の様子を眺めていた潤王は、片手を上げる。
「捕らえよ」
潤王の命令で、黄連泊が衛士達に取り押さえられる。黄連泊は潤王を見上げ、観念したように肩を落とす。
両脇を抱えられて連行されながら、ふと玲燕に目を向けた黄連泊は悔しげに口元をゆがめる。
「私にとっての一番の想定外は、お前のような女が妃に迎えられたことだ」
それは聞き取れるか聞き取れないかのぎりぎりの声だった。
半ば引きずられるように歩くその後ろ姿を、玲燕はいつまでも見つめた。
◇ ◇ ◇
昨日は怒濤の一日だった。
様々な状況証拠や証言が出て言い逃れができないと観念した黄連泊に対し、李空は黙秘をしているという。
「待たせたな。細々とした雑務に追われていた」
昼頃、そう言いながら菊花殿に入ってきたのは玲燕の待ち人である天佑その人だった。今日、玲燕は潤王と謁見することになっているのだ。
昨日とは打って変わり、天佑は袍服を着て幞頭を被った宦官の姿をしている。
「朝来るつもりだったのだが遅くなって悪かったな。昨日、色々あって疲れているだろう? よく眠れたか?」
玲燕は無言で首を横に振る。
事実、昨晩もその前日も、気持ちが昂ぶっていたせいかほとんど寝ていない。けれど、まだ興奮が続いているのかさほど眠気はなかった。
「睡眠不足は万病の元だ。きちんと寝ろよ」
天佑は肩を竦める。
「気になることがあり、確認するまでは眠れそうにありません」
「気になること? どんな?」
天佑は玲燕の向かいに座ると、興味深げにこちらを見る。
「天佑様のことです」
「俺?」
天佑は怪訝な顔をする。
玲燕はぎゅっと両手を握り、息を吸った。
「それとも、〝栄祐様〟と呼んだ方がよろしいでしょうか?」