◆ 第四章 真相(11)
「はい。まずはこれをご覧下さい。まだ日がある故、見にくいかもしれませんが──」
玲燕は懐からあらかじめ用意していた棒を取り出す。鬼火が見られた場所で見つかった棒と同じ細工をしたものだ。玲燕は、それに火を付ける。
「なんと、鬼火だ!」
観覧席にいた誰かが叫ぶ。
ぼわっと音を立てて燃えたそれは、緑色の光を放っていた。
周囲の人々が「どういうことだ」と騒ぎ出す。
「こちらは、ごく簡単な自然の原理を利用したものです。皇帝陛下を陥れようとしていた人間が、鬼火による騒ぎ、即ち天帝の怒りであると見せかけて、陛下の地盤にひびを入れようとしたのです」
「なんと恐ろしい。一体誰がそのようなことをしたのかはわかっているのか?」
高宗平が険しい顔つきで、玲燕を問い詰める。
「反皇帝派の代表格であられます、劉様です。陛下が退けば、劉様の孫であらせられる皇子が皇位を継承されますから」
「劉殿が! 信じられない。なんということだ」
高宗平は両腕を大きく広げ、大げさなほどに失望を露わにする。
玲燕はその様子をじっと見守ると、おもむろに目を閉じ深呼吸する。
そして、まっすぐに目の前の人を見据えた。
「話はまだここで終わりではございません」
「何? どういうことだ?」
高宗平が怪訝な顔をする。
「犯人はもう一人います。……それは高様、あなた様です」
「なっ!」
高宗平は大きく目を見開いた。
「あなた様は頻繁に摩訶不思議な色をした火の玉を出没させることにより、あたかも鬼火であるかのように見せかけた。本当の鬼火であれば大規模な祈祷を行うことになるのは自然の流れ。そして、もしも祈祷後にあやかし騒ぎが幾分か収まれば、あなた様は名声を得て、より一層の権力を得ることになります」
「なんと無礼な! なんの証拠があってそのようなことを!」
怒りに唇を震わせる高宗平は玲燕に飛びかかろうとする。右手が振り上げられるのを見て、玲燕はぎゅっと目を閉じた。
(……あれ?)
来ると思っていた衝撃が来ないので、玲燕は恐る恐る目を開ける。
目の前には、天佑が立っていた。高宗平との間に、玲燕を守るように立ち塞がり、まっすぐに高宗平を見据えている。
「菊妃様に手を挙げられるとは、言語道断です」
「ちっ!」
高宗平は手を引き、一歩下がる。天佑は高宗平を見つめた。
「証拠ならあります。ここ二ヶ月ほど、高家と郭家は頻繁に交流されていますね?」
「郭家と我が家は親戚関係にある。何もおかしくはないだろう。それとも、吏部は官吏の人事だけでなく、親戚付き合いにまで口出しされるおつもりか」
高宗平は不機嫌さを露わにする。
「ええ、仰るとおり、郭家と高家は親戚関係にあって親しくしていても不思議はありません。ただ、郭家の親しくしている錬金術師が奇妙な物を作っていることがわかりましてね。これです」
天佑の合図に合わせ、鈴々が天佑に何かを手渡す。
その瞬間、高宗平の顔がさっと青ざめた。
「これが何かは、高殿はよくご存じでしょう?」
「なんだあれは? 黒い凧か?」
答えられない高宗平の代わりに、周囲が騒めく。
「高様もご存じの通り、州刺史であられる郭家は凧揚げの技術に長けており、直近の凧揚げ大会で優勝したほどの腕前です。鬼火は、先ほど菊妃が見せた炎を黒い凧で上空に飛ばしたものだったのです。そして、一度だけ後宮内で目撃された鬼火は郭家ゆかりの宦官が行ったこと。拘束した郭家の錬金術師は、高家から依頼されたと自白しております」
高宗平の目がより一層見開き、握りしめていた手がだらりと下がる。その様子を高い位置から見つめていた潤王が片手を上げた。
「菊妃、さすがは天嶮学を学んだだけあるな。見事な推理だ」
潤王は玲燕にねぎらいの言葉をかけ、横で呆然とする高宗平に視線を移す。
「あの者を捕らえよ」
その言葉を合図に、周囲にいた武官が一斉に高宗平を取り囲んだ。




