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◆ 第四章 真相(9)


「最後は玲燕ではなかったか?」

「はい、そうです」


 天佑は頷く。


「冗談かと思えば、本当に自分が出場するとはな。つくづく面白い奴だ。皆、おかしな女官が紛れ込んでいると思い込んでいる」


 潤王は肩を揺らしくくっと笑う。


(本当に大丈夫なのだろうな?)


 天佑は中庭の端で準備をしている玲燕を見つめた。

 玲燕は今日、自ら手を挙げてここに参戦している。本人は大丈夫だと言うが、屈強な男達に交じったその姿は子供のようにすら見えた。


「ところで、先ほどからあいつは何をしているんだ?」

「わかりません」


 潤王に尋ねられ、天佑は首を横に振る。


 玲燕のすぐ横には、紐が繋がった大きな盥と、鉄の骨組みに歯車がいくつも組み合わさった奇妙な滑車付きの構造物が置かれていた。井戸の滑車に似ているが、少し違うように見える。

玲燕はそのバケツの大きい方に、黙々と重りを積んでいた。重いのか、基準となる十斤の重りひとつでふらふらしている始末だ。


「手伝って参ります」


 見かねた天佑はすっくと立ち上がると玲燕の元に駆け寄る。玲燕は天佑に気付くと、薄らと額に滲んだ汗を拭ってにこりと微笑んだ。


「これは天佑様。いいところにいらっしゃいました。重りを載せるのを手伝って下さい。ひとりでは骨が折れる」


 そう言いながら、玲燕はまたひとつ重りを持ち上げ、バケツの中に置いた。


「ここ数日、菊花殿に籠もって何かを作っていたのはこれか?」

「はい、そうです。材料を集めてくださりありがとうございます」


 玲燕は朗らかに微笑む。


 この力試し大会の出場に際していくつかの必要な材料を玲燕から告げられた。それは、滑車や歯車や棒など、おおよそ何に使うのか予想の付かないものばかりだった。


「何斤載せる?」

「そうですね……。百五十斤ほど」

「百五十斤だと!?」


 これまでの最高記録が百三十斤なので、玲燕の要求した重さはそれを遙かに上回る。驚く天佑に対し、玲燕は落ち着いた様子でまた重りを持ち上げる。天佑は慌ててそれを取り上げてバケツに入れてやった。


「これで百五十斤でしょうか。では、この重りを私が三尺持ち上げて十秒数えて見せます。計測係、今の位置を記録してください」


 玲燕は計測係に測量を促す。バケツは地面に置かれているので、記録は〝ゼロ〟だ。


「それでは持ち上げます」


 玲燕はそう言うと、紐を持ち上げるのではなく、滑車のひとつに付いた持ち手を下に引いた。ゆっくりと動き始めた歯車が回り、バケツに付けられた紐は上に引かれる。

 ゆっくりと、しかし確実に、バケツは持ち上がった。


「輪軸か。考えたな」


 天佑は呟く。玲燕が持ち込んだこの装置は、井戸の水汲みなどで使われる手法だ。直径の違う歯車を組み合わせることによって、小さな力で大きな力を生み出すことができる。


「持ち上がりました。もう三尺は上がったでしょう?」


 玲燕は横にいる計測係に問いかける。


「は、はいっ」

「では数えましょう。一、二、三……」


 あまりの予想外の行動に唖然とする一同を尻目に、玲燕はゆっくりと十数える。


「……十。百五十斤を持ち上げました」


 玲燕がすまし顔で言ったその瞬間、大きな声がした。


 ──異議あり!



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