◆ 第四章 真相(8)
その日、皇城の中庭の周りには潤王主宰の力試し大会を見学しようと多くの人々で賑わっていた。
中庭が見渡せる高い位置には潤王の席が用意されており、その周りには既にぐるりと臣下達が座っていた。更に、左右の物見席には本日特別に後宮を出ることを許された妃達が並び、華やかさを添えていた。
「すごい人達ね」
玲燕は、集まった人々を見回す。そのとき、どんと背中を押されて前によろめいた。
「痛ったぁ」
「おい。どうしてこんなところに女官がいる。用意が終わったならさっさと出て行け」
玲燕にぶつかった武官と思しき大男は、不機嫌そうに眉を寄せて顎をしゃくる。
「いえ。私もこの力比べに参戦しますので」
玲燕は首を横に振る。
すると、大男は目をまん丸に見開き、次いで大きな声で笑い出した。
「お前が? これはとんだ挑戦者だ。おい、お前、どこの家の者だ?」
「甘家でございます」
「甘か。どうりで。主も女のような顔をしてひょろひょろしている」
周りにいた男達から、どっと笑いが漏れる。
その嘲笑に満ちた言い方に、玲燕はムッとした。
今日はそれぞれの家を代表する力自慢達ばかりが集められただけあり、どこを見ても屈強な男達ばかりだ。そんな中に玲燕が混じっているのは確かに異様に見えるだろうし、ひょろひょろしているのも否定しない。だって、女だし。
けれど、それと天佑のことは全く関係がない話だ。それなのに、この男は玲燕を通して天佑のことを馬鹿にしていた。
「それでは、甘家の女官ごときに負けぬようせいぜい頑張ってくださいませ」
玲燕は涼やかな目で大男を見返す。
「なんだと? 貴様、俺を高家に仕える浩宇と知っての発言か!」
挑発されていることに気付いた大男が激高したように叫ぶ。
「知りません。興味もございませんので」
事実、そんな男の名は天佑から渡された有力貴族のリストにはなかった。つまり、この男は玲燕の知らない男だ。
「貴様!」
顔を赤くした大男が玲燕に掴みかかろうとしたそのとき、ドーンと銅鑼が鳴る。潤王が現れたのだ。その場にいた者達が、一斉に頭を下げる。玲燕もそれに倣い、頭を下げた。
「それでは、これより勝負を始める。ルールはひとつだけ、一番重い重りを床から三尺以上持ち上げ、十数えることができた者が優勝だ」
潤王の横に立つ官吏の説明に、周囲から雄叫びが上がった。
「秀家、百斤」
「円家、九十斤」
測定結果を記録する官吏が大きな声で記録を叫ぶたび、大きな歓声が上がる。
天佑もその様子を、潤王のすぐそばで見守っていた。
「黄家と高家が同率一位か。この記録を破るのは難しいかもな」
潤王は斜め後ろに控える天佑に話しかける。
「はい。次点とかなりの差があります」
天佑は頷く。現時点のトップは黄家と高家で、共に百三十斤だ。その次が秀家の百斤となっている。