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◆ 第一章 失われた錬金術(4)


「俺はちょうどここに依頼に来た客人だ。それより、何事だ?」

「客人? ここに? あんたも酔狂だね。天嶮学はまやかしだって言うのは既に有名な話なのに」


 中年の女性がそう言った直後、「まやかしじゃない!」と天佑の背後から大きな声がした。同時に、がらくたが崩れ落ちる大きなガシャンという音も。

 それで、先ほど天佑が来た際も玲燕は借金取りが来たと思い隠れていたのだなと合点する。


「ああ、いた! 玲燕、今日こそ耳そろえて払ってもらうよ! 払えないなら出て行きな!」


 中年女性は玲燕の姿を認め、声を張り上げる。


「天嶮学はまやかしじゃない。訂正して!」


 玲燕は女性のほうを睨み付ける。


「そんなことより家賃だよ! 何カ月溜める気だい」

「……っ! すぐに払う!」

「言っておくけどね、あんた先月も同じこと言っていたからね」


 天佑は向かい合う玲燕と中年の女性の前に片手を出し、それを制止した。天佑は中年の女性を見る。


「家賃滞納か。滞納金は金はいかほどだ?」

「三十銅貨だよ」

「三十銅貨ね」


 一般的な農民の月収に相当する額だ。このボロボロの家の賃料がそんなにかかるとは思えないから、相当長い期間、支払いが滞っているのだろう。


「俺が払おう」


 天佑は右手を懐に入れると、財布を出す。そこから銀貨三枚を取り出し、女性に差し出した。

 一方の女性は天佑から銀貨を受け取ると目をまん丸にした。銀貨を摘まみ、上にかざして眺める。


「こ、こんなにいいのかい? 三十銅貨より随分多いけど」

「ああ、構わない。その代わり、この先一年間ほどこの家を借りたい。余った額は利子として取っておいてくれ。それでいいか?」


 銀貨一枚は百銅貨に相当する。つまり、天佑が手渡したのは滞納金の十倍に相当する額で、この女性が驚くのも無理はなかった。


「もちろんだよ! こんなボロ屋でよければ一年間自由に使っておくれ。ありがとうね!」


 中年女性は朗らかな笑みを浮かべると、手を振って上機嫌で去って行った。

 その後ろ姿を見送ってから、天佑は改めて少年──玲燕を見る。

 玲燕は礼を言うどころか、天佑を睨み付けてきた。


「余計なことをするな。すぐに自分で払おうと思っていた」

「へえ、どうやって? 見たところ、依頼客もいないように見えるが」


 玲燕はぐっと押し黙るが、まっすぐに天佑を睨み据える視線を外そうとはしない。


(だいぶ肝が据わった少年だな)


 相手が都の、しかも高位の官吏だとわかっていながらまっすぐに睨み付けてくるこの度胸はなかなかのものだ。


「今のは依頼料の前払いだ。俺の依頼を受けて解決すれば、成功報酬として残りも支払おう」

「前払い?」


 玲燕は怪訝な顔で天佑を見返す。


「ああ。なんなら、手付金として、先ほどの家賃とは別に今すぐに報酬の一部を支払ってもいい」


 天佑は懐に手を入れて小さな布袋を取り出すと、その布袋をそのまま玲燕に差し出した。玲燕は訝しげな顔をしつつもそれを受け取り、中を覗く。そして、驚いたように目を見開いた。


「こ、こんなにいいのか?」

「それはほんの一部だ。もし事件を解決してくれたなら、その百倍の報酬を支払おう」

「ひゃ、ひゃくばい!」


 狼狽えたような顔をした玲燕は、しっかりとその布袋を握りしめたまま何やら思案し始めた。「これだけあったら学舎を作って人を雇っても三十年は暮らせるな。教科書を作って、全員に無償配布しても──」などとブツブツを呟いている。


「どうだい? やらないか?」

「……やる」


 そうこなくては、と天佑はニッと口角を上げた。


「では、交渉成立だな。ところで、きみの名前は、玲燕でいいのかな?」

「そうだ」

「そうか、玲燕。これからよろしく。さっそくひとつ、私の相談に乗ってくれないか」


 そう言うと、天佑は都で起こったことを話し始めた。


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新刊発売情報
「偽りの錬金術妃は後宮の闇を解く」
2023年7月5日 一二三文庫様より発売です!

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