◆ 第四章 真相(6)
「ああ、それなら、既に調べた。これだろう?」
天佑は執務机の中から書類を取り出し、玲燕に差し出す。そこには、冶金産業に関わっている有力貴族の家門一覧と、懇意にしている錬金術師の情報が載っていた。蘭妃と梅妃の実家である連家と黄家もあった。
玲燕はそれを見て、眉を寄せる。
「情報はしっかりと共有してくださらないと困ります。私がなんのためにこのように身分を偽り、妃としてここに潜入していると思っているのですか」
玲燕の責めるような口調に、天佑は肩を竦める。
「そう怒るな。先ほども言ったとおり、今日か明日あたりに玲燕を訪ねて相談するつもりだったんだ。ただ、どうにも解せない点があってね」
「解せないこととは?」
「以前より、玲燕とは色々と錬金術師あるいはそれに類する者が事件に関与している可能性について話していただろう? だから、これらの情報を調べた。この中で反皇帝派の者を洗えば、犯人に繋がると思ったのだ」
「繋がらなかったのですか?」
玲燕は聞き返す。
「怪しい者に目星を付けて、内々に更なる調査をした。ひとり、これは、という者が浮上したのだが……、残念ながら日が合わないのだ」
「日が合わないとは?」
「つまりだな──」
天佑は自身の頭の中を整理するように、ゆっくりと説明を始めた。
「調査の結果いくつかの家門が浮上した。例えば、黄家、郭家、高家などだ」
「黄家?」
「ああ、黄家は知っての通り、梅妃様のご実家だ。娘が陛下の妃であられるので動機はないように思えるが、現在光麗国で最も有力な錬金術師を囲っているのが黄家だ」
「その錬金術師はどのようなお方なのですか?」
玲燕は興味を持って尋ねる。
「李空という男で、齢は五十歳近い。光琳学士院で最も権威ある錬金術師で、黄家と縁が強い。実は、鬼火の事件が発生したとき真っ先に光琳学士院に調査を依頼したのだが、李殿が率いる調査の結果、原因不明だと回答があった」
「光琳学士院に……」
光琳学士院は光麗国において知識の府とされる機関で、玲燕の父である最後の天嶮学士──秀燕が勤めていた場所でもある。
初めて会ったとき、天佑は玲燕に『都の錬金術師では手に負えないことがあった』と言った。その都の錬金術師というのが光琳学士院に所属する錬金術師達なのだと玲燕は理解した。
「話は戻るが、黄家について怪しい動きがないかかなり調べたが、現在のところ鬼火に結びつく動きはない」
「なるほど」
玲燕は腕を組む。
「次に怪しいのが、南の地域を治める名門貴族──劉家だ」
「劉家……」
玲燕はこれまで頭に入れた各貴族の家系図を思い返す。
劉家は娘を先帝に嫁がせており、子供がひとりいる。しかし、潤王の腹違いの弟に当たるその子はまだ十歳にもなっておらず、皇帝の座は潤王のものになった。玲燕が最も直接会ってみたいと思っていた人物のひとりだが、残念ながら今に至るまで会えていない。