◆ 第四章 真相(5)
玲燕は初めて官吏の姿に変装して後宮を抜け出して以降、度々変装しては天佑の部下として有力貴族達に接触を試みた。ただ、一介の官吏では交わせる会話に限界があり、多くの人と会うことは困難だったのは事実だ。
「ああ、そうだ。これが手っ取り早い。大会の日は玲燕を含めた五人の妃も特別に鑑賞を許す予定だ。臣下達の人間関係を知るよい機会だろう?」
「まあ、それはそうでございますが」
玲燕はふてくされながらも、前傾にしていた体を起こす。
天佑の言うとおり、期せずして後宮の妃のひとりから呼び出されて、自然に顔つなぎをすることができた。それに、このような勝負事では普段の人間関係が自ずと現れる。
「それで、蘭妃には何か助言してやったのか?」
「私がその勝負に参戦すると申し上げました」
「は?」
その回答は天佑にとって予想外だったようだ。
先ほどまでの涼しい顔が一転して、目を丸くしている。
その反応を見て、玲燕は溜飲が下がるのを感じた。秘密裏に力試し大会などを企画して玲燕を驚かした意趣返しだ。
玲燕はずいっとお触れの紙を天佑の顔に突きつける。
「このお触れを見る限り、道具の使用は禁止されていないのでしょう? 私でも優勝できるチャンスはあります」
天佑は玲燕から紙を奪い取り、紙面を視線で追う。
「確かに道具については書かれていないな。だが、皆禁止だと思っていると思うぞ」
「でも、明記されておりません。告知されていない限り、そのような決まりはないはずです」
「いかにも、そうだがね。まさか、巨大なテコでも使うつもりか?」
天佑は興味深げに聞き返す。口元に笑みを浮かべており、この展開を面白がっているようにも見える。
「巨大なテコは原理上投石装置と同じですから、操作を誤ったときに周囲に被害を出してしまいますし、そもそも大きすぎます。ここは、バケツを使おうかと」
「バケツ? 塩水に沈めて浮力で持ち上げるか?」
「さすがは天佑様。すぐにその方法が思いつく方はそうそうおられません。ただ、その方法ですと、持ち上げられる重さに限度がありますし、服が濡れると風邪を引いてしまいますので違います」
「ではどうやって?」
「秘密でございます」
ふいっとそっぽを向かれ、天佑は目を瞬かせる。
「そう怒るな。多くの関係者を一気に集めるには、これが一番自然な流れだったのだ」
「それはわかっております」
天佑は苦笑する。ぶっきらぼうに言い放つ玲燕は、結局天佑にどういう道具を使うのかを教える気はなさそうだ。
「ところで、天佑様。今日、蘭妃様から興味深い話を聞きました。蘭妃様のご実家の蓮家と、梅妃様のご実家の黄家は共に冶金産業に出資しているようです。冶金に関わっていれば、懇意にしている錬金術師がいるはずです。今回の鬼火に使われた方法も知っていたかもしれません」