◆ 第四章 真相(4)
「菊妃様が? 甘家が出場するってこと?」
蘭妃は目を丸くして興味深げに身を乗り出した。
後宮入りにあたり、玲燕は表向きは『天佑にゆかりの者』ということになっている。なので、蘭妃は玲燕の『私が参戦しましょう』という言葉を『甘家の参加』と考えたのだろう。
「ええ、そうです。ところで、勝負の内容は『誰が一番重い重りを持ち上げられるか』で間違いないですね?」
玲燕は蘭妃に念押しする。
「そうよ」
蘭妃は玲燕に見せるように、もう一度先ほどの案内を差し出す。
「かしこまりました。では、黄家の優勝阻止はお任せ下さい。このお触れは少しの間お借りしても?」
「構わないわ」
蘭妃は頷く。
玲燕はお触れの紙を蘭妃から受け取ると、それを懐にしまった。
「蘭妃様はよく金と鍍金の違いをご存じでしたね。蘭妃様のご実家は、冶金産業に関わっているのですか?」
近年、冶金産業に力を入れる貴族がその収益から巨額の富を得ているのは有名な話だ。蘭妃の実家である連家が出資していたとしてもおかしくはない。
「ええ、そうよ。あとは、梅妃様のところも」
蘭妃は梅妃とのやりとりを思い出したのか、嫌そうに顔を顰める。
「そうですか。ありがとうございます」
玲燕は頷く。
(……大きな収穫ね)
冶金産業に関わっているならば、錬金術師と懇意にしている可能性が高い。鬼火を偽装するために使われた方法も知っていたかもしれない。
「ところで蘭妃様。先ほど梅妃様が体調を崩されていると仰っていましたが、そうなのですか?」
「知らないけど、最近梅園殿に頻繁に医官が出入りしているのを目撃したって侍女達が言っていたわ」
蘭妃は両手を挙げ、肩を竦めて見せる。
「へえ……」
梅妃の体調については、天佑からは何も聞いていない。
(季節の変わり目の風邪かしら?)
段々と深まる秋は、間もなく冬へと変わる。朝晩は特に冷えるようになってきたので、風邪を引いたとしても不思議はない。
◇ ◇ ◇
地方で働く官吏達の異動をどうするかについての書類を確認していると、執務机をバシンと叩く音がした。
「天佑様! どういうことでございますか」
そこには、両手を執務机について頬を上気させる玲燕がいた。官吏姿に男装しており、片手には何かが書かれた紙を握りしめている。
「玲燕か。ちょうど今日か明日辺り会いに行こうと思っていたからちょうどよかった。随分と後宮を抜け出すのが上手くなったな?」
玲燕が着ている服は、以前天佑が渡したものだ。自分で着替え、秘密通路を通って抜け出してきたのだろう。
「そんなことより、どういうことです!」
玲燕は先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「どういうことって、何が?」
「何が、ではございません。本日、蘭妃様に呼ばれました。天佑様は理由を知っておりますね?」
「ああ。それ」
天佑は口の端を上げる。
「まあまあ、そう怒るな。目論見通り、怪しき人間に一気に会えるぞ」
「そのために、こんな勝負事を持ちかけたのですか?」
玲燕は息をつく。