◆ 第四章 真相(3)
玲燕は首を傾げる。
「だってあの人、何かと嫌みを言ってきて嫌いだわ。先日も、池に浮かべて遊ぼうと船を取り寄せた際だって、『蘭妃様のところはこぢんまりとした、可愛らしいものをお好みなのですね』ですって。絶対に喧嘩を売っているわ。あの人、本当に体調が悪いのかしら? いつ顔を合わせても、ピンピンしているように見えるけど」
蘭妃は顔をしかめる。
「はあ」
玲燕としては苦笑するほかない。
どうやら、以前に蓮妃から話を聞いていたとおり、梅妃と蘭妃は仲がよくないようだ。これが〝女の戦い〟というものなのかもしれない。
「それで、勝負とは?」
「先日皇城で行われた宴会で、参加した臣下のひとりが『私の雇っている衛士は百斤の重りを頭の位置まで持ってくることができる』と言いだしたの。そうしたら次々に他の者達も力自慢をし始めて、最後は天佑様が陛下に耳打ちして『それならば、どの家が一番重い重りを持ち上げられるか勝負しようか』と。それで、今度力比べの勝負が行われることになっているのよ。それに梅妃様のご実家の黄家が参加するらしいから、我が連家も参加しないわけにはいかないわ。ただ、黄家の当主は刑部尚書であられる黄連伯様よ。部下も力自慢が揃っていて、このままでは優勝する可能性が高いわ。このままでは終わった後にまた『蘭妃様のところはあのようなもので護衛が済むなんて、随分と平和な場所にお住まいなのですね』って言われてしまうわ」
蘭妃は梅妃のものまねをするように、扇を口元に当てて嫌みを言う。その後、悔しげに口元を歪ませると、持っていたお触れの紙を取り出した。
「これよ! 見て!」
玲燕はそのお触れの紙を見る。そこにはたしかに、『最も重い重りを持ち上げた者を推した家門には褒美をつかわす』と書かれていた。
玲燕は遠い目をする。
(あのふたり、何考えているの!)
酒の席での戯言だ。
勝負するにしても、ただの武官同士の個人的な勝負にすればいいものを。家を巻き込んだ勝負などにすれば、各家門が色めき立ってこうなるのは目に見えているのに。
そして、恐らく蘭妃が梅妃に勝ちたいと画策することを予想した上で、潤王は玲燕のことを蘭妃に吹き込んだのだろう。梅妃の実家である黄家の当主──黄連伯は現在、刑部尚書、すなわち警察のトップだ。蘭妃の言うとおり、力自慢の者も多いだろう。
半ば二人まとめて罵倒したい気持ちに駆られたが、玲燕は一切それを表に出さずににこりと微笑む。
「そうですか。蘭妃様のお望みは、梅妃様の生家であられる黄家の優勝阻止でよろしいですね?」
「ええ、そうよ。そのために、あなたに知恵を借りられないかと思って。私の実家は大明から距離があるから、領地一の力持ちを連れてくるのは時間的に無理なの。だから、二週間で我が家の大明の屋敷で雇っている衛士を強くしてほしいの」
玲燕は苦笑する。二カ月ならまだしも、二週間で持ち上げられる物の重さを飛躍的に伸ばすなど、不可能だ。
「残念ながら、それは無理です」
「……そう。あなたを以てしても無理なのね」
蘭妃はあからさまにがっかりしたような顔をする。
「しかし、その勝負には私が参戦しましょう」




