◆ 第四章 真相(2)
蘭妃の差し出した盆には四つ、髪に飾る装飾品が置かれていた。一見するとどれも金色に輝いており、本物の金に見える。
「触ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
蘭妃が頷いたので、玲燕は盆から髪飾りを一つひとつ、順番に手に取る。どれも細かな工芸が施こされており、かなり高価な品だろうと予想が付いた。
(見た目の色合いはどれも同じね)
一般的には金と鍍金を見比べると僅かに色合いが異なる。しかし、これらは見る限り、どれも同じに見えた。それだけ高い技術を持って鍍金されたということだ。
(削ればすぐわかるけど……)
鍍金はある金属の表面に金の被膜を張っているだけなので、少し削ればすぐにどれが鍍金わかる。しかし、蘭妃の持ち物に傷を付けるのはまずいだろう。
となると、次に考えられる鑑定方法は金属の比重を比較して誤差を鑑定する手法だ。
しかし、この方法の場合比重を算出するために体積を知る必要があり、体積を計るには水に沈める必要がある。もしも鍍金が上手くできていない部分があれば、そこから内部が錆びてしまいかねない。高価な品なので、それをするのは気が引けた。
(では──)
玲燕は懐を探り、常に持ち歩いている小箱を取り出す。
「それは何?」
蘭妃は興味深げに、玲燕の手元を見る。
「羅針盤です」
「羅針盤? 方角を計るのかしら?」
蘭妃は小首を傾げる。扇子で口元を隠しながらも、視線は羅針盤に定まっていた。
一方の玲燕もじっと羅針盤の指す方向に注目した。針が左右に回転し、やがて一方向を指す。
「わかりました」
玲燕は羅針盤から視線を上げ、蘭妃を見つめる。蘭妃は目を眇め、まっすぐに玲燕のことを見返してきた。
「鍍金の品ですが、こちらでございます」
玲燕は四つの中から、ひとつを指さす。
すると、蘭妃の少し釣り気味の目が大きく見開いた。
「あら、すごいわ。どうしてわかるの?」
「鍍金とは、別の金属の表面に金の薄膜を被膜させる技術です。金は磁石に反応しませんが、地の金属は恐らく鉄ではないかと思ったのです。試しに羅針盤を用いたところ、見事に反応いたしました。でも蘭妃様、あなた様は最初からどれが鍍金の品かをご存じでしたよね?」
玲燕の問いかけに、蘭妃はくすくすと笑い出した。
「あらばれた?」
蘭妃はペロリと舌を出す。
「試すようなまねをしてごめんなさい。陛下から、とても広い知識を持つ面白い錬金術妃だから、試してみるといいと聞いていたの。本当ね」
「さようでございますか」
玲燕はこめかみを指で押さえる。
あの皇帝は、相変わらず何を妃達に吹き込んでいるのか。
「今日呼んだのはね、今度の勝負でなんとか梅妃様の優勝を回避する方法はないかと知恵を借りたくて」