◆ 第三章 皇城(17)
「それで、残る鬼火の謎も解けたというのは?」
「はい。それでは、お見せしますね」
玲燕が手に持っていた物に、灯籠から火を移す。それは、いつぞやに見た鬼火と同じような色をしている。
「今からこの火を、空に飛ばします」
玲燕がそう言った次の瞬間、鬼火が空高く舞い上がった。そして、空の一カ所でゆらゆらと揺れる。
「これは一体?」
天佑は呆けたように、上空を見上げる。
「原理がわかれば、極めて単純なことでした。これは、黒い凧を使っているのです」
「黒い凧?」
「はい」
玲燕は頷く。
「ゆらゆらと揺れる鬼火は、流れるように移動する鬼火と同じく水辺で見られましたが、違うこともありました」
「違うこととは?」
「ゆらゆらと揺れる鬼火の際は、いつも簡単には鬼火の方向に近づけない構造の場所で見られていたのです。ほら、天佑様が連れて行ってくれた皇城の場所もそうだったではありませんか。つまり、ゆらゆらと揺れる鬼火の下にはいつも凧の操者がいたのです。そのため、近づかれると人がやっていると気付かれてしまうため、そのような場所にしていたのです」
玲燕からそう指摘され、天佑は鬼火を見た現場のことを思い出す。確かに、どの場所も近くに橋がなく、鬼火に近づけない構造をしていた。
「相変わらず、見事な謎解きだな」
「ありがとうございます」
天佑が感嘆の声を漏らし手を叩くと、玲燕は嬉しそうにはにかむ。
「天佑様と猫に驚かされたときに解決の糸口を得ました。凧を揚げたタイミングで鬼火の火が消えてしまわないように調整するのが手間取って、時間がかかってしまいました」
「それにしても見事だ。なにせ、皇都の錬金術師は皆お手上げだと言ったのだから」
天佑は重ねて玲燕を褒め称える。
「鬼火を起こしていた方法がわかったところで、残るは犯人捜しだな」
ようやくゆらゆらと揺れる鬼火の謎が解け、天佑は胸が高鳴るのを感じた。
この娘なら、本当に鬼火の謎を全て解決してくれるのではないか。そう思わずにはいられない。
「ただ、少し不思議なことがあって……。どうして犯人は、わざわざふたつの方法で鬼火を起こしたのでしょう?」
「特に意味はないだろう」
「そうでしょうか。なら、いいのですが」
玲燕は解せないと言いたげに、呟く。
先ほどまで吹いていた風がなくなり、凧が地面に落ちると同時に鬼火もかき消えた。