◆ 第三章 皇城(13)
◇ ◇ ◇
初めて潤王の夜伽に召された翌日のこと。玲燕は鈴々を連れて後宮内の散歩に行くことにした。
「どちらに行かれますか?」
鈴々が玲燕に尋ねる。
「たまにはいつもと違う庭園に行こうと思うの」
玲燕は笑顔で答える。よく晴れており、絶好の散歩日和だ。
菊花殿から歩いて十分。
普段は行くことがない後宮の反対側は、とても美しい場所だった。
「とても素敵な庭園ね」
ここ麗安城の後宮は、広い敷居に殿舎が点在する造りになっているが、敷地内には全部で六つの庭園がある。鈴々によると、それぞれが嗜好を凝らした造りになっていて、とても美しいのだとか。
玲燕は普段、菊花殿から一番近い庭園にしか訪れることがなかったので、少し離れたここに来るのは初めてだ。
(桃妃様は……いらっしゃらないか)
玲燕は素早く周囲を見回す。
この庭園は、桃林殿から近い。
昨日の潤王の反応に、桃妃はどんな人なのだろうと玲燕は興味を持った。そこで、桃妃がよくここを散歩していると聞いてここを訪れたのだが、残念ながらその姿はなかった。
(ま、いっか。散歩は気分転換になるし)
玲燕はぐっと両手を上げて伸びをする。
故郷の東明にいた頃は、日中は畑仕事もしていた。錬金術の仕事がほとんどなかったので、自分で食べるものを育てて自給自足していたのだ。東明を離れて以来運動不足が続いているので、散歩は気持ちがいい。
「ここの庭園は池があるのね」
低木がバランスよく植えられた庭園には、大きな池があった。池のすぐ近くには四阿があり、玲燕はそこに設えられていた長椅子に腰掛ける。
「木々の葉があんなに赤く」
鈴々が、池のすぐ近くに生えている木を指さす。
皇都である大明は東明よりも暖かい。ここに来たときはまだ葉は緑だったように思う。いつの間にか、秋は確実に深まっているようだ。
(東明の山も、鮮やかに色づいているかしら? 栗拾いをしたかったけど……)
故郷である東明は田舎なので、自然のままの山が沢山ある。秋が深まってくると山に入り、栗を拾ってくるのが玲燕の毎年の習慣だった。
煮立ったたっぷりのお湯でゆでると、とても美味しく食べられるのだ。
風が吹き、池の一角に設置された風見がくるくると回る。それに合わせるように、木の葉がひらひらと池に舞い落ちた。
葉は風で水面にできた波紋に合わせ、ゆっくりと遠ざかってゆく。
「玲燕様、どなたかがいらっしゃいました」
池をぼんやりと眺める玲燕に、鈴々が耳打ちする。
庭園の入り口を見ると、鈴々の言うとおり数人の女性が歩いてくるのが見えた。中央にいる女性は、紅色と向日葵色が鮮やかな襦裙に身を包んでいる。
「あれはどなた?」
玲燕は鈴々に小声で尋ねる。
「桃妃様でございます」
鈴々はすぐに返事をした。
(あれが桃妃様……)
潤王ははっきりと答えなかったけれど、玲燕の予想では潤王が最も寵愛している妃だ。
(綺麗なお方ね)




