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◆ 第一章 失われた錬金術(13)


「それなのですが──」


 玲燕は顎に手を当てる。


「私はその実物を見ていないのであくまでも推測なのですが、これまでの鬼火の目撃記録を確認する限り、ゆらゆらと揺れる鬼火はどこも遠目にしか目撃されておりません。これは即ち、近くで見られると都合が悪いからではないでしょうか?」

「と言うと?」


 天佑は玲燕に続きを促す。


「つまり、人が操作しているのです」

「人が操作か……。何にせよ、まずはこれまでの目撃現場から今朝見つけた棒と同じようなものがないかを調査しよう」

「はい、お願いします」


 玲燕はこくりと頷いた。



   ◇ ◇ ◇



 玲燕は夜空を見上げていた。月はいつの間にか新月を超え、上弦が少しずつ厚みを増している。天極の極星が今日も同じ位置に輝いているのが見えた。


 部屋の扉をトントントンとノックする音がした。


「どうぞ」


 声をかけると、扉が開かれ天佑が現れる。そろそろ来る頃だと思っていたと、玲燕は口の端を上げる。


「どうでしたか?」

「玲燕殿の言うとおりだ。同じような棒が、他の場所からもいくつか見つかった。なにぶん小さい上に場所も定かでないもので、部下に捜させるのに手間取った」


 天佑が折りたたまれた布を玲燕に差し出す。玲燕が無言でそれを受け取って開くと、中からは細い棒きれが出てきた。一部は端に焦げたような跡が残っている。


「これらの棒は全て、これまで火の玉の目撃情報のある場所から捜し出してきたものだ」

「では、私の推理が正しい可能性は極めて高いでしょう」


 玲燕はその包みを元通りに包み直すと、天佑に手渡す。


「少しはお役に立ちましたか?」


 なんでもないことのように尋ねてくる玲燕に、空恐ろしさを感じた。

 王都の錬金術師が何ヶ月も掛けて解決できなかった謎を、この少女はたった数日で、しかも自分ひとりの知識のみで解決したのだ。


「本当に見事だな。天嶮学とはかくも素晴らしいものとは……」

「天嶮学はあくまでも錬金術の一流派にすぎません。物事を見て、その真理を追究するのです」


 褒められて嬉しかったのか、あまり表情を見せない玲燕の口元に笑みが浮かぶ。


「鬼火の謎も明らかになったことですし、これで私の役目は終わりということでよろしいでしょうか?」


 玲燕は涼やかな眼差しで、天佑を見つめる。

 凜としていながらも少し幼さの残るその眼差しを見たとき、天佑はなぜか胸を打たれるような衝動を感じた。


(この娘を手放してはならない)


 本能的に感じたのは、多くの部下を束ね人を見る吏部侍郎という立場にいる直感かもしれない。天佑はすらすらと鬼火の謎を推理してゆく玲燕の姿に、半ばわくわくするような高揚感すら感じたのだ。


「まだだ」


 天佑は首を振る。


「できれば玲燕には、誰がこのようなことをしでかしたのか、犯人までみ見つけてほしい。それに、ゆらゆらと空で留まる鬼火の謎も。ああ、もちろん、ここで一旦、約束の謝礼は支払う」

「犯人は反皇帝派の貴族ではないのですか? ゆらゆらと空で留まる鬼火は、犯人を捕らえれば証言が得られましょう」


 玲燕は眉間に皺を寄せ、天佑を見返す。

 今回の鬼火騒動で、民は『皇帝にふさわしくない潤王が即位したことにより、天帝がお怒りになっている』と噂した。玲燕の言うとおり、現皇帝の在位を面白く思わない反皇帝派の仕業である可能性は極めて高い。


「そうは思うのだがね。なかなか特定が難しいのだよ」

「特定が難しい?」


 玲燕は訝しげに聞き返す。


「ああ。対象者がとても多い」



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