世紀の天才発明家ラ{おっとここから先のタイトルは有料だよ!}
暇だ。すっごく暇だ。何もないことに苛立ってくるレベルで暇だ。
人間、暇な時間ほどボーッと呆けている時間などないだろう。事実、俺は自室のベッドの上で腕を後頭部に組みながら寝転んでいる。壁についてる茶色いシミを見ながらじっと思考に耽っている。
今日は休日だというのに何もないなんて寂しいじゃないか。だがあいにく予定がないのだ。
こうなったら隣の家に住んでいるルーレットおじさんに頼むしかない。
こうして俺は隣の家に足を運び、おじさんを呼ぶことにした。
インターホンを押すと、時代劇のSEが流れた。インターホンの音を改造するのがおじさんの趣味なのらしい。
しばらくしているうちにおじさんが出てきた。
「ルー↑レット↓おじ↑さんです↑。な↑に↓か↑用ですか↑」
相変わらずおかしいイントネーションを口に出しながらおじさんが出てきた。
「今日すごく暇なんで、今からやることをルーレットで決めて欲しいんですよ」
「わか↓りま↑した↓。きょ↓う↑は↑『much betterルーレット』に↓しよう↑と↑思い↓ま↑す↓」
ゴクリ……と唾を飲んだ。今からあの伝説の「much betterルーレット」が始まろうとしていたのだ。それは知る人ぞ知る、一度見たら忘れられない究極のルーレット……。無知蒙昧の凡人が踏み入れられる領域ではないのだ。
ルーレットおじさんは、まずポケットから一つ持ちを取り出したかと思うと、右手で素早く餅を宙に投げ、左手からバターを召喚する。そして餅は重力に引っ張られ落下した。
さあ、いよいよだ。ここからが「much betterルーレット」のクライマックスだ。
餅はいずれ空気中のバイキンと運命の出会いをしたかと思えば、急にカビだした。それでもルーレットおじさんは餅を見つめ一抹たりとも目を逸らすまいと獣の眼差しを保っていた。
最後に餅はバターと接触。そのまま煌々と輝き出したかと思うと、ルーレットおじさんの口から一枚の紙が印刷された。
ピーッ ピーッ ピーッ 印刷中デス…… ピーッ ピーッ ピーッ 印刷ガ完了シマシタ。
「ルーレット結果:お前の家の開かずの扉を開けてみよう。」
俺が住んでいる自宅の1階、ケーキ屋の厨房の奥には、開かずの扉がある。しかし、残念ながらこの扉が開かれたことはここ数年間ないのだ。
しかし、そんな歴史に俺は終止符を打つ。やり方は簡単。その扉を開ければいいのだ。
試しに扉を押してみようとした。が、開かない。
次に扉を引いてみようとドアノブを探した。が、そもそもドアノブがない。
最後に合言葉を唱えてみた。が、著作権に引っ掛かってその言葉を言うことができない。
終わった。
もうこの扉は永遠に開かれないだろう。この扉の歴史に終止符を打つことは不可能だったんだ。
と、その時、ケーキ屋の方に1人のお客さんの姿が!その姿は紛れもなく俺のクラスメイトの姿だった。
「おう神田!ちょうど良かった!この扉を開けるの手伝ってくれ!」
「いや、僕スイーツを買いに来たんだが」
「この際に開けるの手伝ってくれたら割引してやるから!ほら、手伝えよ!」
「まったく、割引してくれるんならしょうがないなあ」
見事に仲間を1人ゲットすることに成功した。
ゲットした仲間と共に扉を開ける方法を模索したり、扉に思いっきりタックルして無理矢理開けようとしてみたりしたが、駄目だった。
「僕もうヘトヘトだよ。一応手伝ったんだしさ、そろそろ割引してくれてもいいんじゃないかな?」
「いや、もう少し手伝ってくれ」
「もう開ける方法ないだろ?これ以上手伝っても無駄だよ」
「増援すればなんとかなるかもしれないっす」
「マジかよ。これ以上誰かを手伝わせる気か?」
「当たり前じゃい。それほど俺はこの扉を開けて見たいっす。んじゃちょっくら待っててな」
「ラジャー」
ケーキ屋を出た俺は、即戦力になりそうな人を探した。
近所の公園で手当たり次第に声をかけていっているうちに、ベンチに座っている暇そうな2人組を見つけた。
「今暇ですか?」
急いでいたので手短に声をかけてみた。
「おっ哲郎やんか。見ての通り今暇やねん」
「俺も」
その2人組は俺のクラスメイトの野々宮と場釜だった。
関西弁を喋る鼈甲のメガネの方が野々宮で、「俺も」が口癖の童顔が場釜だ。
「今俺の家の扉が開かんから開けるの手伝ってくれないか?」
「ええでええで!全力で手伝ったるわ!」
「俺も……手伝ってやりますか」
「お前ら……ありがとな」
全面的に協力してくれる2人の姿を見て思わず目がウルウルしてしまった。目が痒くなるからヒノキ花粉は嫌いなんじゃボケ。
こうしてケーキ屋に戻ってきた俺は、たまたまケーキ屋に訪れていた相田を発見した。
手伝って欲しいことを彼に伝えると、彼は首を縦に振って簡単に承諾してくれた。
厨房の奥にある扉の元に向かうと、そこには奥に向かって開いた扉と扉の前で倒れ込んでいる神田の姿を発見した。
「うわーっ!神田はんが!」
俺はすぐに神田に呼びかけた。
「おいどうしたんだ神田!おい神田!」
「毒を飲ませた……犯人は……向こうに……」
神田はなぜかは分からないが瀕死だった。哲郎の名を呼ぶや否や、力を振り絞ってドアの奥に指をさした。
そしてそのまま、ガクッといった。
犯人は扉の向こうにいるらしい。一刻も早く捕まえなくては。
「お前ら早く行くぞ!神田に毒飲ました犯人を捕まえるぞ!」
「俺も行く!」
「僕モ……」
「大半が賛成ちゅーことで、うちも行きますがな」
「よーし!お前ら行くぞ!」
扉の先には地下へと向かう階段があった。天井には蛍光灯がついている。
俺たちは階段を急いで降りた。何者かが階段を駆け降りる音が響く。
しばらく階段を下っていった先には、今度は上り階段があった。
体力もまだ残ってるので余裕を持って階段を上っていく。
この先に犯人がいるのか……一体どんなやつなんだ……
俺は勢いに任せて扉を強く開いた。
「ハーイいらっしゃーいぃぃぃ。ようこそ世紀の天才発明家『ラビット・フロードゥ』の研究室によく来たねぇぇぇ」
そこにはいかにも研究室らしい研究室があった。紫色の液体が入ったフラスコ。煙突から煙が出てるよく分からんマシーン。人の人体が映し出されたモニター。部屋の壁に複数付いている扉。
俺たちから見て左に置いてある椅子に、世紀の天才発明家を自称する「ソイツ」は座っていた。
「ソイツ」は白衣を身にまとい、耳が長く、体がピンク色で、目が赤色でクリクリとしていた。
「……なんだこれ」
「それはこっちのセリフやで」
「俺も」
「俺、こんな奴が神田をあんな目に合わせたとは信じがたいんだが……」
「俺も信じがたいです」
「……ダッテ、アレハドウ見テモ『ウサギ』ダシネ……」
そう、神田をひどい目に合わせたはずの「ソイツ」はうさぎそのものであったのだ。
「神田ぁぁぁ?もしかしてさっき厨房への扉の前にいた奴のことかいぃぃぃ?」
「それだよ。お前が神田をやったのか」
「何の話だいぃぃぃ?厨房への扉の前に生体反応があったから扉を開けてみたらねぇぇぇ、その神田って人がいたんだぁぁぁ。それでねぇぇぇその時に試作中の仮死薬を彼に飲ましてみて実験体として研究室に持ち帰ろうとしたらねぇぇぇ、君たちが厨房に入りこんでくるものものだから咄嗟に逃げてしまったんだよねぇぇぇ」
「つまり神田は死んでないっちゅーことかいな?」
「そういうことだねぇぇぇ。それで多分君たちが我を追ってくるだろうと思ったからぁぁぁ、せっかくだしこの研究室でカッコよく登場してみたいと思ったんだよねぇぇぇ」
びっくりした。自称天才発明家にしては言っていることが滅茶苦茶なのである。一人称が「我」だし、登場する際全然カッコよく登場してなかったし、「ね」ばっかり多用してるし。
……それからのことはよく覚えていない。
「ソイツ」と何を話していたのか、何を聞いていたのか。
多分「ソイツ」のへんてこな機械で頭をやられ、記憶が一部吹っ飛んだのだろう。
ただ、覚えていることがあるとするならば2つ、
1つ目、仮死薬の効果が切れた神田は、ちゃんと息を吹き返したこと(この後ちゃんとケーキを割引してあげた)。
2つ目、俺、神田、相田、野々宮、場釜の5人は研究室への出入りをしてもよくなったこと。
あの研究室の謎は深まるばかりだが、まあいずれ分かることだろう。
何か頼りたくなったときはあの発明家に何か発明してもらうことにしよう。
【自称天才発明家ラビット・フロードゥの占いマシーンコーナー】
「天才発明家のラビット・フロードゥだよぉぉぉ。今日はねぇぇぇ、こないだ我の研究室の出入りを許可した人たちの運勢をねぇぇぇ、占いマシーンを使ってねぇぇぇ、占ったのぉぉぉ。
だからねぇぇぇ、その結果をここにねぇぇぇ、載せておくねぇぇぇ。」
会徒零字 哲郎: 情緒不安定気味。狂ってた方が物語的には面白くなるから心掛けよ。
神田 ああああ: イケメンキャラで腹黒い性格を持たないのはもったいない。もうちょっと悪に染まれ。
相田 太一: 内気な性格故に出番少ない。第2人格とかつけておけ。
野々宮 うん: 場釜と一緒にいる印象だが、単体でも十分活躍できるキャラなので頑張れ。
場釜 留出汁: 「俺も」ぐらいしか言わないから印象に残らない。名前がそれなんだからもうちょっとお馬鹿感を出せ。
もう疲れた。
これ以上描きたくないです。