放課後の名前供述師
人の名前が思い出せないときってありますよね?
そんなときは「あなた」を濫用したり極力名前を出さないような喋り方を心がけたりとかしてると思うんですよ。
でも俺、会徒零寺哲郎、は知っている。相手の名前を忘れない方法を。
やり方は簡単。まず相手の名前を確認したらすかさず紙に書く。そして相手に気づかれないように紙を相手のおでこに貼り付けるのだぁ!
こうすれば相手の名前を忘れても相手のおでこを見るだけで解決できるのだ。
しかし、未だこの方法を試したことがない。
どうやって相手のおでこに紙を貼ればいいか分からないからだ。
そのため、前に商店街でぶつかったピンクの髪のやつの名前が出てこなかった。「彼女」を濫用してなんとか誤魔化してたが、いずれこのやり方も効かなくなるだろう。
やっぱり、人の名前はコツコツ覚えるのが一番だ。
そのため、俺は今中学校にいる。椅子には名前が書いてあるシールが貼ってあるので、これを見て相手の名前を把握しようという寸法だ。
俺は真っ先にあのピンク髪の転校生の席の元へと向かった。
名前は……「赤沙汰那覇 魔屋良和」か。
読みに対して漢字が書けないタイプの名前だ。「赤い沙汰がある那覇、魔の屋上が良い感じに平和だ」で覚えればなんとかなりそうだ。
ずっと名前を暗記する作業を続けるこ15分。やっとクラスの人数分の名前を覚えられた。
やったぁ!今日は心おきなくクラスメイトの名前を言えるぞ!
という訳で放課後に今日は誰かを遊びに誘ってみよう。
放課後、最終的にクラスに残ったのは神田、相田、野々宮、場釜、赤沙汰那覇と俺の6人だけだった。
このメンツで何をして遊ぶかはまだ思いつかないけどまあ5人もいればそのうち思いつくでしょ。
遊びに誘おうとしようとしたところ、緊張して声が出なくなってしまった。
普通に誘おうとするから緊張するんだ。もっとこうダイレクトにアグレッシブに誘えば声も出るんじゃないか。
ということで大声出すことにした。
「おーい!神田ぁ!相田ぁ!野々宮ぁ!場釜ぁ!赤沙汰那覇ぁ!放課後に遊ぼおぜ!」
ちゃんと名前を言えた。キモチェェェェ!!!
もっと誘ってやろう。
遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!遊ぼうぜ!
「いや、今日家の用事があるから……」
「……ボクモ」
「あたしも」
「俺も」
「ワイもそうやわ、ほなさいなら」
見事に全員から断られてしまった。
そして教室は俺以外誰もいなくなった。
クラスメイト以外の名前を覚えていない以上、もう俺には放課後に誘える友達がいない。
「……。
うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
思いっきり叫んだ。
力に任せて思いっきり叫んだ。
学校の七不思議に認定されてもおかしくないほどに叫んだ。
「どうも、私が『うわあああああああああああああああああああああああああああああ 颯太』ですが。何の用ですか?」
いた。放課後に誘える友達。隣のクラスにいた。そういう名前のやつがいた。
ただの偶然だったが、もうめちゃくちゃ嬉しかった。
もうこれは誘うしかないと思った。
赤沙汰那覇よりも運命の出会いをしたと思った。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ君!遊ぼうぜ!」
「いいですよ。」
やった。遂にやった。とうとう誰かを誘うことに成功したんだ。
さあ、俺はよくやった。あとは思いっきり遊ぶだけだ!
「今日は何をして遊ぶ?」
颯太は俺の腕を強く掴み、言った。
「デスゲームとかがいいですね。じゃあ早速行きましょ。デスゲーム会場はあっちにありますから」
えっ?
今何て?
「だからデスゲーム会場はあっちにあるから行きましょうって」
えっ?
えっ?
「第1ゲームは『筆者の趣向当てクイズ』です。5問以上正解しないと撃たれます」
えっ?
えっ?
えっ?
「ちなみに参加したら夜が明けるまでは当分会場から出られませんからね」
……。
ヤバい。今日に限って「門限越えたら部屋に飾ってある赤沙汰那覇の写真をママ友の連中に晒す」と母ちゃんと約束してしまった。
このままじゃあのとき感じた俺の青春がモロバレになってしまう!
なんとしてでもそれを防がなければ!
「やだやだ帰る帰る!おい放せ!放せってば!おい聞いてんのか!」
「先に遊びに誘ってたのはどちらでしたっけ?」
「……」
追随を許さぬその一言は、俺を黙らせるのには十分であった。
なんやかんやでデスゲームに参加したてっちゃんでしたが、第1ゲーム「筆者の趣向当てクイズ」に見事全問正解し、ボーナスとして無事に解放されましたが、帰り道が分からなかったので結局門限を越してしまいました。
めでたしめでたし。