恋と死、俺と天啓(いやーそれにしてもコメディー書こうと思ったら少し恋愛系っぽいのが混じっちゃうとは思いませんでしたよフヒー)
朝のニュースの占い。それは忙しい平日の朝に存在する唯一の娯楽である。
しし座生まれの俺は、たまに星座占いのコーナーを見る。
たまに見るからこそ、占いは面白いのだ。
そして今日のお天気お姉さんは言った。
「ここでアドバイス、しし座の人はケーキにブルーベリーを乗せてみましょう」
ちょうどいい。俺ん家はケーキ屋だからケーキなんて腐るほどあるわ。
そう思い、今日が祝日だったのもあって俺は急いでブルーベリーを買いに行くことにした。
「母ちゃん今からブルーベリー買いに行くわ。家で待ってろよ」
「じゃあ夕方の5時までには帰ってきなさい。帰ってこなかったらあんたのベッドの下にある薄い本をママ友の連中に晒すからね」
(げげっもうバレてたのかよ……)
そうして俺は急いで玄関から出ていった。
俺が住んでいる街「赤手」は日本にあるとある盆地の中にあって、人口は1万人ほどとそこまで多くはない。
しかし、この街には大きな特徴があって、それは市役所の建物を中心に街が円形を描いているのである。パリの凱旋門周りのあの感じの街並みが、赤手には街全体に広がっていると思って貰えばいい。
俺が通っている中学校の校区は市役所から見て南の方にあり、色んなものが売っている「 頃須蔵商店街」は市役所から見て西にある。スーパーマーケット「オバドズ」は自宅の近くにある。
オバドズはまだ開いていないとみたので、まずは商店街から行くことにした。
商店街には老人たちがたくさんいる。老人は早起きだから、お店も早くに開く。
とりあえず果物を売っているお店を探し回ることにした。
朝の静かな商店街は、自然と心を穏やかにしてくれる。鳥の囀る声とかも聞こえたがそれがより一層閑静な空気を生み出している。
注意深く耳を立てながらしばらく歩き回っているうちに、俺は思いもよらず運命の出会いをした。
食パン咥えた誰かが右の角からぶつかってきたのだ。
ぶつかられた俺は、転倒してしまった。相手の顔はまだ見てない。
もしかしたらクッッッッッッソ可愛い美少女かもしれない。だが、太り気味のキモおっさんとぶつかっている可能性も捨てられない。
どっちなんだ!?一体どっちなんだ!?
答えはCMの後で!!!
<CM>
おじいちゃんからお年玉をせしめたいそこのあなた!この商品を試して見て!
ジャジャーン!「ゼッタイノドニツマル餅〜」この餅を使って、相続金がっぽり!
さあ、あなたも試してみませんか?
お電話:0120-☆☆☆-315
パポローん星直販です!
答え:第2話にいたあのピンクの髪の奴(転校生という設定)
ぶつかって倒れている彼女を見た瞬間、戦慄が五臓六腑に走った。戦慄はチーターよりも早く走った。
なんと、彼女の右膝に擦り傷ができているではないか!
一瞬、「擦過傷で作家賞受賞」とかいうギャグが脳裏を駆け巡ったが、そのうちそんなことはどうでも良くなった。
(絶対慰謝料請求される絶対慰謝料請求される絶対慰謝料請求される絶対慰謝料請求される……!)
もう逃げたい気持ちでいっぱいだった。
I have to get out of here.
不逃跑就会被起诉。
이 문장을 번역하다니 꽤 한가해요?
逃げるしかもう道はないぞぉ!
体が自然と短距離走の構えになったそのときだった。
(待ちなさい……逃げてはダメです……)
なんだこれは。誰か喋っているのか。
分かった。天の声だ。なんか妙に目の前が光ってるし暖かいし。
間違いない。天の声だ。
(謝りなさい……謝って、彼女と仲直りしなさい……)
謝りなさい……って、何を謝ればいいんだよ。
(先週の黒スプレー騒動のことです……)
なるほど。謝ればこれ以上慰謝料を請求される心配はなくなる。確かに謝ってみるのもありだな。
よし、謝るか。
気がつくと意識が商店街に戻っていた。
体が短距離走の構えから解かれ、足が彼女の元へと向かってゆき、手は自然と彼女の元へと伸ばされる。
「たいじょーぶか?」
伸ばされた手を掴み、彼女は起き上がる。
「うん……大丈夫……いてっ」
痛そうにしてるその表情は可愛いかった。特にピンクの髪とか猫耳とか。やっぱアニメ調の女性キャラクターは作画崩壊のとき以外はいつ見ても可愛いものだ。
思わず頬が赤くなる。頬のオーバーヒートが発生した。頬から伝わった熱はいずれ腕に伝わり、指先に伝わり、そして彼女の元にと届いた。
「あっつい!」
彼女は思わず掴んだその手を離してしまった。
「すまんな。小学校の頃のあだ名が『熱伝導』だったんだ。体質だからしょうがない」
「どんなあだ名なんですか!?」
とりあえずおどけてみた俺を見て、彼女はツッコミを入れる。
茶番はここまでにしてそろそろ本気で謝ろうと思う。
「……怪我、ないか?」
「ああ、大丈夫だから。大丈夫大丈夫」
作り笑顔してもバレバレだぞ。ほんとは大丈夫じゃないのが見て分かる。
「嘘つけ。絶対大丈夫じゃないぞ」
「いや、本当に大丈夫だから……」
「ポケットから絆創膏と消毒液、あと消毒用にティッシュ取り出したるわ。ちょっと待ってな」
……はい、出しました。
「わあすごい……まるで_____のポケットみたいだね……」
「……」
ここで版権キャラクターの名前を出すのはやめてくれ。なんとなく変な雰囲気になるじゃないか。
そんな気持ちを顔に出すのを我慢しながら、俺は彼女の傷を消毒&ケアした。
「はい、終わり」
「ありがとう……それじゃあね」
「あっそうだ」
「……何?」
「……先週に、黒スプレーかけて……すいませんでした!」
全身全霊かけて謝った。背中を90度近く曲げて謝った。この気持ちが届くように必死に謝った。
「……大丈夫。あのときのこと、気にしてないから。むしろ両親の方がめちゃくちゃ気にしてたから。だからね、気にしなくて大丈夫だよっ」
彼女の笑顔を見て、美女の笑顔ほど見惚れてしまうものはないと俺は知った。
「バイバイ」
「ばいばーい」
しばらく話をしてから別れた。
彼女曰く、なんでこの商店街でパン咥えて走ってたかというと、「今日の占いのアドバイスでそうすれば良いと言われてたから」だそうだ。
そして驚くべきことに、俺と彼女は生まれの星座が一緒どころか、誕生日まで一緒だったことが判明した。
占いのアドバイスが違っていたのは、多分見ているチャンネルが違っていたからなのだろう。
かくして、俺は無事に謝ることに成功したのである。
正午ぐらい、俺は歩き疲れていた。
どこの青果店を回ってもブルーベリーだけが売っていないのである。
噂によると、ブルーベリー農家が便秘で3日間ずっとトイレに籠っている原因でブルーベリーが出荷できないというのだ。
それにしてもブルーベリー農家1人がこんなにも影響を及ぼすとは。
農家人口の減少化はつくづく恐ろしいものである。
あと一軒だけ店を回ったら今度はスーパーに行こうと思っていたそのとき、俺はとある青果店を見つけた。店名は「毒の果実」。すごいオシャレな名前の青果店だな。
その店の中で俺は、「ベラドンナ」という商品名の果物を見つけた。見た目は少し色が濃いが間違いなくブルーベリーである。
おそらく「ベラドンナ」というブルーベリーの品種があるのだろう。
ようやくブルーベリーを見つけた俺は、ベラドンナを購入。
その後はすぐに家路についた。スーパーに寄っていく必要がないと思うと、自然と体が軽くなった。
スキップしながら帰ることにした。
家に着いた俺は早速、親の作りかけのホールケーキにベラドンナという名のブルーベリーを乗せ、仕事のお手伝いをした。
完成したホールケーキは、ケーキ屋でよくある、ガラス張りの冷凍陳列ケースに置かれた。
数時間後、この店の常連客の中でもこれまた常連客である、Ms.田中がベラドンナのケーキを購入した。
暇だったので、話をしてみた。
話してみて分かったことだが、Ms.田中は最近結婚して新居で夫婦生活を送り始めたのだそうだ。(つまり、Ms.田中は間違いで、正しくはMrs.田中なのだ。)
そのため、記念で夫と2人でホールケーキを食べようとしたのだそうだ。
話を終えると、Mrs.田中は急ぐようにして店を後にした。俺は「ありがとうございました」の一言を忘れずに言った。
自分の作ったケーキで田中さん夫婦が幸せになりますように。
〈後日談〉
あれから5日経つが、あれからMrs.田中は一切この店に来なくなっていた。理由は不明。
常連客の中でもこれまた常連客の彼女は、どうしてこなくなってしまったのだろうか。
そんなことを考えている最中、久しぶりに天の声がした。
(聞こえるか若者よ……聞こえるか若者よ……)
また出たか。今回はなんの用だ。
(Ms.田中……じゃなかった……Mrs.田中の訃報を伝えに来た……)
は?つまりMrs.田中死んじゃったの?
なんで?
(死因は5日ほど前に摂取したアトロピンによるものじゃ……)
どういうことなん?自殺なんか?他殺なんか?
(自殺ではない……あと、おそらく死体は発見されないだろう……だって彼女違う男の家で死んだんだし……死体は海に捨てられたんだもん……)
うーわひっど。それって完全に殺人じゃん。
そうしてるうちに天の声は途絶えた。
それにしても、彼女を殺した人物って一体誰なんだ?
問題:Mrs.田中を死に追いやった犯人は誰でしょーか?(正解するとハワイ3泊4日の旅行券がもらえる夢が見られます)