序章(的なアレ)
とある街の学校裏山の山頂、街を一望できるこの場所でぴゅうぴゅうと風が吹いていた。
山頂に咲く一本の桜は、風に煽られ花びらを散らしてゆく。
花びらが舞うその風景は、とても華麗なものだったが、勿体ないことに山頂には1人たりとも見物客がいないのだ。
それでもなお、桜は独り悲しげに花びらを散らしてゆく。
「せっかく美しく花を散らしているのに、見てくれる人がいないとは残念だ」
と桜は思う。桜でも物事を考えることはあるのだ。
ここ最近、いつもよりも街は活気付いてる。
お祭りが開催されるからだ。
お祭りの熱気に負けんばかりに街の人々は家やお店に飾りを付け、お祭りを始める準備に取り掛かっている。
長年生きてきた桜にはそのお祭りが一体どんなものなのか、分からなかった。
気になった桜は、今自分の下で休んでいる白い小鳥に問うことにした。
「すまないが、よろしいかね?」
「はい、なんでしょうか」
「今、気になることがあってだね。少し質問してもいいかい?」
「いいですよ。ところで質問とは一体なんなのでしょうか」
「街の人たちは、一体なんの祭りの準備をしているというのかね?」
「それは……えっと……その祭りのことを母から一度聞いたことがあるのですが……」
「その祭りとは一体どんなものなのだい?」
「それは……桜を一本伐採して、神社に祀るものだと聞いたことがあります」
「……はい?今なんと?」
「桜を伐採して、神社に祀るための祭りだと言いました」
「……」
すると、山の麓から何かの足音が聞こえてきた。
それも1人の男の。
「うおーっし、伐採するぞぉぉぉ!!」
ブルウウウウウゥゥゥゥゥゥンッッッ
チェンソーをポケットから取り出したその男は、一直線に桜の元へと走っていく。
「それじゃ、あとは任せましたよ」
と鳥は言うと、空に向かって大きく飛び上がり、山の向こうへと行ってしまった。
「……えっ」
桜はようやく口を開いた。
ただもう遅かった。
「喰らええええええっっっっっっ☆☆☆」
「ギョエエエエエエエエエエエエエエアアアアッッッッッッ!!!!!」
桜は声を出さずに断末魔を上げ、
4月18日13時21分、桜は死亡した。
根本から切られた桜はあえなく花びらと命を散った。
まあ、そもそも植物は生きてすらないから生死も何もないけど。
ちなみに、この桜を切った人物、実は主人公である。
「てっちゃん」と呼ばれている、赤手という地名の街に住む12歳の中学一年生かつ馬鹿。
以降、コイツを中心に物語は進んでいくので覚悟するように。
なお、切られた桜は神社の方々が美味しく頂き、無事に祭りは終わりを迎えましたとさ。
めでたしめでたし。