1話 前世
♦初投稿なのでまだ機能や仕様がよく分かっていません。すみません。
3日坊主にならなければ徐々に覚えていきます……。
赤ん坊のころの真鍋はテレビが好きだった。
好みが多様化した現代においては乳幼児をくぎ付けにしておく役割はyoutubeだったりアニメ配信だったりするのかもしれないが、とにかく当時の真鍋家ではそれはテレビの役割だった。
しかし幼い日の真鍋はお笑いやスポーツ中継、アニメやドラマや特撮番組などおおよそ子供が好きそうなものには一切興味を示さなかった。彼はたまたま目に張ったマナー講師がスパルタレッスンでマナーを伝えるバラエティ番組だけを延々とリピートし続けたのだ。
その一線を画した嗜好は両親を困惑させたが、見たいように放送や録画を自由に見せてやると夜泣きもせずグッスリ眠ることに気付いてからは、「子供ってたまにワケが分からないもの好きになるよな。俺も昔は洗剤の空ボトルを集めていたらしいし」 「そうね」と深く考えなくなった。
問題が起こったのは真鍋が高校生になってからの事だ。
高校に入学した真鍋は、学友と交流を深めるでも勉学に励むでもなく、ほぼ赤ん坊の頃と同じようにとり憑かれたように例の番組の本放送と録画を視聴していたが、その生活は急速に終わりを告げることになった。
番組は急遽、最終回を迎えることになった。深夜帯の人気番組がゴールデンに降りてくるので、枠が無くなるのだという。
真鍋はいずれ訪れる終了を知ったその日に「録画は?」と居間のレコーダーを確認した。真鍋家には録画機器が1台しかなく、ほかの家族は健常なので各人が思い思いの番組を録画していた。
当時の真鍋家は父・母・妹と本人からなる4人家族だった。
つまり2テラバイトの容量があったHDDは自然とほぼ4等分され、今後真鍋が視聴可能な録画はたった500ギガバイト分という事になる。
この事実は彼を苦しめた。
これが番組終了を知った1日目の出来事である。
2日目は悪夢にうなされ、夜中に叫びながら中途覚醒した。
この騒音は隣の部屋で眠っていた妹も苦しめた。
3日目はストレスにより昼食が腹に入らなかった。
母親はせっかく持たせた弁当を1口も手を付けないまま廃棄する事に苛立ち、口論となった。これは母にとってストレス要因となった。
4日目は家庭内不和を危うく思った父親が真鍋を注意したが、のれんに腕を押すような反応しか返ってこなかった。
父はこれが元から意思疎通困難な性格に育ってしまったのか一時的なショックによるものなのか分からなかった。
5日目に真鍋は失踪した。
6日目。一家は警察に捜索届を出した。学校にも家に帰ってきていない旨を伝えた。
だが、明日はいつも食い入るように見ている番組の最終回放映日である。
今は弱っているが見逃すわけはないだろう、
明日には帰ってくるだろうと楽観視していた。
7日目になっても息子は帰らない。
警察に連絡し、大規模な捜査が始まった。
テレビでも報道された。皮肉にも、本人が楽しみにしていた番組の裏番組のニュースだった。
しかし息子は見つからない。
いよいよ本格的に事件性を感じ始めた真鍋家では家族会議が開かれた。
議題はもちろん息子の捜索についてだ。
警察からは定期的に進捗報告が来るものの、芳しい結果は得られなかった。
翌日、警察の必死の努力も空しく、彼の遺体が発見された。
警察は死亡推定時刻を深夜12時から翌早朝にかけてと発表した。死因は衰弱死だという。
発見現場は彼が通っていた高校のプールであり、最後に目撃された日と同じ服装で発見された。
外傷はなく、また水死体特有の腐敗臭もなかった事から、恐らくは死後数時間程度だろうと考えられた。
遺体はプールの底に沈んでいた為、引き上げる際、水深50センチほどの深さがあるにも関わらず、浮力によって浮き上がった。
プールサイドには遺書とみられるメモ書きが落ちていた。
『俺はもう限界です』
警察には自殺として処理された。
多分、次回転生できると思います
(死ぬだけで終わってしまった)