92話 3人の婚約者
屋敷へと向かう武具保管庫内でみんなで色々と話していると、フェルが話しかけてきた。
「マスター、ちょっと良いか?」
「どうした?フェル」
「マスターって一体何者なんだ?海底に沈んでいたって言ってたからかなりの肺活量が必要なはずだからそう思ったし、オレが言うのもなんだが、マスターに試練として戦わせたのは普通の人間だけじゃなく、オーガ以上の強さと実力がなければ倒せないように設定していたから、そいつを倒せるのがただの人間じゃないだろって思ってな」
「それはそのうち話すよ。だが、今は話せないことは理解してほしい」
「分かったよ」
「あの……ずっと気になっていたのですが、先程からフェルさんが呼んでいるその「マスター」って、どういう意味なんですか?」
エリアがフェルに対してそのような質問をする。すると、フェルが驚きの発言をする。
「マスターってのは、一生側にいる存在っていう意味だな。簡単に言うと妻ポジションってわけだ」
「つつ、妻!?春人さん!それはどういう意味ですか!私そんなこと全然聞いてないんですが!?」
マスターってそういう意味じゃないから!!
訂正を求めようと、フェルの方を見ると、フェルがニヤニヤと笑みを浮かべていた。わざとかコイツ……。
「春人様!いくらなんでもエリアさんみたく出会って当日で婚約はどうかと思います!私だってまだ春人様のことが好きだってちゃんと言ってないのに!」
ん?今、トワがなんかとんでもないことを言わなかったか!?
「トワ、今とんでもないことを口にしなかったか?」
すると、自分が勢いで言ったことを思い出したのか、トワの顔が見る見る赤くなる。
「トワさん!?抜け駆けはずるいです!」
抜け駆けって、君もなのかよ!?トリス……。
「どうやらうちのマスターはモテモテのようだな」
「ほんと、困った子ね」
そう言いながら、フェルとマリンがこっちを見ながらニヤニヤと笑み浮かべている。楽しそうにしやがってからに。
「とりあえず一旦落ち着け、2人共。まずこの話は一旦屋敷に戻ってから話そう」
そうして屋敷へと着き、マリンと別れた後、さっきの話の続きをすることとなった。
「さっきは、一体どうしたんだい?突然あんなことを2人して言い出してさ。もしかして、フェルの影響だったりするのかい?」
「それはその……」
「フェルさんがあんなことを言い出したって観点からしたら確かにフェルさんの影響もあるのかも知れませんね。ですが、それだけであんなことは言いませんよ。ね、トリスさん」
「ト、トワさん!?ここで私に振りますか!?」
「トリス。私がこう言うのもなんだけどさ、今すぐ無理して言わなくてても、後から気持ちが落ち着いたらで良いからさ。それまで私は自分の部屋にいるから、その時になったら私の部屋に来ると良いよ」
私はそう言って自室へと戻った。
部屋の中で【ストレージ】からノート型パソコンを取り出して今回のミランダンジョンについての追加情報と『武具保管庫』についての報告書を作成して、本部へと送信する。
刀の手入れをして、ベッドに横になる目を瞑る。
それにしても今日一日で結構なことが起こったな。『武具保管庫』の発見や他のベリルベルの存在にあの2人の告白……本当にかなりのこと出来事が起こったもんだな。
こういうのは正直どう対応すれば良いのかわからないんだよなぁ。
しばらくベッドで横になっていると、横に置いていたスマホに着信が鳴る。
誰からだろうと確認すると、エルナント様からだった。
「はい、もしもし春人です。急にどうしましたか?エルナント様」
「なんか、おも…ごほん!大変なことになっているみたいですね?」
「今なんか、面白そうだと言いかけませんでしたか?まあ、良いですけども……それで、何のようですか?」
「あ、そうでした。今の状態を解決出来るかも知れない者が丁度私のところにいましてね。一度神界に来ていただけませんか?」
「分かりました。此間同様、エルナント様の生活空間に行けばよろしいですか?」
「そうですね。そうして下さい」
一応呼び出しがあったと書き置きを残して、【ゲート】を開いて神界へと向かった。あの書き置きだと、スターズでの呼び出しだと思うだろうが、今はまだそれで良い。流石に神のことは話せないし、そもそもそう簡単に理解されないと思うしな。
「来ましたね。とりあえずお茶でもどうぞ」
「ありがとうございます」
エレナント様が急須で緑茶を注ぎ、目の前に出してくれた。
そしてその緑茶を一口飲む。美味いな。
「お口に合ったのなら何よりです」
そうだった。神界では意識しなければ心の声がダダ漏れだったな。
「あの、エレナント様が会わせたいって言ってたのは、エレナント様の隣にいるその方ですか?」
「あれ、その口振りだとどうやら彼女のことを憶えていないようですね」
「会うのは初めてだと思っていたのですが、以前何処で会ってましたっけ?」
「ほら、春人さんとアリスの結婚式の時ですよ」
「……もしかして、恋愛神のリナリア様?」
「やっと思い出してくれたようね。改めて、恋愛神のリナリアよ。よろしくね春人君。と言っても言葉を直接交えるのは今回が初めてだけどね」
「それで、リナリア様と会わせていったいどうしたいんですか?」
「今、悩んでいることを彼女に相談してみると良いと思いますよ。春人さんが悩んでいるのは恋愛事だというのはここでリナリアと一緒に観ていたので大丈夫ですよ」
「エレナント様。いくらなんでもプライバシーの侵害というものですよ。今回は相談相手が必要だったのも事実でしたので許しますけれども、あまり観ないでいただけると助かります。私にもプライバシーというか、秘密にしたいこともありますのでね」
「そうですよね。すみませんでした。今度からはあまり観ないようにしますね」
「そうしていただけると助かります」
「あのー、そろそろ私も春人君と話したいんだけども良いかしら?」
「ごめんね、リナリア」
「良いですよ。それで今、春人君が悩んでいるのは、2人の告白なんでしょ?」
「確かにその通りです。あの時いきなり2人に告白され、正直どうすれば良いのか困惑しているのです。私はスターズの最高幹部である五星使徒の一柱です。それに最近、私が今いる世界は少し不安定な状態です。ですので、婚約したとしてもこれから先、仕事の関係で一緒にいれる時間が少なくなる可能性もあります。それに、私が一番危惧しているのはそんな任務に彼女達を巻き込んでしまうことです」
リナリア様は、私の話をうんうんと相槌を打ちながら真剣に聴いてくれた。
「確かに春人君の言いたいことも理解できるわよ。でもね春人君、その2人は春人君がそういう立場にいることを知っているのよね?」
「ええ、トワはトリスよりも前から知っていますが、いつも行動している彼女達も全員が私の正体を一応知っています」
「だったらべつに問題はないと思うわよ」
「だとしてもですよ?王族であるエリアや元々私の側にいて私の仕事をよく知っているトワならば、私と一緒にいる覚悟も持てると思います。ですが、トリスはただの一般人で私と一緒にいる覚悟は持てないと思います」
「なんでそう思うの?」
「エリアやトワとは違って、スターズのことについてもあまり知りません。それに、あの2人は自分達も私の事情に巻き込まれる事を理解して着いてこようとしています。ですが、トリスはただ一時の感情で私に告白をしているように感じました。ですので、正直覚悟が無いのに私と婚約したとしても、もしもの時に正しい判断が出来ないと思っています」
すると、リナリア様が私が言ったことに否定する。
「本当にそう思うのなら、春人君はトリスちゃんのことをちゃんと見ていないわよ。彼女はちゃんと春人君のことを理解したうえで告白したのよ。だからトリスちゃんのことを見てあげなさい。それにさっき春人君はもしもの時に正しい判断が出来ないと思っていると言ったけれども、それは春人君も同じことが言えると思うわよ?」
「どういう意味ですか?」
その言葉の意味が分からなかった私は、リナリア様にその言葉の意味を尋ねる。
「昔、春人君もアリスちゃんの件で正しい判断が出来なかったでしょ?だから、決してトリスちゃんだけに言えたことではないと思うわよ」
「リナリア!春人さんだって、あの件に関してはかなり気にしいるからこそ、さっきああ言ったんだよ。だからあの件に関してはあまり春人さんのいるところでは言わない方が良いわ。春人さんもかなり気にするからね」
そう言って、エルナント様が私のことを気遣ってくれた。
「あの件に関しては、もう良いんです。確かにあの時に正しい判断が出来なくてあの悲劇を生んでしまって悔いが残っているのは事実ですが、もう以前よりも気にしていないので大丈夫ですよ」
「ごめんね、気が利かなくて」
「もう良いですって」
私はそう言いながら、愛想笑いを浮かべた。
「ところで春人君。話を戻すけども、彼女達との婚約の考えは決まった?」
「ええ、元々エリアとも婚約していたので、婚約する方向だったのですが、やっぱり迷ってしまっていましたが、ここでリナリア様達に話を聞いてもらったおかげで、答えが決まりました」
「そう。なら良かったわ」
「それじゃあ、私はそろそろ戻るのでこれにて失礼しますね。【ゲート】」
【ゲート】を屋敷の自室へと開き、2人に別れの挨拶を済ませて、侵害から戻った。
すると、丁度ドアからノックが鳴った。
「春人さん。エリアです。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「良いよ」
「失礼します」
エリアがドアを開けて中へと入る。その後ろからは、トワとトリスも一緒に部屋の中へと入って来た。
「2人がここに来たってことは、考えが決まったってことで良いのかな?」
「はい。私はやっぱり、春人さんと一緒にいたい、です」
「そうか……トリスの考えは分かった。エリア。トワとトリスをエリアと同じ婚約者としてエリアと同じく扱いたいと思っているが、良いかな?」
「私は、皆さんと同じく大切にしてくださるのであれば文句はありません」
「そうか。君が良いのであれば安心したよ。トワ、トリス。君達をエリアと同様婚約者として一緒に暮らすわけだが、良いかな?」
「はい!」
「もちろんです。春人様!」
こうして、新たにトワとトリスの2人の婚約者が出来たわけだが、これからも今までと変わらずに過ごせれば良いなと思うのだった。
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