77話 帰省と戦
「まずいってどういう意味?」
「今、その『フェアラート』による盗品の捜索を行なっているんだが、もし今マリンがまだその記録書を持っているんならすぐに手放した方が良い。もし所持している状態で担当部隊にバレてしまうと私でも庇うことはできないからな」
「春人でも無理なの?」
「まず、捜査担当が五星使徒の管轄ではないというのが大きい。そして、これらを担当するのが監察室の情報部隊と特殊部隊だ。監察室が捜査を担当しているとなると、五星使徒である我々でさえ監察室の捜査に口出しすることは困難なんだよ。なんせ監察室は、スターズの中では独立した捜査機関で、その権限は我々とほぼ同じぐらいだから私も今回の件に関しては下手に動くことができない。下手をすれば私の首が物理的に飛ぶ可能性が高いからな」
「分かったわ。今すぐに処分したいからお願いできる?」
「分かった……ん?今すぐって言ったか?もしかしてだが、今持って来てるのか?」
「一応参考にと思って持って来てたのよ。貴方に渡した方が良いわよね?」
「そうだな。私が持って行くことにするよ。売られていたことも伝えるからマリンが『フェアラート』と繋がっているとは思われないと思う。もし疑われても私がなんとかするから安心してくれ。少なくともリストに載ることはないからさ」
「なんか、今凄い恐怖を感じたんだけど……」
私はマリンのそんな言葉を無視して話を続ける。
「本部にその記録書を持って行くついでにミランダンジョンへの立ち入り許可も貰ってくるよ。少し時間がかかるから少しここで待っていてくれ。あ、リース。今日は夕飯私の分は必要ないと伝えてくれ。それの代わりにそこの2人の分の食事を用意しておいてくれ」
「わかりました」
「あ、私は王城に戻るので必要ありません」
「だったら私の分の食事をマリンにやってくれ」
「そんなに時間かかるの?」
「ああ、あの監察室のじじい共はいつもしつこいうえにうるさいんだよ。大体、なんであそこまでスターズの存在を隠そうとするのかが私には分からん。私個人としては畏怖の象徴として公開するのもありだと思っているのにあの古臭い考え方をした老害共のせいでスターズの存在が公になるのを防ぐために呪いをかけて脅さなくちゃならないんだよ。まったく面倒くさいったらありゃしない。そもそもあのじじい共は五星使徒のメンバーよりも古参の奴等が多いうえに、伊達には古参の奴等だけあって実力もある。その実力は、私と同等かそれ以上の実力があるから余計に面倒くさい。それに……って、君達に言っても仕方ないか。愚痴に付き合ってくれてありがと。それじゃあ、行ってくるか。【テレポート】」
【テレポート】で本部に着いた私は、早速監察室の捜査担当に盗品の一つである記録書を渡しに向かった。
一方、屋敷では春人のことでみんな話していた。
「あの春人様があそこまで口調が変わりながら私達に愚痴思いませんでした」
「そうですね。少しは信頼というか安心しているということなのでしょうか?」
「そうなんじゃない?少なくとも今までの春人はここまでスターズの話しをすることは無かったし、愚痴を漏らすくらいの存在にはなっていると思うわよ」
「そうですね。春人殿にもっと信頼……愚痴などを漏らしてもらえるレベルになれるまで頑張りましょう」
「はい。そうですね!」
その頃本部では、春人がミランダンジョン立ち入りの申請書を書いていた。
「はい。確かにミランダンジョンへの申請書を受理しました。期限は1週間となっておりますので、それ以上過ぎるようであれば、延長届けを提出して下さい」
「ああ、了解した」
申請書を施設局に出して屋敷に戻り、許可が出たことを伝える。
「それじゃ、行きましょ」
「そうしたいんだが、私は生憎イシュタリカに一度も行ったことがないから【ゲート】の対象外だし、【テレポート】で向かったとしても位置座標が分からないから行くことができないんだよ。どうしたもんか……」
「無属性魔法【コレクト】というのを知っているかしら?」
「たしか、相手の記憶を見る魔法だったはず」
「その通りよ」
「なるほど……つまり、イシュタリカ出身である信女から【コレクト】を使ってイシュタリカの記憶を読み取って、それを私の記憶として変換した後、【ゲート】を使ってイシュタリカへ行くということか」
「ええ」
「だが【コレクト】は、相手に読み取られた記憶を無くす可能性がある魔法だ。そう簡単には使うことは出来ない」
「【コレクト】にそんな副作用あったかしら?」
「あまり知られていないが、実例がある。だから今回は【コレクト】と似たような効果を持つが、私が知る中で【コレクト】のような副作用は一切ない無属性魔法【メモリーサーチ】を使おうと思う」
「【メモリーサーチ】?聞いたことない魔法ね。まあ、無属性だから当然かしらね」
「この【メモリーサーチ】の能力は、術者が知りたい相手の記憶を脳内の記憶領域から読み取って見ることが出来る魔法だ。だから信女にやるんだったら【コレクト】よりも【メモリーサーチ】の方を使わせてもらうぞ」
「私は別に良いわよ。そもそも私は【コレクト】意外に記憶領域に干渉出来る魔法を知らなかったから、より安全なんならそっちの方が良いと思うわ」
「信女はそれで良いかな?」
「はい。構いません」
「それじゃ、力を抜いて。良いよその調子。いくよ。【メモリーサーチ】」
信女の記憶領域からイシュタリカの風景を読み取って、私がその読み取った記憶を脳内で再生した後【ゲート】を開く。
「【ゲート】」
【ゲート】を開き私が先頭となり【ゲート】を潜ると、そこは信女から読み取った景色とまったく同じだった。
その景色は、イシュタリカ……信女の故郷であるエドの景色を一望出来る場所から見ることができた。こうして見ると本当に江戸のような街並みなんだな。
「春人殿。その、実家に一旦戻っても良いですか?」
「構わないよ。せっかく来たんだから帰らないわけにもいかないよね。私達も一緒に行っても良いかな?」
「もちろんです!皆の事を父上や母上達に紹介したいです」
【ゲート】を開いた山からエドまで下山し、街を歩いていると、ふと街の様子がおかしい事に気づいた。
「信女、エドというのはたしか第二首都だったよな?」
「はい。そうですけど」
「エドというのは普段からこんなに暗い感じなのかい?」
「確かになんだか様子がおかしいですね……。とりあえず実家に行きましょう」
「そうだね」
工藤流剣術道場と書かれたあるこの大きな屋敷の様な建物が信女の実家だ。
片引き戸を信女は勢いよく両方開いて建物の中に入る。
「誰かいるか!」
「はい、少々お待ちを!」
そう奥から聞こえて来たと思うと、1人の女性が玄関に出て来た。
「信女様!お久しぶりです!」
「久しいな、沙織!」
沙織と呼ばれた女中が信女に駆け足で近づくと、信女の手を取った。
信女もまた、沙織の手をそっと握った。
「お帰りなさいませ、信女様!信江様!信女様がお戻りになられました!」
沙織が奥へ向けて声をかけると、奥の方からもう一人バタバタと駆け足でこっちに向かって来る音が聞こえてくる。そして、年齢は三十代前半から後半の、藤柄の着物着た優しそうな雰囲気を漂わせた女性が姿を現した。信女にそっくりだった。多分この人が母親だろう。
「信女!よく無事に帰って来ましたね。……本当に無事で良かった」
そう言って信女に涙目になりながら抱きつき、信女も嬉しそうに抱きしめた。
そして、信江は満足した表情で顔を上げ私達を見ると少し驚いた表情を見せた。おそらく信女のことしか見えていなかったのだろう。
「信女、その方達はいったいどなた?」
「拙者の仲間達です。旅の途中で大変世話になってい人達です」
「それはそれは……。信女がお世話になっているようで、ありがとうございます」
「顔を上げて下さい、信江さん。こちらとしても信女には世話になっていますので」
深々と頭を下げる信江さんに、優しく顔をかける。子を思う親の気持ちというやつなのだろうか。
……そういえばあの子達にはこうやって親としてちゃんと接していただろうか?今思えば、訓練だったりと言って、スターズに者になるのを当たり前に思わせていたかもしれん。親ならば、あの子達の将来はあの子達が見つけ出す必要があったんだと今ならそう思う。
そういうのが昔頭の中にあったんならば、少なくとも桜を死なせることはなかったかもしれない。
「どうかしたのですか?春人殿」
「いやなんでもないよ」
「そうですか?ところで母上。父上と兄上はどちらに?みんなを紹介したいのですが」
「残念ながら2人はここにいません。2人は、北西の砦に殿と、そして、織田領の兵と一緒にいます」
「まさか……」
「戦です」
まさか三方ヶ原の戦いか?
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